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12話 黒猫はご機嫌斜め
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この数日間、リヒトに無視されている。
理由は簡単で俺がディストと和解したからだ。
詳細に語るなら俺は公爵やディストと会う事をリヒトに隠していた。
だから彼はディストについての俺の対応を事後で聞いた。
ついでに言うと公爵が城内にスパイを潜ませていた件、これもリヒトの推理だった。
俺が使用人を使ってカインを虐めていた訳でないと知って、別勢力の関与を疑ったのだ。
その疑問に俺はグランシー公爵の存在を伝えた。ディストが公爵家の子息だと知ってリヒトは彼らを罠にかけることを思いついた。
俺がカインを堂々と可愛がることで城内の人間関係の均衡を崩す。
カイン母子への嫌がらせを俺の仕業に出来なくなった犯人は新たな行動を起こす。
その時に捕らえ皇妃と皇子に対する暴行や侮辱などの罪を糾弾する。これがリヒトの作戦だった。
グランシー公爵やディストが城を訪れたら必ず自分に伝えるようにとも言われた。
俺が最初に提案したディストに対する懐柔はにべもなく否定された。リヒトはディストを嫌っている。それは明確にわかっていた。
彼にとってディストは親友であるカインの人生を穢し狂わせた人間の一人なのだろう。
カインと出会う前に排除してしまいたいという気持ちは隠れていなかった。
だが俺は迷っていた。そして結局賭けに出て独断で動いた。結果として上手く行ったと思う。
グランシー公爵を説得しディストは絆を差し出した結果別人のように懐いてくるようになった。
だからリヒトも多少怒りこそすれ最終的には許してくれるだろうと思っていたのだが。
「まさか鏡が粉々に砕けるとは……」
俺から事後報告を受けて、ぽかんと口を開けた賢者を一瞬可愛いと思ってしまったがそんな悠長なことを考えていられたのも一瞬だった。
鏡の向こうから無言で拳を繰り出すリヒトにぎょっとしたし、同時に鏡面に亀裂が走って破片が次々落ちていく光景に腰を抜かしかけた。
その日以来盲目の賢者は俺の前に人間の姿で現れなくなった。鏡を取り換えてもだ。
俺の部屋で暮らしてはいてくれているがそれはカインを見守る為だろう。何度話しかけても無視するし抱き上げようとすると爪を立てて逃げる。
いや抱っこが嫌いなのは以前からだったが、まるで本物の猫のように意思疎通が出来なくなっていた。今の彼は人嫌いの黒猫だ。
「甘えすぎたのかな……」
庭園のベンチで一人溜息を吐く。怒られても仕方がないとは思っていたが、それでも許して貰えると思っていた。
だがリヒトは元々俺の味方という訳ではない。寧ろ俺の事は嫌っている筈だ。大切なカインの人生を狂わせた元凶のような存在なのだから。
それでも彼は悪夢に怯える俺の失禁の後始末をしてくれたり、根はお人好しで優しい人間なのだと思う。
そんな彼が許せない程の行為を俺の死後ディストは行ったのだろう。まだ少年の彼を殺してでも阻止したいような事を。
「でも俺は、そうしたくなかったんだよな」
俺は従兄弟で友人である彼を、伯父である公爵を破滅させたくなかった。
ディストが危険な人間であることはわかっている。まだカインに引き合わせるのを躊躇うぐらいには。それでも彼は俺の友なのだ。
ただリヒトが今回の独断行動で俺を見限ってもそれはそれで仕方がない。少し寂しい気はするが。
そんなことを延々と考えていると薔薇のアーチの向こうにカインの姿が見えた。
理由は簡単で俺がディストと和解したからだ。
詳細に語るなら俺は公爵やディストと会う事をリヒトに隠していた。
だから彼はディストについての俺の対応を事後で聞いた。
ついでに言うと公爵が城内にスパイを潜ませていた件、これもリヒトの推理だった。
俺が使用人を使ってカインを虐めていた訳でないと知って、別勢力の関与を疑ったのだ。
その疑問に俺はグランシー公爵の存在を伝えた。ディストが公爵家の子息だと知ってリヒトは彼らを罠にかけることを思いついた。
俺がカインを堂々と可愛がることで城内の人間関係の均衡を崩す。
カイン母子への嫌がらせを俺の仕業に出来なくなった犯人は新たな行動を起こす。
その時に捕らえ皇妃と皇子に対する暴行や侮辱などの罪を糾弾する。これがリヒトの作戦だった。
グランシー公爵やディストが城を訪れたら必ず自分に伝えるようにとも言われた。
俺が最初に提案したディストに対する懐柔はにべもなく否定された。リヒトはディストを嫌っている。それは明確にわかっていた。
彼にとってディストは親友であるカインの人生を穢し狂わせた人間の一人なのだろう。
カインと出会う前に排除してしまいたいという気持ちは隠れていなかった。
だが俺は迷っていた。そして結局賭けに出て独断で動いた。結果として上手く行ったと思う。
グランシー公爵を説得しディストは絆を差し出した結果別人のように懐いてくるようになった。
だからリヒトも多少怒りこそすれ最終的には許してくれるだろうと思っていたのだが。
「まさか鏡が粉々に砕けるとは……」
俺から事後報告を受けて、ぽかんと口を開けた賢者を一瞬可愛いと思ってしまったがそんな悠長なことを考えていられたのも一瞬だった。
鏡の向こうから無言で拳を繰り出すリヒトにぎょっとしたし、同時に鏡面に亀裂が走って破片が次々落ちていく光景に腰を抜かしかけた。
その日以来盲目の賢者は俺の前に人間の姿で現れなくなった。鏡を取り換えてもだ。
俺の部屋で暮らしてはいてくれているがそれはカインを見守る為だろう。何度話しかけても無視するし抱き上げようとすると爪を立てて逃げる。
いや抱っこが嫌いなのは以前からだったが、まるで本物の猫のように意思疎通が出来なくなっていた。今の彼は人嫌いの黒猫だ。
「甘えすぎたのかな……」
庭園のベンチで一人溜息を吐く。怒られても仕方がないとは思っていたが、それでも許して貰えると思っていた。
だがリヒトは元々俺の味方という訳ではない。寧ろ俺の事は嫌っている筈だ。大切なカインの人生を狂わせた元凶のような存在なのだから。
それでも彼は悪夢に怯える俺の失禁の後始末をしてくれたり、根はお人好しで優しい人間なのだと思う。
そんな彼が許せない程の行為を俺の死後ディストは行ったのだろう。まだ少年の彼を殺してでも阻止したいような事を。
「でも俺は、そうしたくなかったんだよな」
俺は従兄弟で友人である彼を、伯父である公爵を破滅させたくなかった。
ディストが危険な人間であることはわかっている。まだカインに引き合わせるのを躊躇うぐらいには。それでも彼は俺の友なのだ。
ただリヒトが今回の独断行動で俺を見限ってもそれはそれで仕方がない。少し寂しい気はするが。
そんなことを延々と考えていると薔薇のアーチの向こうにカインの姿が見えた。
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