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第一章

41.秘密は黙っている

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「第一王子と、同じ病気……?」

 エリスティアの言葉に侍女はしまったという顔をする。

「申し訳ありません、今の発言はお忘れください!」

 お医者様にも口止めされていたのに。
 そう顔を青くして頭を下げるイメリアにエリスティアは戸惑う。
 取り合えず安心させる為微笑んだ。

「安心して、誰にも言いふらしたりはしないわ」
「良かった……本当に有難う御座います!」
「でも人魚病って人に話してはいけない病気なの? 私も初めて知ったけれど……」

 第一王子がその病気だったことも今聞いたわ
 黒髪の少女の疑問にイメリアは答えを迷っているようだ。

 彼女が無理なら後で父に教えて貰うか。
 エリスティアがそう判断しかけた頃侍女の口から言葉が出る。

「人魚病の患者は、病気が進むと鱗がどんどん増えて魚人みたいになるんです」

 妹はまだ下半身だけで済んでいるけれど。
 侍女の言葉に想像するのは以前読んでもらった絵本の人魚姫だ。

 だがあんな美しいものではないのだろう。

「鱗が生えた部分は濡れていないと酷く痛むらしく……見ていてとても可哀想です」

 掌や足の裏にびっしり鱗が生えると物を握ったり歩くことすら出来なくなるらしい。
 イメリアから教えられる症状はとても大変そうなものばかりだ。

 この恐ろしい病気は有名な医師でも治すことが出来ないらしい。
 だから王妃は女神の愛し子であるエリスティアを王宮に攫ってきたのだろうか。

 しかし王宮に連れてこられて後エリスティアは人魚病の患者に会ったことは一度もない。
 再び王妃の考えがわからなくなる。

「妹は絶対一人にしちゃいけないんです。人魚病を知らない人に魔物と間違えられて退治されてしまうかもしれないから……妹は、魔物なんかじゃないのにっ……!!」

 イメリアの瞳から堰を切ったように涙が零れる。
 どうやら人魚病になると外見で酷く差別されるようだ。

 エリスティアは彼女が黒髪の自分に対し最初から恐れも蔑みもせず接してくれていたことを思い出す。
 あれは人魚病の妹がいたから出来たことなのかもしれない。

「そうね、こんなに優しいイメリアの妹さんが魔物なんて有り得ないわ」

 侍女の涙を拭いながらエリスティアが言う。

「私もその病気が良くなるようにこれから毎日お祈りするわね」
「お嬢様……本当に、有難うございます!!」


 拝むようにして感謝するイメリアに黒髪の少女は罪悪感を抱く。
 本当は、癒せるのだ。彼女の妹を苦しめている人魚病とやらを。
 
 でも二度と人前で癒しの力を使いたくない。誰にも知られたくない、気づかれたくない。
 捕まえられたくないから黙っているのだ。

 大切な侍女の大切な妹なのに。

 エリスティアは自己嫌悪で胃が爛れていくのを感じた。
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