37 / 51
第一章
36.復讐を問う声
しおりを挟む
孤独だった死に際を思い出し女神の愛し子と呼ばれた少女は涙を零し続けた。
父の腕に抱かれ泣きじゃくっていたエリスティアだがやがて落ち着きを取り戻す。
「お父様、ごめんなさい……」
「何を謝る」
「急に泣いたりして……でも、もう大丈夫だから」
抱きしめなくていい。そうエリスティアが言おうとした途端ユーグ男爵は彼女を優しく持ち上げた。
「えっ、えっ」
驚く少女を白髪の美紳士は軽々と運ぶ。
そしてソファーに腰掛けると自分の膝にエリスティアを乗せた。
「落ち着いたなら話の続きをしよう」
それとも一旦お茶でも飲むか?
父に言われエリスティアはブンブンと首を振る。
この光景を侍女のイメリアに見られたら恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまうと思ったからだ。
それでも自分の意志で父の膝から離れたくないのは何故だろう。
もじもじと恥じらう黒髪の少女の頭をユーグ男爵は愛おしそうに撫でた。
「そういえば、女神ラーヴァとやらもお前と同じ色の神と瞳をしていると言っていたな」
父にそう言われエリスティアは頷く。
「それと関係するかは不明だが、この髪に関することで変わったことが分かった」
「変わったこと?」
「ああ、侍女がその前髪を散髪したことがあっただろう。その時の髪を使って実験してみた」
大分前にお前が髪の色を変えたいと言ったことがあっただろう。
父に言われてエリスティアは過去の発言を思い出す。
確かにそんなことを口にした気がする。
父の白い髪のように自分の黒髪も別の色に出来たらいいのにと。
だが黒を別の色に上書きなど出来ないと自ら結論付け諦めていた。
「色の濃い髪の場合薬剤で色を抜いた上で染色する方法があると聞いて試したんだ」
「そんなことが出来るの?」
「薬剤で髪と肌が荒れる可能性もあるらしいが、切り落とした後の髪なら問題ないからな」
だが駄目だった。そう父に言われエリスティアはガッカリした。
しかしどの部分で失敗したのかには興味がある。
「どう上手くいかなかったのですか」
「そもそも髪の色が全く落ちなかった。一週間漬け込んでみてもだ」
「それは……薬が弱かったとかではなくて」
「いや、レイの髪でも実験したがそちらは綺麗に色が抜けて透き通っていた」
つまりお前の髪には特別な何かがあるんだ。
そう言われエリスティアは複雑な気持ちになった。
「そんな特別はあまり嬉しくないです……」
「もしかしたらそれも女神の加護なのかもしれない」
「……私には、加護というより呪いに思えます」
黒髪の少女は暗く呟いた。
イメリアがどれだけ優しく梳いてくれても、この髪は好きになれない。
悲しく苦しい記憶が黒色に絡みついてくる。
ただ同じ黒髪であるレイと出会ってからは、少しだけそんな気持ちも緩和されつつあった。
それでも祝福だと誇りには思えない。少なくとも今は。
「そもそも女神ラーヴァはなんで私を選んだのでしょう」
「何か聞いていないのか?」
「いいえ、今思えば聞けばよかったと思います。私が死んだ後聖女扱いになっていたとは教えて貰ったけれど」
「聖女?」
「ええ、王妃の不治の病を治療して亡くなったとかで……嘘ばっかり。あの人は暴飲暴食を止めず太りすぎていただけ」
そのせいで自分は転生する力もない程魂が疲弊してしまった。
エリスティアの赤い瞳に恨みの炎が宿る。
ユーグ男爵はそんな娘に静かに声をかけた。
「エリスティア、お前を殺した王家に……復讐したいか?」
父の腕に抱かれ泣きじゃくっていたエリスティアだがやがて落ち着きを取り戻す。
「お父様、ごめんなさい……」
「何を謝る」
「急に泣いたりして……でも、もう大丈夫だから」
抱きしめなくていい。そうエリスティアが言おうとした途端ユーグ男爵は彼女を優しく持ち上げた。
「えっ、えっ」
驚く少女を白髪の美紳士は軽々と運ぶ。
そしてソファーに腰掛けると自分の膝にエリスティアを乗せた。
「落ち着いたなら話の続きをしよう」
それとも一旦お茶でも飲むか?
父に言われエリスティアはブンブンと首を振る。
この光景を侍女のイメリアに見られたら恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまうと思ったからだ。
それでも自分の意志で父の膝から離れたくないのは何故だろう。
もじもじと恥じらう黒髪の少女の頭をユーグ男爵は愛おしそうに撫でた。
「そういえば、女神ラーヴァとやらもお前と同じ色の神と瞳をしていると言っていたな」
父にそう言われエリスティアは頷く。
「それと関係するかは不明だが、この髪に関することで変わったことが分かった」
「変わったこと?」
「ああ、侍女がその前髪を散髪したことがあっただろう。その時の髪を使って実験してみた」
大分前にお前が髪の色を変えたいと言ったことがあっただろう。
父に言われてエリスティアは過去の発言を思い出す。
確かにそんなことを口にした気がする。
父の白い髪のように自分の黒髪も別の色に出来たらいいのにと。
だが黒を別の色に上書きなど出来ないと自ら結論付け諦めていた。
「色の濃い髪の場合薬剤で色を抜いた上で染色する方法があると聞いて試したんだ」
「そんなことが出来るの?」
「薬剤で髪と肌が荒れる可能性もあるらしいが、切り落とした後の髪なら問題ないからな」
だが駄目だった。そう父に言われエリスティアはガッカリした。
しかしどの部分で失敗したのかには興味がある。
「どう上手くいかなかったのですか」
「そもそも髪の色が全く落ちなかった。一週間漬け込んでみてもだ」
「それは……薬が弱かったとかではなくて」
「いや、レイの髪でも実験したがそちらは綺麗に色が抜けて透き通っていた」
つまりお前の髪には特別な何かがあるんだ。
そう言われエリスティアは複雑な気持ちになった。
「そんな特別はあまり嬉しくないです……」
「もしかしたらそれも女神の加護なのかもしれない」
「……私には、加護というより呪いに思えます」
黒髪の少女は暗く呟いた。
イメリアがどれだけ優しく梳いてくれても、この髪は好きになれない。
悲しく苦しい記憶が黒色に絡みついてくる。
ただ同じ黒髪であるレイと出会ってからは、少しだけそんな気持ちも緩和されつつあった。
それでも祝福だと誇りには思えない。少なくとも今は。
「そもそも女神ラーヴァはなんで私を選んだのでしょう」
「何か聞いていないのか?」
「いいえ、今思えば聞けばよかったと思います。私が死んだ後聖女扱いになっていたとは教えて貰ったけれど」
「聖女?」
「ええ、王妃の不治の病を治療して亡くなったとかで……嘘ばっかり。あの人は暴飲暴食を止めず太りすぎていただけ」
そのせいで自分は転生する力もない程魂が疲弊してしまった。
エリスティアの赤い瞳に恨みの炎が宿る。
ユーグ男爵はそんな娘に静かに声をかけた。
「エリスティア、お前を殺した王家に……復讐したいか?」
15
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる