2 / 88
2話 黒猫の賢者
しおりを挟む
自分の背丈よりも大きな鏡には金色の髪の太った子供が映し出されていた。
右腕を上げたり頬を抓ってみたりすると鏡の中でも同じ行動をする。信じがたいがやはりこれは俺らしい。
確かにふくよかだが白豚皇帝と呼ばれていた時程ではない。何よりも子供時代まで若返っている。
「どういうことだ……?」
「だからさっき言っただろ、二十年前に戻ったんだって」
本当に頭が悪いな。そう最早聞き慣れた声の方に振り返る。最初は窓の外側から誰かが話しかけてきているのかと思った。
しかし実際は違った。見覚えのない黒猫がカーテンからひょっこりと出てきたのだ。
「な、猫が喋った……?」
「そんなことでいちいち驚くなよ。死んだ人間が甦った上に若返っているのに」
呆れたような声で言われて自分の姿を見る。
確かにこれに比べれば猫が人語を話すことなど大したことはないのかもしれない。
「それもそうだな」
「へえ……カインに聞いていたよりも柔軟ではあるんだな」
「貴様、弟の知り合いなのか?」
「知り合いってだけならあんたにも会ったことがあるけど」
そう黒猫に言われて首を傾げる。全く心当たりがない。
猫はこちらの返答を求める様子もなく鏡の前まで四足歩行で移動してきた。つまり俺の足元だ。
その途端、鏡に映る己の姿が別の人物によって遮られる。それは黒いローブを纏った青年の姿だった。
老人という年齢ではないが髪は白に近い灰色で、両目を隠すように顔には大きな布が巻かれていた。夜に出会ったら悪霊と間違えてしまうかもしれない。
「……これが、貴様の真の姿か?」
「そ。俺はカインのダチのリヒト。一応賢者。ちなみにカインがあんたを殺す時に一緒にいた奴でもある」
「ああ、あの時の。随分と様子が変わったな」
「……いや変わったのはあんたの方が、っていうかカイン虐めて追放した割に俺に対して態度が柔らかすぎない?」
本当にあの白豚皇帝なのか。そう賢者と名乗る男に言われ、確かに余であると胸を張って答えた。
「カインには申し訳ないが傲慢でい続けるのは正直疲れてしまってな。寧ろ殺されてさっぱりした気がする」
「もっとあいつに申し訳ないと思えよ、カインあんた殺してから心病んで国滅ぼしたりしたんだから」
色々最悪だったよ。そう抑揚無く話す男の表情は鏡越しでも読み取れなかった。
成程、だからこその白髪と盲目化か。俺と違い武力に秀で優れた肉体を持った弟だ。
その暴走を力尽くで押さえ付けようとしてもさぞかし苦労しただろう。
「なんていうか、殺す前に気づいてやればよかったけどカインはあんたが全てだったんだよ」
地位も名声も富も女も何一つあいつの心を繋ぎ止めることはできなかった。
そう苦しそうに告げられやはり申し訳なく思うしか出来ない。それを正直に告げるとそういうところが駄目なんだよと黒猫に叱られた。
「はあ、もういいよ。俺が考えていたよりはクズじゃないことがわかったし、俺もあんたの輪廻を勝手にいじくったし」
「やはり余が若返ったのは貴様の仕業か」
「そうだよ。あとガキがいっちょ前の顔して余とかふんぞり返っているの面白いから止めてくれる?学芸会かよ」
「失礼な。だがまあ、確かに俺の方が楽ではあるな」
「これからはそっちにしなよ」
「これから……ということはやはりまた余……俺はレオンハルトとして生き直すことになるのか」
「そうだよ。あんたが昔カインを虐めて追放したせいであいつの人生は狂った。だからやり直して修正するとしたらカインじゃなくあんたの方なんだ」
そのことに気づいたから今回はあんたの監視役になることにした。その発言と共に俺の足の甲に黒猫の前足が乗せられた。
鏡の中の青年は腕を組んだままだがしっかりと俺の足を踏んでいる。まさに子供に対して大人げがないという奴だ。
「ガキなのは姿だけだろ」
そう言い返されてそれもそうだと納得した。
確かに自分の精神が当時のままならこのような無礼を許してはいないだろう。しかし二十年前というと十二歳か。
カインを弟と紹介されてから一年後だ。それを考えると気が重くなった。もう既にきつく当たってしまった後だ。
「どうせなら出会う前まで戻してくれればよかったのに」
「加害者の癖に贅沢言うな、俺だって出来ればそうしたかったよ」
それにお前のカインへの酷い仕打ちは数年続いたそうじゃないか、今更一年ぐらいなんだ。そう黒猫、いやリヒトに言われて耳が痛くなる。
「今からでも遅くない。謝って弟をベタベタに可愛がって今度こそ死ぬまで仲良く暮らせ」
じゃないと俺が知る中で最悪の地獄にお前を落としてやる。
禍々しい衣装に身を包んだ賢者に迫力たっぷりに言われて俺は頷くしかなかった。
右腕を上げたり頬を抓ってみたりすると鏡の中でも同じ行動をする。信じがたいがやはりこれは俺らしい。
確かにふくよかだが白豚皇帝と呼ばれていた時程ではない。何よりも子供時代まで若返っている。
「どういうことだ……?」
「だからさっき言っただろ、二十年前に戻ったんだって」
本当に頭が悪いな。そう最早聞き慣れた声の方に振り返る。最初は窓の外側から誰かが話しかけてきているのかと思った。
