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11話 笑顔で仲直り
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ディストはまるで少女のような笑みを浮かべた。
もし彼が血塗れのナイフを持っていたとしても笑顔の可憐さに目を奪われて気づかないだろう。
ディストと同世代の少年少女ならその笑みを見ただけで彼に恋してしまうに違いない。
いや、大人でも惑わされてしまうかもしれない。悪魔のような魅力を秘めた、いや解き放った笑顔だった。
正直そこまで喜ぶ理由がわからない。わからないが、機嫌が直ったようでよかった。
「わかりました。これからはずっと貴男の傍から離れません……死んでも、一緒ですよ」
いやまだ微妙に怖いこと言ってくるなこいつ。
せめて期限を死ぬまでに変更してくれないだろうか。
じゃないとどちらかが死体になっても平然と隣に居そうだ。
しかし何が彼の地雷を踏みぬくかわからず俺はへらへらと笑い返すしか出来なかった。
気分が浮上したらしいディストはまだ頬を赤らめながらも俺の隣に座り直した。怖い。
「今だけは甘えても、いいでしょう?」
もう二度と貴男の弟に嫉妬することはしませんから。そう言われて少しだけ腑に落ちる。
成程、こいつはカインに俺が取られるかもしれないと焦っていたのか。友人と兄弟じゃ大分関係性が違うと思うのだが。
先程の無邪気な笑顔と言いディストも結局子供だったんだな。同年齢の時はしっかりして大人びた奴だと思い込んでいた。
「仕方ないな」
「父の事、これからは僕も見張っておきますね。レオンに迷惑をかけないように」
まるでぬいぐるみに抱き着くように俺にもたれかかりながらディストが言う。
いや前言撤回だ。やっぱりこいつを年齢相応だと思うのはいけない。
だが味方に引き込めるなら頼りになる。それは間違いない事実だろう。
「頼むよ。ついでだが、公爵家の息のかかった使用人を城から引き揚げさせてくれ」
「やっぱり気づいていたのですか?流石ですね」
「流石も何も、伯父上が突然城に来た理由を考えれば筒抜けなのは明らかだ」
「駄目な公爵ですねえ」
「今までのことは俺の胸に秘めておく。カインたちへの嫌がらせが続くなら……皇帝陛下も知ることになる」
「ふふ、怖い。でも怖いレオンも好きです」
いやお前の方が怖いよ。そう返そうとして慌てて口を閉じる。
だがディストには悟られてしまったようだ。にこにことしながら唇に指で触れてくる。
「今お前の方が怖いって思ったでしょう、レオン」
「……そういうところが特にな」
「慣れると便利だと思いますよ。僕と二人きりなら貴男は一切喋る必要がなくなる。それが目標です」
なんとなくわかってきた。ディストは他人を自分に依存させることに快楽や安心を覚える人種なのだろう。
逆に距離が近い相手に少しでも疎遠にされることを非常に嫌がるタイプなのだ。
だから白豚皇帝時代、ディストと友人でありながら酒や肉に溺れその関係を疎かにし始めた俺が許せなかったのかもしれない。
別に俺が疎かにしたのは彼だけではないのだが。
ディストにとって傍に居るのが重要で、会話を必要としないなら死体でもよかった。
しかし皇帝の亡骸なんて公爵が持ち出して好き放題に出来る訳がない。
だからクーデターでカインに俺を殺させて管理が手薄な死体を盗んだ。持ち物として自分の傍に置く為に。
全部想像に過ぎないが奇妙にしっくりとはまって俺は鳥肌を立てた。とりあえず予防策は講じて置こう。俺は口を開いた。
「いや会話は大切にした方がいい。俺はディストと沢山話がしたいよ」
「レオン……わかりました。僕も貴男の声が好きですし」
「ディスト……」
「それに会話機能をつけるのも悪くないですしね」
「何に!?」
秘密です。
