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第一章
25.子供たちの距離
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あっという間に半年が過ぎた。
それもエリスティアが驚くぐらい平和にだ。
アキム王子も王家からの使いも男爵邸の門を叩くことはなかった。
エリスティアの華奢過ぎた体は痩せ気味程度になった。
以前の暮らしでも別に食事制限をされていた訳ではなかった。
軟禁され希望を失っていたエリスティアが食事に興味を持てなかったのだ。
運動量が極端に少なかった事も関係があるかもしれない。
レイはアスラ語の教師以外に彼女の遊び相手に抜擢された。
同年代の気が合う人間と話したり遊ぶことはとても楽しいとエリスティアは知った。
二人で廊下で鬼ごっこをし、はしゃぎ過ぎてイメリアに軽く叱られたりもした。
「絶対階段の近くでは走り回らないでくださいよ!」
落ちたら大変ですから。そう珍しく表情を厳しいものにしてイメリアが説教する。
二人は神妙に頷いた。
「だけどエリスティアはもっと体を動かした方がいいと思う」
じゃないとアスラ国までの長旅なんて絶対無理だ。
そうレイがイメリアに話した翌々日には運動用の遊戯室が棟に増えていた。
死に戻る前公園で一度だけ見かけたブランコや滑り台などの遊具も揃っている。
その時は遊びたかったけれど、帽子が取れたらいけないとイメリアに止められて我慢した。
「ありがとうお父様、レイ、イメリア!」
頬を真っ赤にさせエリスティアは喜びに叫ぶ。
「怪我をしないように遊ぶように、他に欲しいものがあったら言いなさい」
何時でも部屋に来ていい。そうエリスティアの頭を撫でてユーグ伯爵は出て行った。
男爵としての仕事が残っているのだろう。
今いるのは子供二人と保護者のメイド一人だ。
この場にいるエリスティアは完全に十歳の子供でしかなかった。
「本当に夢みたい……あれもこれも全部、遊ばなきゃ!」
黒髪の少女はその日大はしゃぎでそれらで遊び続け、夜には興奮のあまり熱を出した。
翌日、見舞いに来たレイは教え子兼遊び相手の少女に「はしゃぎすぎだ」と呆れた。
エリスティアはニコニコしながら「だってずっと遊んでみたかったのだもの」と告げる。
熱だけでなく筋肉痛も患っていたがそれでも気分は楽しいままだった。
「別に、これから毎日幾らでも遊べるだろ」
だから一日で一生分遊ぶような無茶をするな。そう黒髪の少年はエリスティアを諭す。
兄がいたらこんな感じかなと同じく黒髪の少女は思った。
けれど実際エリスティアに兄弟がいたら全く似ていなかっただろう。
黒い髪に赤い瞳は両親から譲られた色では無いのだから。
イメリアとエルナのように似ることはない。
ふと思いついてエリスティアは少年に問いかける。
「そういえばレイって兄弟はいるの?」
彼は一瞬真顔になった後「いない」とだけ答えた。
いけないことを聞いてしまった気がしてエリスティアは口ごもる。
レイも特に自分から言葉を発する事はなかった。
気まずい空気の中エリスティアは少年を見つめる。
その時、彼の髪が大分伸びていることに気づいた。
レイは綺麗で繊細な顔立ちをしているから少女みたいだ。エリスティアは口を開いた。
「リボン、あげようか?」
「いらない」
黒髪の少年が素っ気なく断ると同時にイメリアがリンゴを絞ったジュースを運んでくる。
レイとエリスティアが同席する時絶対二人だけになってはいけない。
大人が一人ついていること、それがエリスティアの父である男爵の命令だ。
しかし半年過ぎるとそれもかなり形骸化している。
イメリアなどは「偶に様子を見に来る」レベルにまでなっていた。
エリスティアは自分と同じ髪色をした不愛想で優しい少年に懐き切っていた。
