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27話 利用価値
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他人の命を犠牲にして生き続ける。それが弟の物であっても。
ディストたちの世界の俺が皇帝として優秀な存在なら、誰かの死を糧に生かされ続けるのも仕方がないのかもしれない。
祖父だって沢山の臣下や親しい人たちの亡骸の上に国を建てた筈だ。
別世界の俺やディスト達も大陸を征服したというからにはそれ以上の屍の上を踏み越えてきたに違いない。
けれど、そんな生き方はしたくない。
そう思う俺は矢張り皇帝には向いていないようだった。
もし鮮血皇帝と呼ばれている俺が、この俺とあまり変わらない性格や考え方をしているならこの先も地獄が待っているだろう。
俺の心を見透かすように隻眼のディストが尋ねる。
「貴男も、私たちの世界を失敗だと言いますか?」
「……それは俺が決めることじゃない」
意外なことにディストは驚いた顔をした。別にそこまで突飛な事を言ったつもりはない。
俺は彼らの世界に生きていない。俺は彼らと共に歩んできた訳ではない。
悪く言ってしまえば完全に他人事だ。リヒトは兎も角、何も関わっていない俺に後悔する権利も失敗だと断じる権利もない。
「意外ですね。貴男は彼の味方をすると思ったのですが」
「失敗したと言ったのはやっぱりリヒトだったのか」
「ええ、そうです。まあ彼にとっては事実なのでしょうけれど」
恐らく彼が失敗だと言ったのは彼らの世界の事ではなく、自分の行動の事だ。
そう説明しようと思ったが、自分が彼の心情を知ったように話すのもおかしい気がして黙っていた。
リヒトにとっての正解は分かっている。
俺がカインに謝罪し、思い切り甘やかし死ぬまで幸せに暮らすことだ。本人がそう命じてきたのだ。
つまり二回目の世界、このディストがいる世界ではそれは満たせなかったのだろう。だから失敗した。そう盲目の賢者は考えている筈だ。
だが前半の二つは兎も角、死ぬまで仲良く幸せに暮らす、それは予想以上に困難なことだと俺は気づき始めていた。
「……リヒトのせいでカインが不幸な死を迎えたと言うのは」
「どれだけ苛烈な拷問を受けても貴男にかけた魔術を解かない彼に業を煮やした黒獅子は、親友の目の前で自らの首を切り落としました」
自分が死ぬのが嫌で抵抗を止めないなら、その理由を消し潰してしまえばいい。シンプルな話ですよね。
そう淡々と言うディストの腕の中で俺は吐き気を堪えた。不幸中の幸いなのは想像したのが成人後のカインだということだ。
もし今俺を兄と慕ってくれている幼い少年の姿でイメージしたなら、衝撃はもっと深かっただろう。
「皇弟殿下の亡骸を前に彼の死を無駄にするつもりかと説得したらすぐに水晶化を解除しましたよ」
「……お前が、目の前で自害するように、カインに言ったのか」
「まさか。下手をすれば大切な臓器が台無しになるのに」
「ということは、カインが考えたのか……そんな残酷な方法を」
「ええ、そして成功した。親友だからこそ動かし方をわかっていたのでしょうね」
「だったら、カインが死ぬとリヒトが知ったら、どう動くかもわかっているべきだろう!」
「そうですね。そういう意味では私たちは失敗しました」
俺の無責任で感情的な弾劾に大人の姿のディストはあっさりと非を認める。それが尚更やるせなかった。
しかし彼はどうして、この世界を訪れたのだろう。いやそもそも今俺がいるこの場所は本来俺がいるべき場所なのだろうか。
もしかしてディストは俺を自分たちの世界に攫う気ではないだろうか。鮮血皇帝と同じ「レオンハルト」である俺を。
今後同じようなことがあった時に、そちらの世界のカインのように、俺の血肉内臓を代替部品として使えるように。
