3 / 6
キミの未練
しおりを挟む「おかえりなさいませ、アンセル様」
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
恋した悪役令嬢は余命一年でした
葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。
そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる