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ズキ
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【乃愛side】
「てへへ」
今日!わたしはとてもご機嫌だった。
なぜなら………!!!
今日は【ハピラブ】!
9巻の発売だから!!
もうずーーーーっと!
楽しみにしてました!
学校帰りに本屋に寄って!
無事ゲットした、
【ハピラブ】をわたしは今!
ベッドにゴロン!と寝転がって
読もうとしているところ!!
9巻の表紙はリズムちゃん!
ニッコリ笑って指ハートしてるのー!
ちょーかわいい!!
えー、と…!
前回!8巻では記憶喪失になった
茶ノ宮くんが
ハートのキーホルダーをリズムちゃんからもらって、記憶が戻った、ってところだったからその続きだ!
ちなみに!
【ハピラブ】展で、綾斗くんとおそろいにしたハートのキーホルダー!ちゃんと
宝箱に入れて厳重に保管してるんだー!
「ふぅー……」
深呼吸してこれから来るであろう
”キュン”の波に備える。
よし!読もう!
わたしは9巻のページをめくった。
ーー忘れててごめん、リズム。
ーーううん…っ、よかった…っ
ーー俺……、リズムが大好きだ。
ーーわたしもだよ……一茶くん。
「ぐすん……っ、」
あぁーーー……。よかったぁ……
よかったよぉ~!
男の子が泣く姿……って……
なんでこんなに胸がぁ……
締め付けられるんだろう……っ。
涙が止まんないよーー……。
感動回だぁーーー……!
そしてそして……!記憶を思い出しての~…!
ーーきゃあ…っ
ーーリズム……!
ーー大丈夫…か?
ーーあ…うん、大丈夫……
「きゃあああああああああああ!!!!」
茶ノ宮くんがつまずいたリズムちゃんに……、、
床ドンするシーン!!
やばくない!?
床ドンして、
ーー大丈夫…か?
……って!もうーーーーっっ!!!
この描写!茶ノ宮くん
なんちゅう顔してんだよ…!!
ちょっと、ちょっと、ちょっと!!!
こんなん惚れるしかなくない!?
もうやばい!やばい!
好きすぎるぅぅーーー!!!!
もう!常に神回じゃん!!!
このさ!リズムちゃんの体の支え方がやばいよね!?分かる!?───────……
♡♡♡
「えー、今日は来月の体育祭の出場種目を決めたいと思います」
今日は1限目丸々使って、自分の出る種目決めをするみたいだ。
先生が黒板にリレー、二人三脚、借り物競走……などをコツコツと書いていく。
「はぁ~ぁ……」
コツコツコツコツ……
黒板とチョークがぶつかる音を聞いてたら
大きなあくびが出てしまった。
昨日。ずーっと、
【ハピラブ】の最新刊読んでたから、
あんまり寝てないんだ~……。
「はぁ~ぁ……あ。」
そういえば綾斗くん、読んだかな……。
「ねぇねぇ……」
隣で頬杖をついて席に座る綾斗くんの肩をつんつんする。
「ん?」
「昨日発売された【ハピラブ】読んだ!?」
「もちろん」
綾斗くんはそう言って机の中から
9巻をこっそり見せた。
もう買ってる…!
「ねぇ!やばくなかった!?茶ノ宮くんの床ドン……!」
「やばいよな……あれも…」…
同じ漫画語れる人がいるのって最高……!
「はい、じゃあそれぞれやりたい種目に
手、上げて下さいー」
わたしは、運動神経がとにかく悪いので
無難に、借り物競走に手を挙げた。
特に希望者が多い、ってわけでもなかったからすんなり決まった。
「じゃあ、リレーのアンカーは松村なー」
リレー希望組からそんな声が聞こえてくる。
さすが……綾斗くん、すごい……
期待されてるんだなぁ……。
「頑張ってね!!」
綾斗くんにガッツポーズを作る。
「綾斗くんがアンカーなら間違いなく
3組が優勝だね!」
「……っ、」
「あっ、ありがとな!頑張る」
「うん……っ!」
楽しみだなぁ……。体育祭。
♡♡♡
今日の3、4時限目は
先日決めた種目の練習!
と、いっても、ほぼリレー組の練習だ。
借り物競走組はとりあえず暇な時間。
二人三脚になった奈子ちゃんも、
ペアの子が転んじゃって、
保健室行ってるみたいで暇らしい。
「ねぇねぇ、乃愛ー」
「うん?」
リレー組を応援しつつ、
地面にしゃがんで、お喋りしている私わたし達。
「最近どうなのー?」
「どう、ってー?」
「乃愛……、最近さー、
松村のこと”綾斗くん”って呼ぶじゃーん?」
「あぁ…」
確かにわたしは最近”松村くん”呼びを辞めた。
日曜日からだ。
色々考えて、辞めることにしたんだよね…。
だってあの時…………。
わたしに壁ドンした時の松村くん……
なんだか様子がおかしかった。
まだ耳に残る綾斗くんの声……。
((綾斗、って…呼んで……?))
