過労死した聖女は死に戻った先で安らぎを手に入れる~私を利用し続けた王家や婚約者はもう不要です~

砂礫レキ

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第一章

30.廊下で二人きり

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「さっきの話を聞いて……アスラ国が嫌いになったか?」

 扉越しのレイの問いかけにエリスティアは返答に迷う。
 嫌いとは又違う。ただショックだった。

 でもその原因は自分がアスラ国に対して都合のいいイメージを抱いていたからだ。
 よく知りもしないのに、黒髪を受け入れるという一点で素晴らしい楽園だと思ってしまった。
 エリスティアはそう自分の中で結論づけると口を開いた。

「嫌いには、なっていないわ。ただ少し怖くなったの。私の目も真っ赤だから……」

 アスラ国の人たちにも嫌われたり恐れられたりしたらどうしよう。
 そう言葉にした途端エリスティアの瞳から涙が零れ落ちた。
 扉を閉じたままで良かったと黒髪の少女は思う。
 この程度で泣いてしまう程弱い人間だとレイに思われたくなかった。

「でも、今は平気。妹巫女は可哀想だけれど、私は彼女みたいにはならないから」

 エリスティアの言葉は半分は本音で半分は強がりだった。
 与えられない信頼を求めて身を削るような真似なんて二度としない。
 言いなりになっていればいつか救われるなんて思わない。

 王宮で王妃セイナからの呼び出しに怯え、アキム第二王子の訪れを待ち望んでいた日々。
 でも彼が助けに来てくれることは無くエリスティアは疲れ果て一人ぼっちで死んでいった。

 当たり前だ。そもそも地獄に連れてきたのが彼なのだから。
 アキム王子の役割はきっとそれで終わり。
 実際会うことが出来たとしても、王宮から逃がしてくれる筈なんて無かった。 

 エリスティアを王妃への生贄に捧げた彼は、その頃平民の恋人と愛し合っていたのかもしれない。
 アキム王子を憎いと思うより、自分が哀れだなと思う。
 何も知らなくて、愛されたくて、求められたくて、助けられたくて、抜け出したくて、必死だった。
 
 少年が笑顔で差し伸べた手の先の企みなど全く見えないまま、必死でその手に縋った。

 でも今は違う。

「私は尽くす相手は選ぶ。自分を利用するだけの人に関わることはしない」

 それにそういう人たちは国なんて関係なく、どこにでもいるでしょう?
 そうエリスティアは皮肉気に笑った。

「アスラ国に行く前にさっきの話を知って寧ろ良かったと思う。心構えが出来たもの」
「エリスティア……」
「ただ、赤い目がそんなに嫌われているなら対策は必要よね」

 包帯でも巻いて見えなくした方がいいだろうか。
 エリスティアがそんなことを考えていると扉が向うから軽く叩かれた。

「ごめん、やっぱり中に入っていいか」

 そうレイに聞かれ、エリスティアは自ら扉を開く。
 黒髪の少年が廊下に立っていた。イメリアの姿は無い。


「イメリアはついてきていないのね」
「お前の部屋に居るよ。呼べばすぐ来ると思う」

 二人きりが嫌なら、そうレイが言う。エリスティアは別に嫌じゃないと答えた。

「でもお部屋で二人きりはお父さまが怒るわね」
「じゃあ廊下で話そう」

 黒髪の少年に言われてエリスティアは頷いた。 
 二人の子供は仲良く廊下にしゃがみ込む。

「目、見えなくするなんて言うなよ」

 そんなに綺麗なのに。
 レイにそう言われエリスティアは自らの頬に熱が集まるのを感じた。
 
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