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第一章
18.悲劇と出会わない為に
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エリスティアはバートクロイツという国で生まれた。
この国の人間は大抵金色の髪をしている。
次に多いのが茶色で、アキム王子のような銀色の髪は珍しい。
そしてエリスティアと同じ黒髪は珍しいを通り越しほぼ見当たらないという話だった。
海沿いの町や村には稀にいるらしいが、それは外国人との混血の結果。
血統を尊ぶ貴族の中に黒髪の人物は存在しないと考えていい。
これは和解した父から教えて貰った情報だ。
つまり男爵令嬢でありながら黒髪紅眼のエリスティアはこの国では異端中の異端なのだ。
今まではフィリス男爵が隠すように育てていたから王家に見つからなかったのだろう。
このまま外に出れば目立ち過ぎてしまう。だから姿を変える必要がある。
父に用意して貰った金の鬘はその時に使う為のものだった。
「今の私はそこまで外に出たいとは思わないけれど……」
衣装の片づけを終えたイメリアが退出した部屋で黒髪の少女は呟いた。
寧ろ外出しろと言われたら嫌がってしまうかもしれない。
どうにもアキム第二王子との出会いがトラウマになっているらしい。エリスティアは溜息を吐いた。
イメリアが好意で連れ出してくれた賑やかな街。
楽しかった思い出は、その後の出来事のせいで悲劇の前振りにしか思えなくなっていた。
自分より少し年上の美しい少年への淡い恋心も今は悲しくなるだけだ。
利用する為に優しくされ、それに気づいた時は逃げられなかった。
「……今回は絶対、同じ間違いは犯さないんだから」
そう自分に言い聞かすようにエリスティアは宣言する。
十年前に戻った現在、彼はまだ十四歳の少年だろう。
もしかしたら今も男爵邸があるこの街で女神の愛し子を捜しているのかもしれない。
ここは王都では無い。王宮からは馬車で二時間程の距離にある。
気軽に遊びに来られるような場所では無いのだ。
そもそも第二王子が市井を自由に出歩けるとも思えない。
「確か、神託があったって言っていたわね……」
王宮での暮らしを思い出しながらエリスティアはぽつりと言う。
それを聞いたのはアキムの口からだったか、それとも王妃セイナからだったか。
どちらにしろ王家の人間は女神の愛し子の存在は既に把握していると考えていい。
「もしかしたら、この街までは絞り込めているのかもしれないわ」
だからアキム王子は街を歩いて捜し回っていたのかもしれない。
黒髪の子供なんて目立つ存在、街の人間に尋ねれば簡単に特定出来ると考えた可能性もある。
「でもお父様は私の外見について使用人たちに箝口令を敷いていたから……」
それは妻の不義疑惑を公にしたくないという理由だったが、それが幸いしたのだろう。
エリスティアを罵倒した元メイド長がクビにされたことが見せしめになったのかもしれない。
少なくとも今現在までは王家は女神の愛し子がフィリス男爵家にいると把握していない筈だ。
「そのままずっと気づかないでいてくれるといいのだけれど……」
それは無理だろう。エリスィアは半分諦めている。
こちらが過労死するまで癒しの力を求め続けたあの王妃が諦めるとは思えない。
この街で女神の愛し子の捜索が難航した場合、街の住人の家の中まで捜索範囲に加えそうだ。
このことについては父であるフィリス男爵にも相談してある。
エリスティアが望むのは今すぐ王家に見つからない場所へ逃げることだった。
そして出来るならその場所で暮らしたい。少なくともセイナ王妃が存命の内は。
しかしエリスティアの父はそれに強く反対した。
この国の人間は大抵金色の髪をしている。
次に多いのが茶色で、アキム王子のような銀色の髪は珍しい。
そしてエリスティアと同じ黒髪は珍しいを通り越しほぼ見当たらないという話だった。
海沿いの町や村には稀にいるらしいが、それは外国人との混血の結果。
血統を尊ぶ貴族の中に黒髪の人物は存在しないと考えていい。
これは和解した父から教えて貰った情報だ。
つまり男爵令嬢でありながら黒髪紅眼のエリスティアはこの国では異端中の異端なのだ。
今まではフィリス男爵が隠すように育てていたから王家に見つからなかったのだろう。
このまま外に出れば目立ち過ぎてしまう。だから姿を変える必要がある。
父に用意して貰った金の鬘はその時に使う為のものだった。
「今の私はそこまで外に出たいとは思わないけれど……」
衣装の片づけを終えたイメリアが退出した部屋で黒髪の少女は呟いた。
寧ろ外出しろと言われたら嫌がってしまうかもしれない。
どうにもアキム第二王子との出会いがトラウマになっているらしい。エリスティアは溜息を吐いた。
イメリアが好意で連れ出してくれた賑やかな街。
楽しかった思い出は、その後の出来事のせいで悲劇の前振りにしか思えなくなっていた。
自分より少し年上の美しい少年への淡い恋心も今は悲しくなるだけだ。
利用する為に優しくされ、それに気づいた時は逃げられなかった。
「……今回は絶対、同じ間違いは犯さないんだから」
そう自分に言い聞かすようにエリスティアは宣言する。
十年前に戻った現在、彼はまだ十四歳の少年だろう。
もしかしたら今も男爵邸があるこの街で女神の愛し子を捜しているのかもしれない。
ここは王都では無い。王宮からは馬車で二時間程の距離にある。
気軽に遊びに来られるような場所では無いのだ。
そもそも第二王子が市井を自由に出歩けるとも思えない。
「確か、神託があったって言っていたわね……」
王宮での暮らしを思い出しながらエリスティアはぽつりと言う。
それを聞いたのはアキムの口からだったか、それとも王妃セイナからだったか。
どちらにしろ王家の人間は女神の愛し子の存在は既に把握していると考えていい。
「もしかしたら、この街までは絞り込めているのかもしれないわ」
だからアキム王子は街を歩いて捜し回っていたのかもしれない。
黒髪の子供なんて目立つ存在、街の人間に尋ねれば簡単に特定出来ると考えた可能性もある。
「でもお父様は私の外見について使用人たちに箝口令を敷いていたから……」
それは妻の不義疑惑を公にしたくないという理由だったが、それが幸いしたのだろう。
エリスティアを罵倒した元メイド長がクビにされたことが見せしめになったのかもしれない。
少なくとも今現在までは王家は女神の愛し子がフィリス男爵家にいると把握していない筈だ。
「そのままずっと気づかないでいてくれるといいのだけれど……」
それは無理だろう。エリスィアは半分諦めている。
こちらが過労死するまで癒しの力を求め続けたあの王妃が諦めるとは思えない。
この街で女神の愛し子の捜索が難航した場合、街の住人の家の中まで捜索範囲に加えそうだ。
このことについては父であるフィリス男爵にも相談してある。
エリスティアが望むのは今すぐ王家に見つからない場所へ逃げることだった。
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しかしエリスティアの父はそれに強く反対した。
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