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第一章

26.メイドから侍女へ

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 エリスティアがレイと一緒にいる時間が増えた結果、何故かイメリアがメイドから彼女専属の侍女へと昇進した。

 イメリアが黒髪の少女の侍女となるのはおかしくない。
 寧ろ今までそうでなかったことが不思議なレベルだ。

 屋敷の中でエリスティアの面倒を積極的に見たがるメイドはイメリアしか居なかった。
 そして彼女が積極的にエリスティア関連の仕事を受け持っていた。
 しかし他のメイドとしての業務も行っていた。

 以前のエリスティアは良くも悪くも手がかからない人形のような少女だった。
 イメリアとの会話である程度の自我は芽生えていたが、だからといって何かする訳でもない。
 部屋の中で一日を過ごし、終わる。着替えも自分で行っていた。

 しかし父と和解した後のエリスティアは違う。
 学び、動き、そして時に父の為着飾る。 運動の為部屋から出ることも増えた。
 イメリアの業務量も増えた。
 簡単な衣服ならエリスティアは一人で着替えられるがドレスはイメリアの助けが無いと無理だ。
 エリスティアのスケジュール管理も、遊戯室で怪我をしないよう見守ることもイメリアの仕事だ。
 ついでのようにレイの世話もしている。
  
 その上で他のメイド業務もこなそうとした彼女は過労になりかけ体調を崩したのだ。
 エリスティアはパニックになり大泣きした。
 男爵はそんな娘を慰めつつ大慌てでイメリアの業務を確認し、侍女へと配置換えをしたのだ。
 業務量は減り、給与は上がった。
 元気になったイメリアはホクホク顔をしてエリスティアの前に現れた。

「その上、今までの分も侍女としてのお給与で計算し直して頂けたんですよ!」

 支払われた差額で何を買おうかワクワクして不眠気味らしい。
 そんなイメリアに抱き着きながらエリスティアは「寝て!」と叫んだ。
 イメリアが抜けた業務の穴を埋める為新しいメイドが雇われるらしいが、どうせエリスティアと関わることはないだろう。
 それより今まで以上にイメリアと一緒にいる時間が増えたことに黒髪の少女は喜んだ。

「あ、そうそう。侍女になったからにはお嬢様とレイ君を絶対二人きりにしないようにと」

 男爵様から釘を刺されてしまいました。そう苦笑いで言う侍女にエリスティアは溜息を吐いた。

「お父様は本当心配性ね、私もレイも子供なのに」

 それにエリスティアは死に戻っているから精神年齢は二十歳だ。
 レイのことはそういう意味ではずっと年下の子供にしか思えない。
 そう父に対し呆れる少女だが、彼女が認識している程エリスティアの精神は生きていた年月相応ではない。

 学習の機会も与えられず軟禁されてきた男爵邸での暮らしと、王妃の治癒だけをし続けてきた王宮での暮らし。
 その中でエリスティアの心が順当に成長することは無かった。

 寧ろレイや他の教師と関り始めた半年間の方がずっと彼女の心を伸びやかに育てつつある。
 そしてエリスティアは接触した相手に心を許しやすい。
 父親である男爵の危惧は尤もだった。

 それでも彼には愛しい娘と黒髪の少年と一緒に居続けさせる理由があった。
 そんな日が来ない方がいいと思いながらも。
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