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10話 未来のネクロマンサーを攻略せよ
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公爵は子供である俺に説教をされたのが気恥ずかしかったのか、冷静さを取り戻すとさっさと出て行った。
息子であるディストを俺の元に残して。
俺とディストは前の人生の時から従兄弟であり友人同士だった。
そして俺と遊ぶ為という名目でディストもその父親であるノーマンも城への頻繁な出入りが許容されていた。
冷静に考えれば俺という存在は公爵家にとって便利な通行手形だったのだろう。
今回の公爵親子の訪問だって名目は「ディストが俺と遊びたがっていたから」だ。実際は全く違っていた。最初から信じていなかったが。
ディストは俺と二人きりの時ですら大して言葉を崩さない礼儀正しい人間だ。そんな我儘を言う奴ではない。
俺と仲良くなった理由も、父であるノーマンに取り入るよう命じられたからかもしれない。
別に悲しいとか傷ついたとか裏切られたとか今更思ったりはしない。権力を持つというのはそういうことなのだ。
逆に言えば俺が大勢の人間から親切に接して貰えるのも皇帝の長子だからに過ぎない。俺自身には才覚も魅力もないのだから。
取り飢えず今は置いていかれたディストの相手をすることにしよう。俺は立ったままの彼に向かいの席を勧めた。先程まで公爵が座っていた所だ。
彼は行儀よく俺の正面に座った。俺はそんなディストに声をかける。
「お互い、父親に振り回されて苦労するな」
「貴男は誰ですか」
「は」
寒気がした。殺気とは違う。こちらを見透かすような瞳がひたすら冷たい。
そうだ。こいつは子供の頃から賢い奴だった。父親と違って激情家でもない。
だがここで狼狽えるのも不味いだろう。もし彼に偽物判定されたらこの場で即殺されてしまうような気がする。そんな筈ないのだが。
相手は子供だ、どれだけ賢くて怖くてもまだ子供。俺は心の中でそう繰り返した。
「俺はレオンハルト・ライゼンハイマーだが。……もしかして別人に見えたのか?」
「はい」
「だとしたら嬉しいな」
「嬉しい?」
「今までが幼過ぎたと思ってな。弟も出来た事だしお前程じゃないにせよしっかりしようと思って……」
「レオンが変わる必要はありません」
俺の台詞を遮ってディストが断言する。こんな無作法な真似をする彼なんて初めて見た。
変わったと言うなら俺よりもお前だろう。そう言いそうになったが、単純に俺がディストの本性を知らなかっただけだろう。
「どうして次期皇帝である貴男が変わる必要があるのですか?今までと同じように無垢で無邪気でいてください」
俺は目を丸くした。余りにも予想外の発言をされたからだ。無垢で無邪気。
一見長所に思える言葉だが真に受けてはいけないだろう。俺は可愛らしい幼児ではない。
だが食べ物を常に頬張っている白豚としてディストの目には映っていたのかもしれない。
頭の足りない家畜もある意味無垢で無邪気ではあるだろう。しかしそんな行動を今後も続ける気にはなれないし無理だ。
それにディストはいずれ俺を裏切る。そしてカインと敵対する。ならこの時点で線引きをしていた方がシンプルかもしれない。
「俺がどう変わるかは俺が決める、お前が決めることじゃない」
「レオン……?」
あ、無理だ。これは不味い。無表情に近いのにその瞳だけ闇がぎっしりと詰め込まれている。怖い。
今確信した。ディストは大人になってから闇を抱え始めてネクロマンサーになったわけじゃない。現時点で属性が闇なのだ。
彼を拒んだら死ぬより酷い目に遭わされそうだ。しかしディストの言いなりになっても白豚として屠殺される未来が待ってそうだ。
恐怖繋がりで俺は先日の悪夢を思い出す。大人になったディストも怖かった。
あいつも俺が豚のままでいて欲しいとか言っていたな。もしかして食うつもりか。
それと自分を殺してとか言い出したのも覚えている。父親といい公爵家の当主は代々情緒不安定なのか。
『忘れ去られどうでもいい存在になり果てる方ぐらいなら僕は貴男に殺されたい』
大人になったディストの言葉が脳裏に浮かんだ。狂っていたが悲しい声だった。夢の中の事だ。けれど俺は賭けに出た。
目の前のディストの手を強く握る。僅かな驚きを浮かべる彼に顔を近づけ口を開いた。
