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第一章
27.アスラ国の昔話
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「エリーお嬢様の親戚に黒髪紅眼の人間はいるのか?」
アスラ語の授業が終わった後の休憩時間。
イメリアが用意してくれたお茶とお菓子を楽しんでいるエリスティアにレイが尋ねる。
「エリーでいいのに」
エリスティアはまずそう返した。
「男爵に聞かれたらまた拗ねられるだろ」
黒髪の少年は溜息を吐いて紅茶を一口飲んだ。
エリスティアという名前は長くで呼びづらい。そう言い出したのはレイだ。
「貴族らしいし綺麗な名前だけど、時々舌噛みそうになる」
確かにエリスティアは自分が知る中で一番長い名前かもしれない。
そう知り合いの名前を頭に浮かべ黒髪の少女は思った。
「ならなんて呼ぶの? お前とかあんたと呼ばれるのは嫌だわ」
「じゃあエリーって呼んでいいか」
レイの提案をエリスティアは了承した。
しかしそれを気に入らない人物がいた。ユーグ男爵である。
「私だってずっとエリスティアをエリーと呼びたかったのに……」
彼は氷のような美貌を保ったまま大人げなく拗ねた。
呼びたかったなら呼べば良かったのに。
そうエリスティアは思ったが父はまだ娘との触れ合いに臆病な部分があるらしい。
罪悪感がまだ完全に抜けきっていないようだった。
しかしそれはそれとして男爵はしっかりと拗ねた。
結局エリー呼びは父であるユーグ男爵の特権になり、レイはエリーお嬢様と呼ぶことになった。
レイが若干呆れつつ雇い主に譲ったという形である。
「お父様が居ない時ならエリー呼びでいいのに」
「今更だけど、本当貴族のお嬢様と思えないよな」
使用人から呼び捨てにされて平気だなんて。
慣れた仕草でカップをソーサーに戻し黒髪の少年は言う。
エリスティアと一緒に行儀作法を習っているだけあって彼も動作が洗練されてきている。
衣服も支給された仕立ての良い物を身に着けているので貴族の子息に見える。
元々レイは顔立ちに品があるのだ。その上でとても整っている。
黒髪で無ければ養子に迎えたがる貴族は幾らでもいそうだった。
けれど血統を重んじるこの国の貴族に黒髪の人間はいない。
エリスティアが例外中の例外なのだ。
「私の親戚に黒髪は居ないと思うわ」
だからユーグ男爵は十年近く娘の本当の父親を捜し続けたのだ。
そしてその過程で平民であるレイを見つけたのだろう。
エリスティアの答えに黒髪の少年は納得した様だった。
「黒髪は見慣れてるけど、赤い瞳の人間は俺も初めて見たな」
「そうなの?」
「ああ、でも母さんが話してくれたアスラ国の昔話には出て来た」
「アスラ国の、昔話?」
目をキラキラさせ鸚鵡返しをするエリスティアにレイは少しだけ気まずそうな顔をする。
「……聞きたいのか?」
「聞きたいに決まっているわ!」
「あんまり、幸せな話じゃないんだけどな」
これは金の髪に紅玉の瞳を持つ可哀想な娘の話だ。
そう前置きをして黒髪の少年は話し始めた。
アスラ語の授業が終わった後の休憩時間。
イメリアが用意してくれたお茶とお菓子を楽しんでいるエリスティアにレイが尋ねる。
「エリーでいいのに」
エリスティアはまずそう返した。
「男爵に聞かれたらまた拗ねられるだろ」
黒髪の少年は溜息を吐いて紅茶を一口飲んだ。
エリスティアという名前は長くで呼びづらい。そう言い出したのはレイだ。
「貴族らしいし綺麗な名前だけど、時々舌噛みそうになる」
確かにエリスティアは自分が知る中で一番長い名前かもしれない。
そう知り合いの名前を頭に浮かべ黒髪の少女は思った。
「ならなんて呼ぶの? お前とかあんたと呼ばれるのは嫌だわ」
「じゃあエリーって呼んでいいか」
レイの提案をエリスティアは了承した。
しかしそれを気に入らない人物がいた。ユーグ男爵である。
「私だってずっとエリスティアをエリーと呼びたかったのに……」
彼は氷のような美貌を保ったまま大人げなく拗ねた。
呼びたかったなら呼べば良かったのに。
そうエリスティアは思ったが父はまだ娘との触れ合いに臆病な部分があるらしい。
罪悪感がまだ完全に抜けきっていないようだった。
しかしそれはそれとして男爵はしっかりと拗ねた。
結局エリー呼びは父であるユーグ男爵の特権になり、レイはエリーお嬢様と呼ぶことになった。
レイが若干呆れつつ雇い主に譲ったという形である。
「お父様が居ない時ならエリー呼びでいいのに」
「今更だけど、本当貴族のお嬢様と思えないよな」
使用人から呼び捨てにされて平気だなんて。
慣れた仕草でカップをソーサーに戻し黒髪の少年は言う。
エリスティアと一緒に行儀作法を習っているだけあって彼も動作が洗練されてきている。
衣服も支給された仕立ての良い物を身に着けているので貴族の子息に見える。
元々レイは顔立ちに品があるのだ。その上でとても整っている。
黒髪で無ければ養子に迎えたがる貴族は幾らでもいそうだった。
けれど血統を重んじるこの国の貴族に黒髪の人間はいない。
エリスティアが例外中の例外なのだ。
「私の親戚に黒髪は居ないと思うわ」
だからユーグ男爵は十年近く娘の本当の父親を捜し続けたのだ。
そしてその過程で平民であるレイを見つけたのだろう。
エリスティアの答えに黒髪の少年は納得した様だった。
「黒髪は見慣れてるけど、赤い瞳の人間は俺も初めて見たな」
「そうなの?」
「ああ、でも母さんが話してくれたアスラ国の昔話には出て来た」
「アスラ国の、昔話?」
目をキラキラさせ鸚鵡返しをするエリスティアにレイは少しだけ気まずそうな顔をする。
「……聞きたいのか?」
「聞きたいに決まっているわ!」
「あんまり、幸せな話じゃないんだけどな」
これは金の髪に紅玉の瞳を持つ可哀想な娘の話だ。
そう前置きをして黒髪の少年は話し始めた。
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