あの時の綾斗くん……、
わたしが見たことない顔してたし……。
捉え方によっては、
怒っているような気もしてしまった。
もしかしたら……、
”松村くん”って呼ばれるの嫌、なのかな……。
と、思いはじめたのだ。
壁ドンだって……
わたしが”松村くん”って、
呼ぶのにイラッとして
怒りでつい、
やっちゃっただけだったのかも……。
奇跡的に【ハピラブ】5巻の展開と
似てたけど……。
自分の苗字が気に入ってない人だって……
いるもんね。
とりあえず、これからはちゃんと
名前で呼ぼう。そう思ったのだ。
あ、奈子ちゃんにも教えてあげよう。
「奈子ちゃんも、綾斗くん、って
呼んであげて!」
「え、なんでよ」
「綾斗くん、苗字…、
気に入ってないっぽいからさ!」
「ぽい?なんでそう思うのよ」
「この前…、名前で呼んで、って、言われたんだ。そんなことわざわざ言う、ってことは、苗字気に入ってない、ってことでしょ?だから奈子ちゃんも……」
「え、ちょっと乃愛。それ本気で言ってる?」
「え?」
「それは、”乃愛に” ってことだと思うけど…」
「わたしに……?え?なに?」
呆れたように笑った奈子ちゃんは言う。
「乃愛って、現実になると
とことん鈍いんだから」
え、鈍い……かな?
そんなことはじめて言われたな…。
分からず、首を傾げるわたしに奈子ちゃんが丁寧にゆっくり言う。
「好きな女の子、にはさ、
”名前で”呼ばれたいものじゃん?
乃愛が”好きな女の子”だから、
そう言ったんだと思うよ。松村は。」
「好き……うーん……いやぁ…。
それはないと思うなぁ。」
「なんでそう思うの?」
「だって今までだって、
告白、たくさんされてきたけど
全員ふってるんでしょ?
そんな人がわたしを好きだなんて、
ないない。ないないないない。」
全力で首を振って否定した。
だって、そんなこと、ありえるわけない。
「……けど、さ、調理実習の時、
乃愛が松村の腕触った後さ、あいつ……
耳まで真っ赤になってたじゃん」
奈子ちゃんは地面の砂をサラサラと
弄りながらそう言った。
「あれは……、どう考えても
好きな女の子にしかしない表情だよ~」
「えー……いやぁー…」
確かに赤くはなってたけど…。
つい、グラウンドで友達とリレーのパス練習をする綾斗くんに視線を置く。
「うーん…」
結構遠くにいるのに、かっこいいオーラがヒシヒシと伝わってくる…。
「っていうかさー。
乃愛も本当は気になってんじゃないのー?」
そう言って顔をのぞきこんできた奈子ちゃん。
「……」
正直…気になっては、いる。
でもそれは……
遠くにいる綾斗くんを見つめながらわたしはつぶやく。
「綾斗くんってね…」
「……」
「茶ノ宮くんに、すっごく似てるんだ」
「…茶ノ宮、って…あっ、
あの、乃亜がいつも読んでる漫画…の?」
「うん…っ」
少し照れながら奈子ちゃんに話してみた。
そして向こうも、わたしをリズムちゃんと似ている、と思ってくれていた、と話したら…。
「え!まって!何そのザ・フィクション!みたいな展開!それ次の小説のネタにしよう!」
奈子ちゃんは目を輝かせて大はしゃぎだ。
「うわぁー!めっちゃ浮かんでくるー!その設定まじいいわ!」
設定をあげたつもりはないけど、
奈子ちゃんの次の小説の構想が固まったのならよかった。ついにはメモを取りだした奈子ちゃん。なんだか楽しそうだ。
そんな奈子ちゃんにボソリ、とつぶやく。
「だからね…」
「……」
「きっと似てるから、だよ」
わたしが…
綾斗くんを見て、
不思議な気持ちになるのも。
時々胸が、”ドクン”、とするのも。
”キュン”、とするのも。
全部…
綾斗くんが茶ノ宮くんに似てるから。
「それだけだよ。綾斗くんとは」
ほんとに。それだけ。だから…
「…別に好きじゃないよ」
わたしが綾斗くんに寄せる感情に
恋愛要素なんて、どこにもない。
だけどそれを言ったら、
ズキ……
どうしてか、胸が痛んだ気がした。
「ほんとに、それだけ…?」
メモを取る手を止めて、真っ直ぐわたしを見つめる奈子ちゃん。
その目を、どうしても見ていられない。
スっと、目線を逸らした先には綾斗くんがいて。
今度は膝に顔を埋めた。
「…ほんと」
自分の声があまりに小さくて、
いじけるように、わたしは
運動場の砂を弄った。
♡♡♡
「まつむらーっ!」
「キャー!」
教室に戻る途中。
上からそんな声が降ってきた。
顔を上げると
3階の窓から先輩達が綾斗くんに向けて手を振っていた。
わぁ、すごい。
その光景はまるでライブ会場のよう。
「ファンサ、しなくていいのかよ」
「なんだよ、ファンサって」
宮坂くんにからかわれている。
しかし、先輩達には一切目もくれずスタスタと歩いていく綾斗くん。
クールだなぁ。こういう時の綾斗くんは
いつもの綾斗くんとは全然違う……。
まるで別人みたい。
やっぱり人気なんだなぁ……。と、
しみじみと思い知らされた。
「ほんっと…、年下にキャー、とか、恥ずかしくないのかね」
隣を歩く奈子ちゃんはすっかり呆れ顔。
「あはは…、」
なんだろう…。
キャー、キャー、
言われてる綾斗くん見るの。
別にこれが初めてじゃないのに、
なんか今……
ちょっと嫌、かも…。
「てへへ」
今日!わたしはとてもご機嫌だった。
なぜなら………!!!
