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9話 公爵との対面
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悪夢を見てから三日後、グランシー公爵が俺に会いに来た。息子であるディストも連れてだ。
彼は応接室に現れた俺に挨拶をするなりこう切り出してきた。
「殿下が魔女の子供と仲良くしているという噂を耳に挟んだのですが」
どういったお考えなのでしょうか。言葉こそ丁寧だがその声には怒りが宿っている。
ディストの父、ノーマン・グランシー。彼は俺の伯父だ。
亡くなった母と双子なだけあってよく似ている。
三十代半ばの男性だが、声以外は男装の麗人のようだ。青年になったディストにも似ている。親子だから当然か。
昔は彼に母親の面影を重ねたこともあった。伯父も従順な俺を可愛がってくれた。
しかしカインに対し嫌悪感が無くなった状態で対面すると、随分と問題のある人だなと思う。
カインの母親は今は皇妃だしカイン自身だって皇帝の実子だ。
皇室と血縁関係があるとはいえ公爵が罵倒していい存在ではない。だが俺も人の事は言えない。
白豚皇帝として生きて死んだ記憶がなければ伯父に同調し彼らを罵っていただろう。そして今まではそうしていたに違いない。
だがもう違う。同じ道は歩まない。
「魔女の子とは誰の事でしょうか、グランシー公爵。まさか私の弟の事ではありませんよね」
だとしたら貴男を不敬罪で拘束しなければいけなくなる。俺の言葉に彼は大きく目を見開いた。
公爵の背後に立っているディストも少し驚いた顔をしている。人間らしい反応に俺は少し安堵した。
「……どういうことだ、レオンハルト。ロベリアが亡くなってからまだ二年しか経っていないというのに、まさか、お前まで……」
「勘違いしないでください。私は母を忘れたり軽んじたりするつもりは一切ありません」
以前は公爵の言いなりになっていたからわからなかったが、こうやって反発したことでわかった。
思っていたよりもずっと感情的な人だ。狂気すら感じる程に。
それだけ自分の妹を大切に思っていたのだろうが、彼は今確実に病んでいる。
哀れな人だ。俺が今後カインを弟として認め接していけば公爵の狂気はより深くなるのだろう。
母に似たその顔が狂人のようになっていくのは辛い。そう思った。
「けれど、伯父上もご存知でしょう。私の母はとても優しい人でした」
彼女は自分の息子が年下の子供を虐める姿を見て喜ぶ人間でしょうか。
過去に戻ってから何回も考えたことを口に出す。実際母の気持ちなんてわからない。
死後の世界で伯父と同じように怒り狂っているかもしれない。
けれどそれでも、俺は母が優しい人だと信じたいと思った。
「伯父上の気持ちはわかります……今でも。けれど抗議をするなら父にでしょう」
私も貴男も。そう締め括る。実際そうなのだ。
カインたちを城に迎えたのは父なのだから。けれど俺も公爵もそんなことはしなかった。相手が皇帝だからだ。
結局弱い者虐めをしていただけだ。
「……陛下になんて、言えるわけがないでしょう」
血を吐く様に公爵は呟いた。
昔は彼を随分と大人だと感じていたが三十代を一度経験した今はそこまで遠い存在だと感じない。
今回は、言いなりになって操られるのではなく。
「ならば、父に対する愚痴なら内密に幾らでも聞きます」
「殿下……」
「母が言っていました。貴男と父は親友だったと。俺を父だと思って罵ってくれても構いません」
「そんなこと、出来る訳ないでしょう!子供相手にそんな八つ当たりみたいなことを……」
公爵の言葉が途中で止まる。そうだ、そういうことなのだ。今まで俺たちがカインにしていたことは。
恥じ入った表情を浮かべている伯父の瞳からは狂気が消えていた。
そのことにほっとしていた俺は気づかなかった。俺たちを見つめているディストの瞳に新たな狂気が宿っていることを。
彼は応接室に現れた俺に挨拶をするなりこう切り出してきた。
「殿下が魔女の子供と仲良くしているという噂を耳に挟んだのですが」
どういったお考えなのでしょうか。言葉こそ丁寧だがその声には怒りが宿っている。
ディストの父、ノーマン・グランシー。彼は俺の伯父だ。
亡くなった母と双子なだけあってよく似ている。
三十代半ばの男性だが、声以外は男装の麗人のようだ。青年になったディストにも似ている。親子だから当然か。
昔は彼に母親の面影を重ねたこともあった。伯父も従順な俺を可愛がってくれた。
しかしカインに対し嫌悪感が無くなった状態で対面すると、随分と問題のある人だなと思う。
カインの母親は今は皇妃だしカイン自身だって皇帝の実子だ。
皇室と血縁関係があるとはいえ公爵が罵倒していい存在ではない。だが俺も人の事は言えない。
白豚皇帝として生きて死んだ記憶がなければ伯父に同調し彼らを罵っていただろう。そして今まではそうしていたに違いない。
だがもう違う。同じ道は歩まない。
「魔女の子とは誰の事でしょうか、グランシー公爵。まさか私の弟の事ではありませんよね」
だとしたら貴男を不敬罪で拘束しなければいけなくなる。俺の言葉に彼は大きく目を見開いた。
公爵の背後に立っているディストも少し驚いた顔をしている。人間らしい反応に俺は少し安堵した。
「……どういうことだ、レオンハルト。ロベリアが亡くなってからまだ二年しか経っていないというのに、まさか、お前まで……」
「勘違いしないでください。私は母を忘れたり軽んじたりするつもりは一切ありません」
以前は公爵の言いなりになっていたからわからなかったが、こうやって反発したことでわかった。
思っていたよりもずっと感情的な人だ。狂気すら感じる程に。
それだけ自分の妹を大切に思っていたのだろうが、彼は今確実に病んでいる。
哀れな人だ。俺が今後カインを弟として認め接していけば公爵の狂気はより深くなるのだろう。
母に似たその顔が狂人のようになっていくのは辛い。そう思った。
「けれど、伯父上もご存知でしょう。私の母はとても優しい人でした」
彼女は自分の息子が年下の子供を虐める姿を見て喜ぶ人間でしょうか。
過去に戻ってから何回も考えたことを口に出す。実際母の気持ちなんてわからない。
死後の世界で伯父と同じように怒り狂っているかもしれない。
けれどそれでも、俺は母が優しい人だと信じたいと思った。
「伯父上の気持ちはわかります……今でも。けれど抗議をするなら父にでしょう」
私も貴男も。そう締め括る。実際そうなのだ。
カインたちを城に迎えたのは父なのだから。けれど俺も公爵もそんなことはしなかった。相手が皇帝だからだ。
結局弱い者虐めをしていただけだ。
「……陛下になんて、言えるわけがないでしょう」
血を吐く様に公爵は呟いた。
昔は彼を随分と大人だと感じていたが三十代を一度経験した今はそこまで遠い存在だと感じない。
今回は、言いなりになって操られるのではなく。
「ならば、父に対する愚痴なら内密に幾らでも聞きます」
「殿下……」
「母が言っていました。貴男と父は親友だったと。俺を父だと思って罵ってくれても構いません」
「そんなこと、出来る訳ないでしょう!子供相手にそんな八つ当たりみたいなことを……」
公爵の言葉が途中で止まる。そうだ、そういうことなのだ。今まで俺たちがカインにしていたことは。
恥じ入った表情を浮かべている伯父の瞳からは狂気が消えていた。
そのことにほっとしていた俺は気づかなかった。俺たちを見つめているディストの瞳に新たな狂気が宿っていることを。
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