君にキュンして恋をした

今宵恋世

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ハート伝説

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【乃愛side】

「…ハート伝説のこと?」

信じてなかった、と口に出して、
わたしはハッとした。

「あっ、綾斗くん!信じてるタイプだった!?」

綾斗くんの顔が……なんか!
信じてるタイプの人の顔してる!!
「い、いや……?全然?」

この反応……っ、絶対信じてる側の人だ…。
うわー!ど、ど、どうしよう!

「あっ、ごめん!
信じてるタイプ…だったよね!?
なんかごめん……」

ロマンぶち壊しちゃった!?わたし!?
っていうか……
綾斗くんがあのいかにもな
伝説信じてるなんて……!

か、か、か、かわいい!!

ピュ​───────​……
バ​───────​──────ン…………

外ではまだ、花火が上がっている。
ハート型の花火はラストの1発のはず。

どうしてだろう。
さっきまで信じていなかった
ろくでもない伝説。なのに……
布団から少しはみ出た綾斗くんの手に、
今、わたし……
触れたがってる……。
つなぎたい、って思ってる。
血管じゃなくて……その手のひらで…、
ギュッ、ってして欲しいって
思ってる…。

わたしは言った。

ドキドキする胸の鼓動が
花火の音に混じっていく…。

「茶ノ宮くんが…世界で1番かっこいい、
……って思ってた」

……そう。
わたしは、2次元に恋する痛い女。
それでいい。むしろそれで、よかった。
ずっと。ずっと。
この先もそうだと思ってた。

現実の男なんて、好きじゃない。
‪”‬キュン‪”‬もないし。
意地悪だし。クズばっか…。

「……」

ずっと、怖かった。
だからこの気持ちに
向き合うのが怖かった。

けど……

((でも、あいつは……
そういうことする奴じゃなくない?))

((純粋に、愛してくれる……タイプじゃない?))

この気持ちに……
向き合ってもいいのなら…。
布団の裾をつかむ手に力がこもる。

「けど……」

言え。言え……っ、わたし…!

「こっ…っ、ここに…!!
もっと……宇宙で1番…!
かっこいいかなって思う人がいるの…」

ほんとは……かっこいいだけじゃない。
やさしいところ。
フワッ、って、笑うところ。
わたしの漫画トークに引かないで、
笑ってくれるところ。全部…全部……っ、

「その人には…っ、なんかよくわかんないけど!‪”‬キュン‪”‬って、よくするの…!最近!」

花火に照らされたその顔を……
そっと、見つめた。

「わたし……っ、その…」

伝えなきゃ……。言葉にしないと
伝わらない……っ。

リズムちゃんだって…
茶ノ宮くんに伝えてた。

私も……っ


「好きです」


この‪”‬キュン‪”‬は……

どう考えても…

‪”‬恋‪”‬ だ───────。

「わたし、綾斗くんが好き………。
なんか…今もう………、
茶ノ宮くんより…っ、断然…、
綾斗くんが好き……っ
綾斗くんの方が、かっこよくてやばい!
綾斗くんにばっかり、
‪”‬キュン‪”‬って…………する…っ」

‪”‬好き‪”‬が、胸の中に
ぶわぁ…と溢れていく。

溢れて……止まんなくて…なんか…
今わたし…綾斗くんでいっぱい……。

「わたしを…っ、綾斗くんの……
…………………………彼女にしてください」

綾斗くんが……どうしようもなく、
欲しい…。

「……っ」

ちゃんと、綾斗くんの目を見て言ったはずなのに、どんどん視線が落ちていく。
いつの間にか布団の上に、
ぺったりと張り付いた視線……。

外では綺麗な花火が上がってるというのに……
顔が……上げられない。

そんなわたしに綾斗くんが手を伸ばした。
綾斗くんの手が
わたしのほっぺを優しくなでる。
そしてすくい上げるように、
わたしの視線が上がる。

あぁ…これ………。

【ハピラブ】7巻のドキドキ修学旅行編で
茶ノ宮くんがリズムにちゃんに
やったやつに似てる……。‪
”‬顎クイ‪”‬……じゃなくて…、”‬頬クイ‪”。

……なんて、
呑気なことを考えているうちに
綾斗くんが優しくうなずく。

「はい……っ。俺の彼女に………
なってください」

綾斗くんのほっぺに涙が伝った。

「なんで泣いてるの…?」そう聞くと
「信じられなくて…」って、
ボロボロ涙流しながら言われた。

でも……信じられないのは、
多分、わたしの方だよ……?
こんな……かっこいい人に、
‪”‬キュン‪”‬をたくさんもらっちゃってさ……。

「大丈夫かな……。
わたし最近‪”‬キュン‪”‬ってしすぎて……
世界中から‪”‬キュン‪”‬が無くなった、って
ニュースが、これからしばらく続きそう……」

わたしのほっぺにも涙が伝う。
きっともらい泣き。

「あぁ…。そういうとこ、ほんとにさ……
かわいすぎだろ……めっちゃ好き」

‪”‬キュン‪”‬​───────…

まただ。
綾斗くんのさり気ない一言にわたしは……
どんどん落ちていく……。

「手……つな、ぐ?」

右手を上げて、聞いてみる。

「うん……っ、つなぐ……」

その顔は、ハートのキーホルダーをおそろいにした時に見せてくれた、
ちょっと子供っぽい顔だった。
かわいい。ほんとうに……。
2人の手と手がそっと重なる。

「片瀬さん…」

優しくささやくように呼ばれる。

「……」

‪”‬呼び方‪”‬

奈子ちゃん。そういえば前……
なんか言ってたね。
好きな女の子、には
‪”‬名前で‪”呼ばれたいものじゃん?
って。
‬あの時はよく分かんなかったけど……
あぁ……。
こういう気持ち……なのかな。

「………………嫌…」

「え…?」

思わず口走っていた。

「……乃愛、って呼んでほしい…」

「……」

きっと、名前で呼ばれたら……また、
‪”‬キュン‪”‬ってしちゃうのに……。

「…………乃愛…?」

‪”‬キュン‪”‬​───────…

ほら。やっぱり……。
好きで。好きで。

……たまらなくなる。


♡♡♡

保健室から見る花火は横の木で遮られてて、ちょっと欠けてた。あんまりよく見えなかったけど。
…だけど
位置的に。なんという奇跡だろうか。
ハートの花火だけは奇跡的に、
欠けずに、ちゃんと。見えた。
ピンク色のハート。
保健室の窓いっぱいに打ち上がって。
消えていった。

「あっ、綾斗くんっ、今の!ハートだっ…」

スー…スー……

あ。寝てる…。なんだ。見てないじゃん。
なんだよぉ…

「……」

ちょっと拗ねるわたし。けど…
ハートの花火よりも。
花火に照らされたその寝顔の方が。
断然かわいいことに気づく。

「かわいい…っ」

なんてかわいいの…!
あぁ…、もう……。

「…大好き」

ひとりごとのようにつぶやいたその言葉に。
「…俺も………」

返ってきたのは…多分寝言。

「……」

なんか夢…みてるのかな。

「ふふっ…」

わたしも綾斗くんの手を握りながら、
目をつぶった。

スー…スー……

♡♡♡

2人の寝息がゆっくりと重なった保健室。

「綾斗ー、乃愛っちー…」

「……」

「あ。寝てる…」

「うそっ!ほんと?わぁーほんとだ!
2人で寄り添って寝てる…っ。
かわいー…」

パシャ…

「いい写真…っ」
「ほら奈子ちゃん、
写真なんか撮ってないで行くよー」
「はいはいー…」
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