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17話 賢者、健康診断をする(上)

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 白豚皇帝だった俺が二十年前に戻ってから二か月が経った。

 痩せた。かなり痩せた。

 カインやジェイドのような華奢さはないが、びっくりするぐらい体が軽い。

 リヒトに「子豚ならそれが標準体型だろ」と言われたのでこれぐらいの体つきが一番俺に合っているのかもしれない。

 いや、調子がいいのは単純に体が軽くなったからだけではない。俺はどうやら気づかない内に病気になりかけていたらしい。

 それに気づいたのはリヒトだった。

 ある日、机に向かって読書している俺に鏡の向こうから彼が話しかけてきた。

 
「あんた、なんか最近顔が小さくなってきてない?」

「そうか?自分では気づかないが」

「本読んでる時の顎のラインがね、違うって言うか。ダイエット?食事とか減らしてんの?」

「食事は特に……ああ、もしかしたらあれか」

「あれ?」

「授業中に菓子を食べなくなったんだ。必要ないからな」


 俺の言葉にリヒトは首を僅かに傾げた。何か理解か納得できない部分があったようだ。

 痩せた理由を問われたので菓子を食べなくなったからではと答えたが、不自然な点があったのだろうか。


「子豚ちゃんさ、菓子食べながら授業受けるとか自由過ぎない?先生に睨まれるでしょ」

「いや教師が用意するんだぞ。そして俺が勉強に飽きたり嫌がったりするとくれるんだ」

「ええ……」

「今までずっとそうだったが、俺もカインを見習って真面目に勉強しようと思ってな。だから菓子がいらなくなったんだ」


 どの教師も始めは皆驚いていたが、今では受け入れてくれている。

 俺の言葉に盲目の賢者は「一人だけじゃないのかよ」と呆れたように呟いた。

 それは当然だろう。俺は次期皇帝なのだから科目ごとに専門の教師がいるのは。


「違う、そうじゃなくて。教師が揃いも揃ってそんな駄目な飼い主の見本みたいな真似を子供一人にやってたら……そりゃブクブク太るわ」

「ああ、だから授業中の菓子を控えただけで痩せられたのか」

「教師って全員大人でしょ?知恵者気取ってるんでしよ?馬鹿なの?馬鹿なのに教師なの?優しい虐待って知らないの?」


 リヒトは爪を噛みながらブツブツと呟き続けている。

 しかし過去に戻る術を使える程の賢者である彼から見たら大抵の人間は愚かに映るのではないだろうか。

 俺とかは冗談ではなく本当に豚並の知能だと思われているかもしれない。いや実際の豚が本当に愚かなのかはわからないが。

 そんなことを考えているとリヒトは俺に視線を戻した。彼の目は布に覆われていて見えないが眼力のようなものは感じるのだ。


「っていうか菓子って甘いよね?あと油も使ってるよね?炭水化物とか山盛りだよね?」

「ああ、甘いな。揚げ菓子は油も使っているだろうし」

「それを食べさせられてそこまで太ったとかやばすぎるわ。豚ちゃんの健康診断するから」

「は?」

「とりあえず血と……尿だな。糖尿かもだし。はい出して」

「血は別にいいが……俺の尿とか……何でそんなもの欲しがるんだ……」


 汚いだろう。俺がそう答えると尿から健康状態を確認する方法があるからだと言われた。

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