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16話 不幸な子供
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黒猫の名前は「ムクロ」というらしい。
野良で死にかけていた所をリヒトが発見し使い魔にしたからだと言う。
「半分っていうかほぼ死んでたような状態だったし、死体扱いでいいかって」
「悪趣味だ」
「でも俺は死体弄りとか死者蘇生とかは絶対やらないからね。期待しないでね」
「ん?わかった」
突然念押しをされるように言われ俺は内心首を傾げた。
死体弄りと聞いて連想するのは「歪みのネクロマンサー」と呼ばれるようになったディストだ。
だが俺はリヒトに彼と同じ存在になって欲しいとは思わない。そもそもディストにも前の人生と同じ道を辿って欲しくはない。
死者蘇生はそれこそ神の領域の術だろう。期待するなと言われたが、そんなことが簡単に出来たらそれこそ世界が狂う。
それに俺には生き返って欲しい人なんて。
「ああ、そうか。今の時代なら俺は母を亡くしたばかりか。でも二年経ってるからな」
それに俺は前の人生でも彼女に蘇って欲しいと思ったことは無いぞ。盲目の賢者にそう告げる。
以前から彼は俺を見た目通りの子供として扱ってしまう時があるようだった。先程の念押しもそのせいだったのだろう。
「母は長く病で苦しんでいた。何年も面会すら禁じられてやっと会えた姿は骨と皮だった。だが安らかな寝顔だったよ」
生き返って又苦しんで欲しいとは思わない。俺はそう言いながら黒猫に手を伸ばす。
主人の帰還で機嫌がいいらしく触れても引っかかれなかった。温かい。
「お前が偉大な賢者なのは理解している。だが別にそういう類の願いをするつもりはない」
安心してくれ。俺の言葉に何故かリヒトは苦し気な顔をした。彼には子供が強がりを言っているように見えているのかもしれない。
自分は利き手を失くして平然としている癖に。どこに落としてきたんだ。
「俺がお前に求めるのは、今のままの態度だ。俺は馬鹿でよく間違える。だから忠告したり叱ったり止めたりしてくれ」
「……は?俺あんたのかあ……父親とかじゃないんだけど」
「父は俺にそんなことはしない。そもそも滅多に顔を合わせないからな。カインたちのところには通っているかもしれないが」
今の俺が十二歳だから来年あたりカインの母親の懐妊が発表される筈だ。つまりそういうことなのだろう。
「それ父親じゃなくてただのクズじゃん……。あーやだ、こういう家庭環境、本当無理、子供の割り切り方がこう……マジで知りたくなかった」
盲目の賢者は何故か酷く落ち込んでいるようだった。どうやら彼が知りたくないことを俺は話してしまったらしい。
しかしやはり俺を子供扱いしているようだ。俺が白豚皇帝だったことを知っているのはこの世界では彼だけなのに。
やはり容姿が人に与える影響は大きいのだと俺は思った。とりあえず訂正はしておく。
「リヒト、今の俺は確かに子供の姿だが中身は成人しているぞ。三十代の男だ」
「そんなのわかってますけど?でも二十年前のあんただって同じ状況だったわけでしょ?つまりあんたの環境も酷かったって話じゃん」
カインだけが不幸な子供じゃなかったとか、あんたを殺した立場で知りたくなかったよ。
そうリヒトが布で隠れている顔を更に右手で隠す様にして言う。
「俺は別に自分を不幸だとは思わないが。衣食住は満ち足りていたし。その証拠に死ぬ直前まで豚のように肥え太っていたしな」
だから落ち込まないでくれ。俺はお前たちに殺されてよかった。
本心からの言葉だったがリヒトはもっと落ち込んでしまったようだった。表情は殆ど見えないがなんとなくわかる。
主人を虐めたと思ったのかムクロが俺の指を噛んだ。忠臣だ。
死にかけていたところを使い魔にしたということは、リヒトはこいつの命を救ったということだ。
この盲目の賢者は口は悪いがとても優しい男なのだろう。しかも聡く繊細だ。だからこうやって俺の子供時代を想像して心を痛めている。
