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20話 間違えた気持ち
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カインを図書室で三時間ほど甘やかして別れた。
その後、俺は自室に戻らず城の中庭でベンチに座っていた。
一週間前にカインと見た時と同じ赤い薔薇が咲いている。
けれどその時に咲いていた花ではないこともわかっている。興味がないから同じように見えるだけだ。
白豚皇帝だった俺にとって大切な人とは、誰だったのだろう。
そんなことを実はずっと前から考えていた。
俺を強く慕ってくれる弟と友人の存在。
そして親友であるカインの為に文字通り身を削って過去に戻ったリヒト。
皆大切な人がいる。特にリヒトは二人と違って未来の記憶を持ち越している。
俺は彼と違う。救いたい大切な存在はいない。
「違うな、そうじゃない」
俺は一人呟く。
白豚皇帝だった自分の虚しい生き方を今更嘆いて悲観したい訳じゃない。
ただ、大切な人という言葉にあの盲目の賢者が浮かんだことに戸惑っているのだ。
それは、駄目だろう。
そういう意味で大切に思うのはリヒトに対する冒涜だろう。
彼の一番大切な存在は親友であるカインで、その幸せの為に俺の面倒を見ているに過ぎないのだから。
そのことを忘れて期待したり勘違いをしてはいけない。
まして、カインを妬んだりなど以ての外だ。先程は危なかった。
自分を慕う可愛い弟に皮肉のようなものを浴びせかけてしまった。あれは過去の自分の空虚さを嗤ったからではない。
リヒトの大切な人がカインだからだ。その事に時間が経つにつれ気づいた。
「……子供か俺は」
呆れて溜息を吐く。わかっている。あそこまで気にかけて貰えて俺がリヒトを気に入らない筈がない。
与えられた菓子を拒まずに食い尽す様に俺は愚かで見境のない性質なのだ。
更に子供の頃に戻って気づいた。俺は近距離からの好意に飢えている。しかもリヒトのそれは好意ではなく計画であり親切だ。
そのことも理解しているのに俺はあの皮肉屋な賢者が一番「大切」なのだ。
これは不味いだろう。こんな容易い人間が皇帝になるのは国の危機でしかない。
絶対に俺が、前リヒトが言っていた「ちょろい」男であると外部に気づかれてはいけない。
炎のように赤く咲く薔薇を見ながら俺は一人決意した。この気持ちは絶対に誰にも知られてはならない。
迷惑でみっともない、ただの勘違いなのだから。俺はリヒトを頼りにしているだけだ。そういう意味の「大切」なのだ。
その後、俺は自室に戻らず城の中庭でベンチに座っていた。
一週間前にカインと見た時と同じ赤い薔薇が咲いている。
けれどその時に咲いていた花ではないこともわかっている。興味がないから同じように見えるだけだ。
白豚皇帝だった俺にとって大切な人とは、誰だったのだろう。
そんなことを実はずっと前から考えていた。
俺を強く慕ってくれる弟と友人の存在。
そして親友であるカインの為に文字通り身を削って過去に戻ったリヒト。
皆大切な人がいる。特にリヒトは二人と違って未来の記憶を持ち越している。
俺は彼と違う。救いたい大切な存在はいない。
「違うな、そうじゃない」
俺は一人呟く。
白豚皇帝だった自分の虚しい生き方を今更嘆いて悲観したい訳じゃない。
ただ、大切な人という言葉にあの盲目の賢者が浮かんだことに戸惑っているのだ。
それは、駄目だろう。
そういう意味で大切に思うのはリヒトに対する冒涜だろう。
彼の一番大切な存在は親友であるカインで、その幸せの為に俺の面倒を見ているに過ぎないのだから。
そのことを忘れて期待したり勘違いをしてはいけない。
まして、カインを妬んだりなど以ての外だ。先程は危なかった。
自分を慕う可愛い弟に皮肉のようなものを浴びせかけてしまった。あれは過去の自分の空虚さを嗤ったからではない。
リヒトの大切な人がカインだからだ。その事に時間が経つにつれ気づいた。
「……子供か俺は」
呆れて溜息を吐く。わかっている。あそこまで気にかけて貰えて俺がリヒトを気に入らない筈がない。
与えられた菓子を拒まずに食い尽す様に俺は愚かで見境のない性質なのだ。
更に子供の頃に戻って気づいた。俺は近距離からの好意に飢えている。しかもリヒトのそれは好意ではなく計画であり親切だ。
そのことも理解しているのに俺はあの皮肉屋な賢者が一番「大切」なのだ。
これは不味いだろう。こんな容易い人間が皇帝になるのは国の危機でしかない。
絶対に俺が、前リヒトが言っていた「ちょろい」男であると外部に気づかれてはいけない。
炎のように赤く咲く薔薇を見ながら俺は一人決意した。この気持ちは絶対に誰にも知られてはならない。
迷惑でみっともない、ただの勘違いなのだから。俺はリヒトを頼りにしているだけだ。そういう意味の「大切」なのだ。
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