【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

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14話 叱って欲しいひと

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「疲れた……」


 庭園でカインと別れた後、俺は自室に直通した。

 そして綺麗に整えてある寝台に突っ伏する。黒猫は変わらず部屋の隅に居た。

 俺が部屋に入ってきても鳴くことすらしない。けれど今はその無関心さに安堵する。

 カインの苛烈さは変わっていない。その事に今日気づかされた。

 前の人生で俺に向けられた殺意は、今回は俺を傷つける者に向けられた。

 こんなの、対象が変わっただけだ。


「……よく考えれば当たり前の事か」


 カインは追放された身でありながら革命軍を率いて皇帝を討ち取りに来た男なのだ。

 隷属を断れば腹違いの兄だろうと即座に殺す決断力もある。

 それは環境が育んだものだけでなく、元来の才能であり気質でもあるのだろう。

 ディストだってそうだ。俺の死体の件でカインを出し抜いたらしいが、この世界の奴もきっと本質は変わらない。

 俺がやったのは関わり方を変えただけだ。

 そもそも俺だって臆病で小心な部分は変わっていない筈だ。

 ただ俺には三十年生きた記憶があって、失敗した記憶があって、今度は間違えたくないという気持ちがあるだけなのだ。

 そして何よりも。


「リヒト」


 返事が来ないことを知りながら俺は彼の名を呼ぶ。

 皇帝時代は敵対していた男、弟の親友、盲目の賢者。

 そして俺を叱り、導いてくれた存在。


「俺は誰かに説教されてないと、多分駄目になる人間なんだ」


 今日、猫に罰を与えると言ったカインを窘めている時に気づいた。

 自分に必要だったのはこういう風に見守り、諭し、止めてくれる存在だったのじゃないかと。

 俺は馬鹿で感情的で間違えてばかりだったから。間違え続けて取り返しがつかなくなる前に。

 止めて、欲しかった。


「……だけど、家臣たちにそれを求めるのは酷だな」


 俺は皇帝の息子で、いずれ皇帝になる人間なのだから。

 俺を気安く叱ることが出来る相手なんて、それこそ父母しかいない。

 けれど母は亡くなり、皇帝である父は俺に関心を持っていないようだった。

 正直今でもあの人の考えはよくわからない。

 わざわざカインを城に迎えて置いて、正式に自分の息子と認めて置いて、俺が彼を虐めても何一つ咎めなかった。

 知らなかった訳でもないだろうに。
 

「リヒトは父親に叱られたことってあるか?俺はないんだ、でも叱られるって必要なことだと思うんだ……それをお前が教えてくれたんだ」


 だからもう一度俺を叱ってくれよ。そう黒猫に向かって呼びかける。

 けれど彼は視線を一度こちらに寄越したきり床のクッションに顔を埋めた。

 結構恥ずかしい告白をそれなりの勇気をもってしたのだが。

 ここまで無視されるとこいつはもう完全に猫なのではという気になってくる。


「ああもう、いい加減にしないと本気でお前を猫扱いするぞ!似合う首輪をつけたりその内お嫁さんとか見つけて子供が生まれたら専用の部屋を作って」

「猫の子増やすより前に自分の子増やしなよ白豚皇帝さんは」


 いやまだ子豚だから早いか。そんなシニカルな声が耳に届く。

 俺はがばりと身を起こした。しかし凝視した先の黒猫は気持ちよさそうに眠っている。


「いや、そっちじゃないけど。それただの猫ちゃんだけど」

「なんだって?!」

「っていうか何でずっとそいつ相手に話しかけてるの?」


 話しかけるならこっちでしょうよ。そう声が聞こえる方に改めて向き直る。

  先日粉々になった鏡があった場所だった。今は新しい姿見が代わりに置かれてある。

 その鏡面には盲目の賢者が当たり前のような顔をして映っていた。左の手首から先が無くなっていた。

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