こういう男が前の人生でカインの親友でいてくれてよかったと思った。
野良で死にかけていた所をリヒトが発見し使い魔にしたからだと言う。
「半分っていうかほぼ死んでたような状態だったし、死体扱いでいいかって」
「悪趣味だ」
「でも俺は死体弄りとか死者蘇生とかは絶対やらないからね。期待しないでね」
「ん?わかった」
突然念押しをされるように言われ俺は内心首を傾げた。
死体弄りと聞いて連想するのは「歪みのネクロマンサー」と呼ばれるようになったディストだ。
だが俺はリヒトに彼と同じ存在になって欲しいとは思わない。そもそもディストにも前の人生と同じ道を辿って欲しくはない。
死者蘇生はそれこそ神の領域の術だろう。期待するなと言われたが、そんなことが簡単に出来たらそれこそ世界が狂う。
それに俺には生き返って欲しい人なんて。
「ああ、そうか。今の時代なら俺は母を亡くしたばかりか。でも二年経ってるからな」
それに俺は前の人生でも彼女に蘇って欲しいと思ったことは無いぞ。盲目の賢者にそう告げる。
以前から彼は俺を見た目通りの子供として扱ってしまう時があるようだった。先程の念押しもそのせいだったのだろう。
「母は長く病で苦しんでいた。何年も面会すら禁じられてやっと会えた姿は骨と皮だった。だが安らかな寝顔だったよ」
生き返って又苦しんで欲しいとは思わない。俺はそう言いながら黒猫に手を伸ばす。
主人の帰還で機嫌がいいらしく触れても引っかかれなかった。温かい。
「お前が偉大な賢者なのは理解している。だが別にそういう類の願いをするつもりはない」
安心してくれ。俺の言葉に何故かリヒトは苦し気な顔をした。彼には子供が強がりを言っているように見えているのかもしれない。
自分は利き手を失くして平然としている癖に。どこに落としてきたんだ。
「俺がお前に求めるのは、今のままの態度だ。俺は馬鹿でよく間違える。だから忠告したり叱ったり止めたりしてくれ」
「……は?俺あんたのかあ……父親とかじゃないんだけど」
「父は俺にそんなことはしない。そもそも滅多に顔を合わせないからな。カインたちのところには通っているかもしれないが」
今の俺が十二歳だから来年あたりカインの母親の懐妊が発表される筈だ。つまりそういうことなのだろう。
「それ父親じゃなくてただのクズじゃん……。あーやだ、こういう家庭環境、本当無理、子供の割り切り方がこう……マジで知りたくなかった」
盲目の賢者は何故か酷く落ち込んでいるようだった。どうやら彼が知りたくないことを俺は話してしまったらしい。
しかしやはり俺を子供扱いしているようだ。俺が白豚皇帝だったことを知っているのはこの世界では彼だけなのに。
やはり容姿が人に与える影響は大きいのだと俺は思った。とりあえず訂正はしておく。
「リヒト、今の俺は確かに子供の姿だが中身は成人しているぞ。三十代の男だ」
「そんなのわかってますけど?でも二十年前のあんただって同じ状況だったわけでしょ?つまりあんたの環境も酷かったって話じゃん」
カインだけが不幸な子供じゃなかったとか、あんたを殺した立場で知りたくなかったよ。
そうリヒトが布で隠れている顔を更に右手で隠す様にして言う。
「俺は別に自分を不幸だとは思わないが。衣食住は満ち足りていたし。その証拠に死ぬ直前まで豚のように肥え太っていたしな」
だから落ち込まないでくれ。俺はお前たちに殺されてよかった。
本心からの言葉だったがリヒトはもっと落ち込んでしまったようだった。表情は殆ど見えないがなんとなくわかる。
主人を虐めたと思ったのかムクロが俺の指を噛んだ。忠臣だ。
死にかけていたところを使い魔にしたということは、リヒトはこいつの命を救ったということだ。
この盲目の賢者は口は悪いがとても優しい男なのだろう。しかも聡く繊細だ。だからこうやって俺の子供時代を想像して心を痛めている。
こういう男が前の人生でカインの親友でいてくれてよかったと思った。
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