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第一章
45.能力について
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イメリアの妹の人魚病が完治した時だけ教えてほしい。
エリスティアは侍女の従姉であるエルナにそう頼んだ。
それは卑怯で無神経な願いかもしれない。
良い報せしか耳に入れたくないというのは。
だからイメリアには頼めなかったのだ。
けれど責めることなくエルナは快諾した。
エリスティアはそれでようやく人魚病について心に一区切りをつけることが出来た。
油断は出来ないがそれでも穏やかな日常。
黒髪の少女はそれを取り戻し、少しづつ心からの笑顔も増えてきた頃だった。
「えっ? ビアンカ先生が新しいフィリル男爵になるのですか?」
「そうだ、この国では女性も爵位を継ぐことが認められているからな」
但し珍しいことではある。そうエリスティアの父である現フィリル男爵は告げた。
数日前から風邪を患っていた彼は今娘から治癒を受けている。
楽になりたいからではない、エリスティアの能力を確認する為だった。
「もうこれぐらいで良い」
「でも、そうするときっと又咳が出てしまうわ」
「熱も下がったし喉の痛みは大分軽くなった、完全に治すと周囲が訝しむ」
ただでさえ医者を呼んでいないのだから。
そう説明するユーグに彼の娘は少しだけ不満そうな顔をした。
「お父様には苦しい思いをして欲しくないのに……」
「もう大して苦しくないよ、可愛いエリスティア」
父に髪を撫でられ黒髪の少女は擽ったそうに笑う。
執務室のソファーで娘を膝に乗せながらユーグは感心したように呟いた。
「しかし、怪我だけではなく病気まで治してしまうとは本当に奇跡の力だな」
何回でも驚いてしまう。
整っているが表情の乏しい顔で言われ、エリスティアの笑みは複雑になった。
褒めてもらえて、喜んでもらえるだけならきっとこの力を無邪気に愛せたのだ。
けれどそれだけではなかった、寧ろ力を使えば使うほど感謝はされなくなっていった。
王妃は足りない、不完全だとエリスティアを罵りながらその治癒を求めた。
毎回呼ばれる度に不調を治してはいたのだ。
王妃の人外めいた肥満体と不摂生な生活のせいですぐ再発するだけで。
もしかしたら、本当に癒すべきは腰や肩では無かったのかもしれない。
エリスティアは不意に気付いた。
セイナ王妃の肥満が解消されれば膝や腰への負担は軽くなった筈だ。
しかし肥満は病気だろうか、少なくとも怪我ではないだろう。
女神ラーヴァの愛し子は首を傾げる。
「そういえばエリスティア」
「はい、お父様」
「お前は相手から申告された箇所以外の怪我や病気には気付けるのか?」
黒髪の少女は赤い瞳を大きく見開いた。
そんな質問をされたのが初めてだからだ。
エリスティアは侍女の従姉であるエルナにそう頼んだ。
それは卑怯で無神経な願いかもしれない。
良い報せしか耳に入れたくないというのは。
だからイメリアには頼めなかったのだ。
けれど責めることなくエルナは快諾した。
エリスティアはそれでようやく人魚病について心に一区切りをつけることが出来た。
油断は出来ないがそれでも穏やかな日常。
黒髪の少女はそれを取り戻し、少しづつ心からの笑顔も増えてきた頃だった。
「えっ? ビアンカ先生が新しいフィリル男爵になるのですか?」
「そうだ、この国では女性も爵位を継ぐことが認められているからな」
但し珍しいことではある。そうエリスティアの父である現フィリル男爵は告げた。
数日前から風邪を患っていた彼は今娘から治癒を受けている。
楽になりたいからではない、エリスティアの能力を確認する為だった。
「もうこれぐらいで良い」
「でも、そうするときっと又咳が出てしまうわ」
「熱も下がったし喉の痛みは大分軽くなった、完全に治すと周囲が訝しむ」
ただでさえ医者を呼んでいないのだから。
そう説明するユーグに彼の娘は少しだけ不満そうな顔をした。
「お父様には苦しい思いをして欲しくないのに……」
「もう大して苦しくないよ、可愛いエリスティア」
父に髪を撫でられ黒髪の少女は擽ったそうに笑う。
執務室のソファーで娘を膝に乗せながらユーグは感心したように呟いた。
「しかし、怪我だけではなく病気まで治してしまうとは本当に奇跡の力だな」
何回でも驚いてしまう。
整っているが表情の乏しい顔で言われ、エリスティアの笑みは複雑になった。
褒めてもらえて、喜んでもらえるだけならきっとこの力を無邪気に愛せたのだ。
けれどそれだけではなかった、寧ろ力を使えば使うほど感謝はされなくなっていった。
王妃は足りない、不完全だとエリスティアを罵りながらその治癒を求めた。
毎回呼ばれる度に不調を治してはいたのだ。
王妃の人外めいた肥満体と不摂生な生活のせいですぐ再発するだけで。
もしかしたら、本当に癒すべきは腰や肩では無かったのかもしれない。
エリスティアは不意に気付いた。
セイナ王妃の肥満が解消されれば膝や腰への負担は軽くなった筈だ。
しかし肥満は病気だろうか、少なくとも怪我ではないだろう。
女神ラーヴァの愛し子は首を傾げる。
「そういえばエリスティア」
「はい、お父様」
「お前は相手から申告された箇所以外の怪我や病気には気付けるのか?」
黒髪の少女は赤い瞳を大きく見開いた。
そんな質問をされたのが初めてだからだ。
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