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「何て暴力的な女だ、やはり傲慢な悪女の噂は本当だったのか……」
「あら、半信半疑だったのですか?私はすっかり貴方が信じ込んでいると思っていたのですが」
「君が男をたぶらかし飽きたら捨てているという噂についてはどうでもいい、君を愛するつもりは無いからな」
「……予想よりデマの内容が悪化していて驚いたわ」

 貴族学校では男女は別クラス。
 更に婚約者以外の年頃の異性と完全に二人きりで居る機会なんてほぼ存在しない。貴族令嬢ならほぼ誰でもそうだろう。
 相手が姉妹の婚約者とか将来の親戚扱いされている関係でも無い限り。私は溜息を吐いた。

「デマ?……もしかして事実は異なるのか?」
「貴族の娘が殿方とっかえひっかえして男遊び出来る筈無いでしょう、少し考えたらわかりません?」

 使用人との隠れた火遊びや、金と暇を持て余した美貌の未亡人が男遊びをしたりはするかもしれない。
 でも私はまだ十代の伯爵家の長女なのだ。

「結婚なんて親の決めた相手とするに決まってますし、親の決めた相手を飽きたから捨てるなんて出来るとでも?」
「それは……しかし君は婚約者が三回も代わっている」
「相手が全員私より妹を好きになったからですわ。でもそれって私に非があることですか?」
「それは……知らなかった」
「父母が隠蔽を頑張ったのですね。……私の悪評に対してはまともに動いてくれなかったのに。私は強い女だからと……」

 そういう人たちだった。何かあれば私を強い賢い逞しいと誉めていた。だから「何があっても大丈夫だろう」が口癖だった。
 そして持ち上げながらも強い女は男には好かれにくいとも言っていた。悪口程当事者の耳に聞こえやすい物なのだ。

「……アニエス嬢?」

 俯いた私にジェラールが声をかけてくる。若干心配そうな声音だった。
 成程、こんな風に弱さを見せると相手も気遣い始めるのか。今後活用しよう。でもそれは今では無い。

「まあ確かに私は強い女ですけれどね。だから言いたいことはそろそろ言わせて頂きます」 
「意外と元気だった……それで言いたいこととは?」
「私も悪女と呼ばれてますけれど、貴方も絶対結婚したくない男扱いされていますからね?」
「えっ」
「ご自身が氷の公爵って呼ばれているの御存知ですか?」
「それは知っているが……」
「一見格好良く見えますけれど血も涙もない冷酷カス男って意味ですよ。だから一度目の婚約解消の後に次の縁談が私以外に来なかったのですよ?」
「いや、それは……俺が嫌がったからでは?」
「嫌がるも何もそもそも縁談が来なかったんですよ。理由、心当たりがあるでしょう?」

 私の言葉にジェラールは顔を曇らせる。氷とか言われてるけれど案外表情豊かだなと思った。
 彼の足元で黒猫のダイアナが私を威嚇するようにシャーと鳴いた。
 このポンコツな氷の公爵を心から愛しているのはもしかしたらこの黒猫だけかもしれない。 

「確か公爵様は、私の前に婚約されていた女性を突き飛ばして怪我をさせたとか?」

 そう笑みを浮かべて告げるとジェラールは僅かに顔を青くした。
 巷では氷とか言われているが私より余程表情豊かだ。

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