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第一章

23.警戒せよと父は言った

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 体を洗い、衣服を清潔で品のいいものに着替えたレイはエリスティアがハッとする程綺麗な少年だった。
 初対面の時点でも顔立ちや瞳の美しさは隠せていなかったが、磨かれると余計に輝いて見える。
 そして風呂に入り服を着替えただけなのに黒髪の少年はどこか気品を漂わせていた。
 この状態で紹介されていたならエリスティアは彼を貴族の子息だと即認識していたに違いない。

 というか何故父はレイの身支度を最初に整えてあげなかったのだろう。
 エリスティアの疑問にイメリアは苦笑しながら答えた。

「もしかしたらお嬢様の一目惚れを警戒したのかもしれませんね」

 とても綺麗な男の子ですから。
 そう年上のメイドに言われ、エリスティアは内心父に呆れた。

 今の自分はどうやって王家から逃げきるかが一番大事で、恋なんてしているような状況ではない。
 そう父に抗議しようかと考えて、アキム第二王子のことを思い出す。

 父、ユーグ・フィリス男爵にだけエリスティアは自分が死に戻ったことを話している。
 生前自分が王家に発見され連れていかれた経緯もだ。

 当時十四歳だったアキム王子のきらきらした美貌に、十歳の少女だったエリスティアは見惚れてしまった。
 そのせいで彼の不躾な行動に不審を抱くことが遅れ黒髪を見破られてしまったのだ。

 父はそのことを知っている。
 当初エリスティアはその部分を軽く流すつもりだったが許されず根掘り葉掘り聞かれたことも覚えていた。 


「……成程、お父様は私が綺麗な男の子を見たらすぐ好きになるような女だと思っているのね」
「そうではないと思いますが、きっと男親だから不安になってしまうんですよ」


 そうイメリアは男爵をフォローした。
 彼女がちらりと視線を移した先をエリスティアも見る。
 そこには廊下へ続く扉があった。
 一週間前から鍵を中からかけられるようにされていた。

 そしてレイとの対面を終えたエリスティアに父は厳命した。
 毎日寝る前に必ず施錠するようにと。
 レイがもし部屋を訪ねてきても自分一人の時は開けてはいけないともだ。

 彼はそんなに危険人物なのかと驚いたが、父は真顔で男は皆危険人物だと言い放った。

「つまり、お父様も危険人物なのですか?」

 エリスティアの問いかけにユーグ男爵は違うと言いかけて口ごもった。
 自分が過去娘に対して行ったあれこれを思い出したのだろう。
 最終的に「私はもうお前を傷つけることはしない」と深刻な顔で誓われたのでエリスティアは笑顔でわかりましたと答えた。


 正直、内部から鍵をかけられるようになったのは嬉しい。
 もしアキム王子や王家の人間が男爵邸まで押し入った場合、施錠することで多少の時間は稼げそうだから。 
 警戒もしないよりはした方が良い。性別関係なくだ。

 だが父は何故、ここまでしてレイを男爵邸に住まわせることにしたのだろう。
 しかもエリスティアの部屋と同じ棟に。

 その疑問の答えをエリスティアは遠くない日に知ることになる。
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