そう花が咲いたような笑顔で言われて俺は遺言に亡骸を爆破してくれと書くことを決意した。
もし彼が血塗れのナイフを持っていたとしても笑顔の可憐さに目を奪われて気づかないだろう。
ディストと同世代の少年少女ならその笑みを見ただけで彼に恋してしまうに違いない。
いや、大人でも惑わされてしまうかもしれない。悪魔のような魅力を秘めた、いや解き放った笑顔だった。
正直そこまで喜ぶ理由がわからない。わからないが、機嫌が直ったようでよかった。
「わかりました。これからはずっと貴男の傍から離れません……死んでも、一緒ですよ」
いやまだ微妙に怖いこと言ってくるなこいつ。
せめて期限を死ぬまでに変更してくれないだろうか。
じゃないとどちらかが死体になっても平然と隣に居そうだ。
しかし何が彼の地雷を踏みぬくかわからず俺はへらへらと笑い返すしか出来なかった。
気分が浮上したらしいディストはまだ頬を赤らめながらも俺の隣に座り直した。怖い。
「今だけは甘えても、いいでしょう?」
もう二度と貴男の弟に嫉妬することはしませんから。そう言われて少しだけ腑に落ちる。
成程、こいつはカインに俺が取られるかもしれないと焦っていたのか。友人と兄弟じゃ大分関係性が違うと思うのだが。
先程の無邪気な笑顔と言いディストも結局子供だったんだな。同年齢の時はしっかりして大人びた奴だと思い込んでいた。
「仕方ないな」
「父の事、これからは僕も見張っておきますね。レオンに迷惑をかけないように」
まるでぬいぐるみに抱き着くように俺にもたれかかりながらディストが言う。
いや前言撤回だ。やっぱりこいつを年齢相応だと思うのはいけない。
だが味方に引き込めるなら頼りになる。それは間違いない事実だろう。
「頼むよ。ついでだが、公爵家の息のかかった使用人を城から引き揚げさせてくれ」
「やっぱり気づいていたのですか?流石ですね」
「流石も何も、伯父上が突然城に来た理由を考えれば筒抜けなのは明らかだ」
「駄目な公爵ですねえ」
「今までのことは俺の胸に秘めておく。カインたちへの嫌がらせが続くなら……皇帝陛下も知ることになる」
「ふふ、怖い。でも怖いレオンも好きです」
いやお前の方が怖いよ。そう返そうとして慌てて口を閉じる。
だがディストには悟られてしまったようだ。にこにことしながら唇に指で触れてくる。
「今お前の方が怖いって思ったでしょう、レオン」
「……そういうところが特にな」
「慣れると便利だと思いますよ。僕と二人きりなら貴男は一切喋る必要がなくなる。それが目標です」
なんとなくわかってきた。ディストは他人を自分に依存させることに快楽や安心を覚える人種なのだろう。
逆に距離が近い相手に少しでも疎遠にされることを非常に嫌がるタイプなのだ。
だから白豚皇帝時代、ディストと友人でありながら酒や肉に溺れその関係を疎かにし始めた俺が許せなかったのかもしれない。
別に俺が疎かにしたのは彼だけではないのだが。
ディストにとって傍に居るのが重要で、会話を必要としないなら死体でもよかった。
しかし皇帝の亡骸なんて公爵が持ち出して好き放題に出来る訳がない。
だからクーデターでカインに俺を殺させて管理が手薄な死体を盗んだ。持ち物として自分の傍に置く為に。
全部想像に過ぎないが奇妙にしっくりとはまって俺は鳥肌を立てた。とりあえず予防策は講じて置こう。俺は口を開いた。
「いや会話は大切にした方がいい。俺はディストと沢山話がしたいよ」
「レオン……わかりました。僕も貴男の声が好きですし」
「ディスト……」
「それに会話機能をつけるのも悪くないですしね」
「何に!?」
秘密です。
そう花が咲いたような笑顔で言われて俺は遺言に亡骸を爆破してくれと書くことを決意した。
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