生理的な恐怖が込み上げる。先程までが暢気すぎたと思いながら俺は彼の腕から本気で逃げ出そうとした。
ディストたちの世界の俺が皇帝として優秀な存在なら、誰かの死を糧に生かされ続けるのも仕方がないのかもしれない。
祖父だって沢山の臣下や親しい人たちの亡骸の上に国を建てた筈だ。
別世界の俺やディスト達も大陸を征服したというからにはそれ以上の屍の上を踏み越えてきたに違いない。
けれど、そんな生き方はしたくない。
そう思う俺は矢張り皇帝には向いていないようだった。
もし鮮血皇帝と呼ばれている俺が、この俺とあまり変わらない性格や考え方をしているならこの先も地獄が待っているだろう。
俺の心を見透かすように隻眼のディストが尋ねる。
「貴男も、私たちの世界を失敗だと言いますか?」
「……それは俺が決めることじゃない」
意外なことにディストは驚いた顔をした。別にそこまで突飛な事を言ったつもりはない。
俺は彼らの世界に生きていない。俺は彼らと共に歩んできた訳ではない。
悪く言ってしまえば完全に他人事だ。リヒトは兎も角、何も関わっていない俺に後悔する権利も失敗だと断じる権利もない。
「意外ですね。貴男は彼の味方をすると思ったのですが」
「失敗したと言ったのはやっぱりリヒトだったのか」
「ええ、そうです。まあ彼にとっては事実なのでしょうけれど」
恐らく彼が失敗だと言ったのは彼らの世界の事ではなく、自分の行動の事だ。
そう説明しようと思ったが、自分が彼の心情を知ったように話すのもおかしい気がして黙っていた。
リヒトにとっての正解は分かっている。
俺がカインに謝罪し、思い切り甘やかし死ぬまで幸せに暮らすことだ。本人がそう命じてきたのだ。
つまり二回目の世界、このディストがいる世界ではそれは満たせなかったのだろう。だから失敗した。そう盲目の賢者は考えている筈だ。
だが前半の二つは兎も角、死ぬまで仲良く幸せに暮らす、それは予想以上に困難なことだと俺は気づき始めていた。
「……リヒトのせいでカインが不幸な死を迎えたと言うのは」
「どれだけ苛烈な拷問を受けても貴男にかけた魔術を解かない彼に業を煮やした黒獅子は、親友の目の前で自らの首を切り落としました」
自分が死ぬのが嫌で抵抗を止めないなら、その理由を消し潰してしまえばいい。シンプルな話ですよね。
そう淡々と言うディストの腕の中で俺は吐き気を堪えた。不幸中の幸いなのは想像したのが成人後のカインだということだ。
もし今俺を兄と慕ってくれている幼い少年の姿でイメージしたなら、衝撃はもっと深かっただろう。
「皇弟殿下の亡骸を前に彼の死を無駄にするつもりかと説得したらすぐに水晶化を解除しましたよ」
「……お前が、目の前で自害するように、カインに言ったのか」
「まさか。下手をすれば大切な臓器が台無しになるのに」
「ということは、カインが考えたのか……そんな残酷な方法を」
「ええ、そして成功した。親友だからこそ動かし方をわかっていたのでしょうね」
「だったら、カインが死ぬとリヒトが知ったら、どう動くかもわかっているべきだろう!」
「そうですね。そういう意味では私たちは失敗しました」
俺の無責任で感情的な弾劾に大人の姿のディストはあっさりと非を認める。それが尚更やるせなかった。
しかし彼はどうして、この世界を訪れたのだろう。いやそもそも今俺がいるこの場所は本来俺がいるべき場所なのだろうか。
もしかしてディストは俺を自分たちの世界に攫う気ではないだろうか。鮮血皇帝と同じ「レオンハルト」である俺を。
今後同じようなことがあった時に、そちらの世界のカインのように、俺の血肉内臓を代替部品として使えるように。
生理的な恐怖が込み上げる。先程までが暢気すぎたと思いながら俺は彼の腕から本気で逃げ出そうとした。
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