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第一章
7.使い潰された聖女
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「最初は、凄く幸せだったのよね……」
過去を思い返しながら死に戻ったエリスティアが溜息を吐く。
今までメイドのイメリアしか自分を認めてくれる人がいなかった環境。
王宮での暮らしはそれとは真逆だった。
軟禁の原因となった黒髪紅眼を誰もが女神の愛し子の証だと褒めてくれた。
大きな部屋と豪華なドレスと食事が与えられた。
癒しの力を使うと凄い素晴らしいと感激された。
十年間いない者として扱われてきた少女はその日々に溺れたのだ。
だからエリスティアは気づかなかった。
婚約者のアキム第二王子と会う機会が少しずつ減っていること。
癒しの力を使う機会がどんどん増えていること。
自由に動ける場所は与えられた私室だけだということに気づいた時には疲弊しきっていた。
「しかも十二歳になって月のものが来たら、もう大人だと王妃からの呼び出しが凄く増えて……」
女神の愛し子として本格的に王家に仕えよ。そう言われ毎日休む間もなく治癒に駆り出された。
アキム第二王子に会いたいと言うと、王子は忙しいとメイドごしに断られた。
そこまで来てやっと周囲に己の味方がいないことをエリスティアは知った。
王妃は言わずもがなだが、メイドたちも疲労しきっているエリスティアを気遣うことはしない。
豪勢な食事も、豪華なドレスも楽しむ余裕など無くなっていた。
『……かえり、たい』
そう憔悴しきったエリスティアは願った。
父に厭われて隠すように育てられ、自由などなかった男爵家での日々。
それでも王妃によって限界まで治癒の力を使わされる地獄のような現状よりはマシに思えたのだ。
しかしそれを察したのか、ある日王妃は治癒中のエリスティアに告げた。
『甘えた気持ちは捨てることね。そなたの帰る場所などどこにもないのだから』
『え……』
『フィリル男爵家は女神の愛し子を隠匿した罪で取り潰しになったわ』
その日、エリスティアは自分がどうやって部屋まで戻ったか覚えていない。
ただ優しかったイメリアには会えないこと、そして自分は死ぬまで王宮から出られないことに絶望した。
数日後、王妃の元に向かう途中でメイドたちのひそひそ話を聞いた。
アキム第二王子が平民の娘と恋に落ち、頻繁に城下街に遊びに行っているという内容だった。
裏切りだと憎む気力すらないエリスティアはただ深く絶望しただけだった。
その数年後、女神の愛し子と呼ばれた黒髪の乙女は王宮内で死んだ。
愚かで無知で、なのに特異な容姿と力を持っていたばかりに極限まで使い潰されて朽ち果てたのだ。
「でも、今の私ならそんなことにはならない……王家に利用されて死ぬなんて嫌」
十歳の少女の体で、エリスティアは呟く。
「その為には……お父様に、会わなくちゃね」
そしてこの黒髪は母の不義が理由ではないと説明するのだ。
腰まで伸びた己の髪に触れながら死に戻った聖女は決意した。
過去を思い返しながら死に戻ったエリスティアが溜息を吐く。
今までメイドのイメリアしか自分を認めてくれる人がいなかった環境。
王宮での暮らしはそれとは真逆だった。
軟禁の原因となった黒髪紅眼を誰もが女神の愛し子の証だと褒めてくれた。
大きな部屋と豪華なドレスと食事が与えられた。
癒しの力を使うと凄い素晴らしいと感激された。
十年間いない者として扱われてきた少女はその日々に溺れたのだ。
だからエリスティアは気づかなかった。
婚約者のアキム第二王子と会う機会が少しずつ減っていること。
癒しの力を使う機会がどんどん増えていること。
自由に動ける場所は与えられた私室だけだということに気づいた時には疲弊しきっていた。
「しかも十二歳になって月のものが来たら、もう大人だと王妃からの呼び出しが凄く増えて……」
女神の愛し子として本格的に王家に仕えよ。そう言われ毎日休む間もなく治癒に駆り出された。
アキム第二王子に会いたいと言うと、王子は忙しいとメイドごしに断られた。
そこまで来てやっと周囲に己の味方がいないことをエリスティアは知った。
王妃は言わずもがなだが、メイドたちも疲労しきっているエリスティアを気遣うことはしない。
豪勢な食事も、豪華なドレスも楽しむ余裕など無くなっていた。
『……かえり、たい』
そう憔悴しきったエリスティアは願った。
父に厭われて隠すように育てられ、自由などなかった男爵家での日々。
それでも王妃によって限界まで治癒の力を使わされる地獄のような現状よりはマシに思えたのだ。
しかしそれを察したのか、ある日王妃は治癒中のエリスティアに告げた。
『甘えた気持ちは捨てることね。そなたの帰る場所などどこにもないのだから』
『え……』
『フィリル男爵家は女神の愛し子を隠匿した罪で取り潰しになったわ』
その日、エリスティアは自分がどうやって部屋まで戻ったか覚えていない。
ただ優しかったイメリアには会えないこと、そして自分は死ぬまで王宮から出られないことに絶望した。
数日後、王妃の元に向かう途中でメイドたちのひそひそ話を聞いた。
アキム第二王子が平民の娘と恋に落ち、頻繁に城下街に遊びに行っているという内容だった。
裏切りだと憎む気力すらないエリスティアはただ深く絶望しただけだった。
その数年後、女神の愛し子と呼ばれた黒髪の乙女は王宮内で死んだ。
愚かで無知で、なのに特異な容姿と力を持っていたばかりに極限まで使い潰されて朽ち果てたのだ。
「でも、今の私ならそんなことにはならない……王家に利用されて死ぬなんて嫌」
十歳の少女の体で、エリスティアは呟く。
「その為には……お父様に、会わなくちゃね」
そしてこの黒髪は母の不義が理由ではないと説明するのだ。
腰まで伸びた己の髪に触れながら死に戻った聖女は決意した。
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