「だから、俺が成長していく姿をお前は俺の横でずっと見ていろ。命令だ」
その瞬間彼の闇色だった瞳が美しい紫に変わった。
息子であるディストを俺の元に残して。
俺とディストは前の人生の時から従兄弟であり友人同士だった。
そして俺と遊ぶ為という名目でディストもその父親であるノーマンも城への頻繁な出入りが許容されていた。
冷静に考えれば俺という存在は公爵家にとって便利な通行手形だったのだろう。
今回の公爵親子の訪問だって名目は「ディストが俺と遊びたがっていたから」だ。実際は全く違っていた。最初から信じていなかったが。
ディストは俺と二人きりの時ですら大して言葉を崩さない礼儀正しい人間だ。そんな我儘を言う奴ではない。
俺と仲良くなった理由も、父であるノーマンに取り入るよう命じられたからかもしれない。
別に悲しいとか傷ついたとか裏切られたとか今更思ったりはしない。権力を持つというのはそういうことなのだ。
逆に言えば俺が大勢の人間から親切に接して貰えるのも皇帝の長子だからに過ぎない。俺自身には才覚も魅力もないのだから。
取り飢えず今は置いていかれたディストの相手をすることにしよう。俺は立ったままの彼に向かいの席を勧めた。先程まで公爵が座っていた所だ。
彼は行儀よく俺の正面に座った。俺はそんなディストに声をかける。
「お互い、父親に振り回されて苦労するな」
「貴男は誰ですか」
「は」
寒気がした。殺気とは違う。こちらを見透かすような瞳がひたすら冷たい。
そうだ。こいつは子供の頃から賢い奴だった。父親と違って激情家でもない。
だがここで狼狽えるのも不味いだろう。もし彼に偽物判定されたらこの場で即殺されてしまうような気がする。そんな筈ないのだが。
相手は子供だ、どれだけ賢くて怖くてもまだ子供。俺は心の中でそう繰り返した。
「俺はレオンハルト・ライゼンハイマーだが。……もしかして別人に見えたのか?」
「はい」
「だとしたら嬉しいな」
「嬉しい?」
「今までが幼過ぎたと思ってな。弟も出来た事だしお前程じゃないにせよしっかりしようと思って……」
「レオンが変わる必要はありません」
俺の台詞を遮ってディストが断言する。こんな無作法な真似をする彼なんて初めて見た。
変わったと言うなら俺よりもお前だろう。そう言いそうになったが、単純に俺がディストの本性を知らなかっただけだろう。
「どうして次期皇帝である貴男が変わる必要があるのですか?今までと同じように無垢で無邪気でいてください」
俺は目を丸くした。余りにも予想外の発言をされたからだ。無垢で無邪気。
一見長所に思える言葉だが真に受けてはいけないだろう。俺は可愛らしい幼児ではない。
だが食べ物を常に頬張っている白豚としてディストの目には映っていたのかもしれない。
頭の足りない家畜もある意味無垢で無邪気ではあるだろう。しかしそんな行動を今後も続ける気にはなれないし無理だ。
それにディストはいずれ俺を裏切る。そしてカインと敵対する。ならこの時点で線引きをしていた方がシンプルかもしれない。
「俺がどう変わるかは俺が決める、お前が決めることじゃない」
「レオン……?」
あ、無理だ。これは不味い。無表情に近いのにその瞳だけ闇がぎっしりと詰め込まれている。怖い。
今確信した。ディストは大人になってから闇を抱え始めてネクロマンサーになったわけじゃない。現時点で属性が闇なのだ。
彼を拒んだら死ぬより酷い目に遭わされそうだ。しかしディストの言いなりになっても白豚として屠殺される未来が待ってそうだ。
恐怖繋がりで俺は先日の悪夢を思い出す。大人になったディストも怖かった。
あいつも俺が豚のままでいて欲しいとか言っていたな。もしかして食うつもりか。
それと自分を殺してとか言い出したのも覚えている。父親といい公爵家の当主は代々情緒不安定なのか。
『忘れ去られどうでもいい存在になり果てる方ぐらいなら僕は貴男に殺されたい』
大人になったディストの言葉が脳裏に浮かんだ。狂っていたが悲しい声だった。夢の中の事だ。けれど俺は賭けに出た。
目の前のディストの手を強く握る。僅かな驚きを浮かべる彼に顔を近づけ口を開いた。
「だから、俺が成長していく姿をお前は俺の横でずっと見ていろ。命令だ」
その瞬間彼の闇色だった瞳が美しい紫に変わった。
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