一回目の人生で婚約者だったアキム王子のことさえ忘れてしまえそうだった。
それもエリスティアが驚くぐらい平和にだ。
アキム王子も王家からの使いも男爵邸の門を叩くことはなかった。
エリスティアの華奢過ぎた体は痩せ気味程度になった。
以前の暮らしでも別に食事制限をされていた訳ではなかった。
軟禁され希望を失っていたエリスティアが食事に興味を持てなかったのだ。
運動量が極端に少なかった事も関係があるかもしれない。
レイはアスラ語の教師以外に彼女の遊び相手に抜擢された。
同年代の気が合う人間と話したり遊ぶことはとても楽しいとエリスティアは知った。
二人で廊下で鬼ごっこをし、はしゃぎ過ぎてイメリアに軽く叱られたりもした。
「絶対階段の近くでは走り回らないでくださいよ!」
落ちたら大変ですから。そう珍しく表情を厳しいものにしてイメリアが説教する。
二人は神妙に頷いた。
「だけどエリスティアはもっと体を動かした方がいいと思う」
じゃないとアスラ国までの長旅なんて絶対無理だ。
そうレイがイメリアに話した翌々日には運動用の遊戯室が棟に増えていた。
死に戻る前公園で一度だけ見かけたブランコや滑り台などの遊具も揃っている。
その時は遊びたかったけれど、帽子が取れたらいけないとイメリアに止められて我慢した。
「ありがとうお父様、レイ、イメリア!」
頬を真っ赤にさせエリスティアは喜びに叫ぶ。
「怪我をしないように遊ぶように、他に欲しいものがあったら言いなさい」
何時でも部屋に来ていい。そうエリスティアの頭を撫でてユーグ伯爵は出て行った。
男爵としての仕事が残っているのだろう。
今いるのは子供二人と保護者のメイド一人だ。
この場にいるエリスティアは完全に十歳の子供でしかなかった。
「本当に夢みたい……あれもこれも全部、遊ばなきゃ!」
黒髪の少女はその日大はしゃぎでそれらで遊び続け、夜には興奮のあまり熱を出した。
翌日、見舞いに来たレイは教え子兼遊び相手の少女に「はしゃぎすぎだ」と呆れた。
エリスティアはニコニコしながら「だってずっと遊んでみたかったのだもの」と告げる。
熱だけでなく筋肉痛も患っていたがそれでも気分は楽しいままだった。
「別に、これから毎日幾らでも遊べるだろ」
だから一日で一生分遊ぶような無茶をするな。そう黒髪の少年はエリスティアを諭す。
兄がいたらこんな感じかなと同じく黒髪の少女は思った。
けれど実際エリスティアに兄弟がいたら全く似ていなかっただろう。
黒い髪に赤い瞳は両親から譲られた色では無いのだから。
イメリアとエルナのように似ることはない。
ふと思いついてエリスティアは少年に問いかける。
「そういえばレイって兄弟はいるの?」
彼は一瞬真顔になった後「いない」とだけ答えた。
いけないことを聞いてしまった気がしてエリスティアは口ごもる。
レイも特に自分から言葉を発する事はなかった。
気まずい空気の中エリスティアは少年を見つめる。
その時、彼の髪が大分伸びていることに気づいた。
レイは綺麗で繊細な顔立ちをしているから少女みたいだ。エリスティアは口を開いた。
「リボン、あげようか?」
「いらない」
黒髪の少年が素っ気なく断ると同時にイメリアがリンゴを絞ったジュースを運んでくる。
レイとエリスティアが同席する時絶対二人だけになってはいけない。
大人が一人ついていること、それがエリスティアの父である男爵の命令だ。
しかし半年過ぎるとそれもかなり形骸化している。
イメリアなどは「偶に様子を見に来る」レベルにまでなっていた。
エリスティアは自分と同じ髪色をした不愛想で優しい少年に懐き切っていた。
一回目の人生で婚約者だったアキム王子のことさえ忘れてしまえそうだった。
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