しかし実際は違った。見覚えのない黒猫がカーテンからひょっこりと出てきたのだ。
「な、猫が喋った……?」
「そんなことでいちいち驚くなよ。死んだ人間が甦った上に若返っているのに」
呆れたような声で言われて自分の姿を見る。
確かにこれに比べれば猫が人語を話すことなど大したことはないのかもしれない。
「それもそうだな」
「へえ……カインに聞いていたよりも柔軟ではあるんだな」
「貴様、弟の知り合いなのか?」
「知り合いってだけならあんたにも会ったことがあるけど」
そう黒猫に言われて首を傾げる。全く心当たりがない。
猫はこちらの返答を求める様子もなく鏡の前まで四足歩行で移動してきた。つまり俺の足元だ。
その途端、鏡に映る己の姿が別の人物によって遮られる。それは黒いローブを纏った青年の姿だった。
老人という年齢ではないが髪は白に近い灰色で、両目を隠すように顔には大きな布が巻かれていた。夜に出会ったら悪霊と間違えてしまうかもしれない。
「……これが、貴様の真の姿か?」
「そ。俺はカインのダチのリヒト。一応賢者。ちなみにカインがあんたを殺す時に一緒にいた奴でもある」
「ああ、あの時の。随分と様子が変わったな」
「……いや変わったのはあんたの方が、っていうかカイン虐めて追放した割に俺に対して態度が柔らかすぎない?」
本当にあの白豚皇帝なのか。そう賢者と名乗る男に言われ、確かに余であると胸を張って答えた。
「カインには申し訳ないが傲慢でい続けるのは正直疲れてしまってな。寧ろ殺されてさっぱりした気がする」
「もっとあいつに申し訳ないと思えよ、カインあんた殺してから心病んで国滅ぼしたりしたんだから」
色々最悪だったよ。そう抑揚無く話す男の表情は鏡越しでも読み取れなかった。
成程、だからこその白髪と盲目化か。俺と違い武力に秀で優れた肉体を持った弟だ。
その暴走を力尽くで押さえ付けようとしてもさぞかし苦労しただろう。
「なんていうか、殺す前に気づいてやればよかったけどカインはあんたが全てだったんだよ」
地位も名声も富も女も何一つあいつの心を繋ぎ止めることはできなかった。
そう苦しそうに告げられやはり申し訳なく思うしか出来ない。それを正直に告げるとそういうところが駄目なんだよと黒猫に叱られた。
「はあ、もういいよ。俺が考えていたよりはクズじゃないことがわかったし、俺もあんたの輪廻を勝手にいじくったし」
「やはり余が若返ったのは貴様の仕業か」
「そうだよ。あとガキがいっちょ前の顔して余とかふんぞり返っているの面白いから止めてくれる?学芸会かよ」
「失礼な。だがまあ、確かに俺の方が楽ではあるな」
「これからはそっちにしなよ」
「これから……ということはやはりまた余……俺はレオンハルトとして生き直すことになるのか」
「そうだよ。あんたが昔カインを虐めて追放したせいであいつの人生は狂った。だからやり直して修正するとしたらカインじゃなくあんたの方なんだ」
そのことに気づいたから今回はあんたの監視役になることにした。その発言と共に俺の足の甲に黒猫の前足が乗せられた。
鏡の中の青年は腕を組んだままだがしっかりと俺の足を踏んでいる。まさに子供に対して大人げがないという奴だ。
「ガキなのは姿だけだろ」
そう言い返されてそれもそうだと納得した。
確かに自分の精神が当時のままならこのような無礼を許してはいないだろう。しかし二十年前というと十二歳か。
カインを弟と紹介されてから一年後だ。それを考えると気が重くなった。もう既にきつく当たってしまった後だ。
「どうせなら出会う前まで戻してくれればよかったのに」
「加害者の癖に贅沢言うな、俺だって出来ればそうしたかったよ」
それにお前のカインへの酷い仕打ちは数年続いたそうじゃないか、今更一年ぐらいなんだ。そう黒猫、いやリヒトに言われて耳が痛くなる。
「今からでも遅くない。謝って弟をベタベタに可愛がって今度こそ死ぬまで仲良く暮らせ」
じゃないと俺が知る中で最悪の地獄にお前を落としてやる。
禍々しい衣装に身を包んだ賢者に迫力たっぷりに言われて俺は頷くしかなかった。
160
お気に入りに追加
3,981
あなたにおすすめの小説
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
悪役の俺だけど性的な目で見られています…(震)
彩ノ華
BL
悪役に転生した主人公が周りから性的な(エロい)目で見られる話
*ゆるゆる更新
*素人作品
*頭空っぽにして楽しんでください
⚠︎︎エロにもちょいエロでも→*をつけます!
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
性的に奔放なのが常識な異世界で
霧乃ふー 短編
BL
幼い頃、ふとした瞬間に日本人の男子学生であることを思い出した。ファンタジーな異世界に転生したらしい俺は充実感のある毎日を送っていた。
ある日、家族に成人を祝ってもらい幸せなまま眠りについた。
次の日、この異世界の常識を体で知ることになるとは知らずに幸せな眠りに微睡んでいた……
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる