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7話 ぬいぐるみ皇帝
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ネクロマンサー、それは死者の身も心も冒涜する禁忌の術師。
死体を闇の魔術を用いて操り隷属させる。
高位のネクロマンサーなら死体に会話をさせたり生前と同じ姿にすることも可能らしい。
そしてリヒトの説明によると、大人になったディストはそのネクロマンサーになっていたということだった。
彼に盗まれた俺の死体がどういう状態になったのかは教えてくれなかったが、ここまで聞いて俺は察した。
ディストは俺の従兄弟だ。彼がカインを欺き皇帝である俺を殺させ、その後裏切り俺の死体を盗んだ理由。
それはきっと自分が皇帝になる為の作戦だったのだろう。ネクロマンサーは死体を使って色々なことができるらしい。
俺自身は全く皇帝に向いてなかったが、それでも皇帝だったことには変わりはない。死体を操り人形にする価値はあるだろう。
しかしリヒトが話したがらないということは操られていた俺の死体は酷い有様だったに違いない。
死因はカインに心臓を剣で一突きされたことだが、それに加えて闇の魔術を受けた結果惨いことになったのだろう。
皇帝の座を狙ったディストに横槍を入れられ争った結果カインは国を滅ぼしたのだろうか。
いや、元々は俺がカインを追放した上にその後も皇帝としての責務を果たさず腐ってばかりいたからだ。
つまり反省した今の俺がちゃんとすればそういうことにはならないのだ。
■■■
「レオン兄様、こんな場所で眠ってはいけません」
城内にある庭園。設置された白いベンチに座っていた俺は弟に肩を揺すられ目を覚ました。
一緒に座っているカインの話を聞いている内に居眠りをしていたらしい。申し訳ないことをした。
「眠いなら部屋にお戻りください。風邪を引いたら大変です」
「いや、もう大丈夫だ。すまないカイン」
俺を気遣ってくれる弟にそう言って頭を撫でる。すっかり懐いた猫のようにカインは気持ちよさそうな顔をした。
ディストの件が自分でも予想以上にショックだったらしい。俺はここ数日夜になっても余り眠れないでいた。
しかし居眠りをしてうっかりカインの側にもたれかからなくてよかった、俺の巨体でその小柄な体を潰しかねない。
今はこんなに身長差があるのに、十年後は逆に追い抜かされるのか。いや体重では圧勝だったがそれは誇ることではないだろう。
「……痩せた方がいいかな」
「えっ」
俺が呟いた言葉にカインが驚いたような声を上げた。
「いや、確かに痩せても俺はお前みたいに美形じゃないし、けど、そういう目的じゃなくて、健康の為というか」
いかん。どうしても卑屈な考えが口に出てしまう。今回は弟に対する妬み嫉みは封印するつもりだったのに。
「レオン兄様は今でも十分素敵です!」
宝石よりも綺麗な目をきらきらと輝かせカインは力説する。
「そ、そうか?」
「そうです!ふかふかして、大きな熊のぬいぐるみみたいで、抱き着いたらもふってしてそうで、僕はとてもいいと思います!」
「……そうか」
まあ七歳児にとって大きなぬいぐるみはそれなりに魅力的なものだろう。その内機会があったら贈ることにしよう。
「でもこのままだと大人になった俺は動くこともできないぐらい太ってそうだからなあ」
そうしたらカインとこうやって散歩も出来なくなる。俺がそう言うと弟はそれは嫌だと首を振った。
「僕は、大人になっても兄様と一緒に散歩したり、色々なことを一緒にしたいです」
「そうだな。今度こそそうしような」
でも今回のお前も皇帝の座を欲したら、その時俺はどうすればいいのだろう。良くないことだとわかっていても、そんな考えが浮かぶ。
カインだけじゃない。ディストもだ。どちらに譲っても争いは起きる気がする。
一番いいのは俺が二人に皇帝として相応しい存在だと心から認めて貰えることだ。
地位以外の全てが俺より圧倒的に優れている二人に。
「……険しい道のりどころか、ほぼ崖だな」
「レオン兄様?」
「カイン、今度二人でボール遊びでもしてみるか。体を動かす遊びを増やしてみよう」
俺の提案にカインは嬉しそうに頷いた。結局やれることをやるしかない。
そして今できることは俺を殺した弟に好かれる為の努力をすることだった。
死体を闇の魔術を用いて操り隷属させる。
高位のネクロマンサーなら死体に会話をさせたり生前と同じ姿にすることも可能らしい。
そしてリヒトの説明によると、大人になったディストはそのネクロマンサーになっていたということだった。
彼に盗まれた俺の死体がどういう状態になったのかは教えてくれなかったが、ここまで聞いて俺は察した。
ディストは俺の従兄弟だ。彼がカインを欺き皇帝である俺を殺させ、その後裏切り俺の死体を盗んだ理由。
それはきっと自分が皇帝になる為の作戦だったのだろう。ネクロマンサーは死体を使って色々なことができるらしい。
俺自身は全く皇帝に向いてなかったが、それでも皇帝だったことには変わりはない。死体を操り人形にする価値はあるだろう。
しかしリヒトが話したがらないということは操られていた俺の死体は酷い有様だったに違いない。
死因はカインに心臓を剣で一突きされたことだが、それに加えて闇の魔術を受けた結果惨いことになったのだろう。
皇帝の座を狙ったディストに横槍を入れられ争った結果カインは国を滅ぼしたのだろうか。
いや、元々は俺がカインを追放した上にその後も皇帝としての責務を果たさず腐ってばかりいたからだ。
つまり反省した今の俺がちゃんとすればそういうことにはならないのだ。
■■■
「レオン兄様、こんな場所で眠ってはいけません」
城内にある庭園。設置された白いベンチに座っていた俺は弟に肩を揺すられ目を覚ました。
一緒に座っているカインの話を聞いている内に居眠りをしていたらしい。申し訳ないことをした。
「眠いなら部屋にお戻りください。風邪を引いたら大変です」
「いや、もう大丈夫だ。すまないカイン」
俺を気遣ってくれる弟にそう言って頭を撫でる。すっかり懐いた猫のようにカインは気持ちよさそうな顔をした。
ディストの件が自分でも予想以上にショックだったらしい。俺はここ数日夜になっても余り眠れないでいた。
しかし居眠りをしてうっかりカインの側にもたれかからなくてよかった、俺の巨体でその小柄な体を潰しかねない。
今はこんなに身長差があるのに、十年後は逆に追い抜かされるのか。いや体重では圧勝だったがそれは誇ることではないだろう。
「……痩せた方がいいかな」
「えっ」
俺が呟いた言葉にカインが驚いたような声を上げた。
「いや、確かに痩せても俺はお前みたいに美形じゃないし、けど、そういう目的じゃなくて、健康の為というか」
いかん。どうしても卑屈な考えが口に出てしまう。今回は弟に対する妬み嫉みは封印するつもりだったのに。
「レオン兄様は今でも十分素敵です!」
宝石よりも綺麗な目をきらきらと輝かせカインは力説する。
「そ、そうか?」
「そうです!ふかふかして、大きな熊のぬいぐるみみたいで、抱き着いたらもふってしてそうで、僕はとてもいいと思います!」
「……そうか」
まあ七歳児にとって大きなぬいぐるみはそれなりに魅力的なものだろう。その内機会があったら贈ることにしよう。
「でもこのままだと大人になった俺は動くこともできないぐらい太ってそうだからなあ」
そうしたらカインとこうやって散歩も出来なくなる。俺がそう言うと弟はそれは嫌だと首を振った。
「僕は、大人になっても兄様と一緒に散歩したり、色々なことを一緒にしたいです」
「そうだな。今度こそそうしような」
でも今回のお前も皇帝の座を欲したら、その時俺はどうすればいいのだろう。良くないことだとわかっていても、そんな考えが浮かぶ。
カインだけじゃない。ディストもだ。どちらに譲っても争いは起きる気がする。
一番いいのは俺が二人に皇帝として相応しい存在だと心から認めて貰えることだ。
地位以外の全てが俺より圧倒的に優れている二人に。
「……険しい道のりどころか、ほぼ崖だな」
「レオン兄様?」
「カイン、今度二人でボール遊びでもしてみるか。体を動かす遊びを増やしてみよう」
俺の提案にカインは嬉しそうに頷いた。結局やれることをやるしかない。
そして今できることは俺を殺した弟に好かれる為の努力をすることだった。
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