今日は【ハピラブ】!
9巻の発売だから!!
もうずーーーーっと!
楽しみにしてました!
学校帰りに本屋に寄って!
無事ゲットした、
【ハピラブ】をわたしは今!
ベッドにゴロン!と寝転がって
読もうとしているところ!!
9巻の表紙はリズムちゃん!
ニッコリ笑って指ハートしてるのー!
ちょーかわいい!!
えー、と…!
前回!8巻では記憶喪失になった
茶ノ宮くんが
ハートのキーホルダーをリズムちゃんからもらって、記憶が戻った、ってところだったからその続きだ!
ちなみに!
【ハピラブ】展で、綾斗くんとおそろいにしたハートのキーホルダー!ちゃんと
宝箱に入れて厳重に保管してるんだー!
「ふぅー……」
深呼吸してこれから来るであろう
”キュン”の波に備える。
よし!読もう!
わたしは9巻のページをめくった。
ーー忘れててごめん、リズム。
ーーううん…っ、よかった…っ
ーー俺……、リズムが大好きだ。
ーーわたしもだよ……一茶くん。
「ぐすん……っ、」
あぁーーー……。よかったぁ……
よかったよぉ~!
男の子が泣く姿……って……
なんでこんなに胸がぁ……
締め付けられるんだろう……っ。
涙が止まんないよーー……。
感動回だぁーーー……!
そしてそして……!記憶を思い出しての~…!
ーーきゃあ…っ
ーーリズム……!
ーー大丈夫…か?
ーーあ…うん、大丈夫……
「きゃあああああああああああ!!!!」
茶ノ宮くんがつまずいたリズムちゃんに……、、
床ドンするシーン!!
やばくない!?
床ドンして、
ーー大丈夫…か?
……って!もうーーーーっっ!!!
この描写!茶ノ宮くん
なんちゅう顔してんだよ…!!
ちょっと、ちょっと、ちょっと!!!
こんなん惚れるしかなくない!?
もうやばい!やばい!
好きすぎるぅぅーーー!!!!
もう!常に神回じゃん!!!
このさ!リズムちゃんの体の支え方がやばいよね!?分かる!?───────……
♡♡♡
「えー、今日は来月の体育祭の出場種目を決めたいと思います」
今日は1限目丸々使って、自分の出る種目決めをするみたいだ。
先生が黒板にリレー、二人三脚、借り物競走……などをコツコツと書いていく。
「はぁ~ぁ……」
コツコツコツコツ……
黒板とチョークがぶつかる音を聞いてたら
大きなあくびが出てしまった。
昨日。ずーっと、
【ハピラブ】の最新刊読んでたから、
あんまり寝てないんだ~……。
「はぁ~ぁ……あ。」
そういえば綾斗くん、読んだかな……。
「ねぇねぇ……」
隣で頬杖をついて席に座る綾斗くんの肩をつんつんする。
「ん?」
「昨日発売された【ハピラブ】読んだ!?」
「もちろん」
綾斗くんはそう言って机の中から
9巻をこっそり見せた。
もう買ってる…!
「ねぇ!やばくなかった!?茶ノ宮くんの床ドン……!」
「やばいよな……あれも…」…
同じ漫画語れる人がいるのって最高……!
「はい、じゃあそれぞれやりたい種目に
手、上げて下さいー」
わたしは、運動神経がとにかく悪いので
無難に、借り物競走に手を挙げた。
特に希望者が多い、ってわけでもなかったからすんなり決まった。
「じゃあ、リレーのアンカーは松村なー」
リレー希望組からそんな声が聞こえてくる。
さすが……綾斗くん、すごい……
期待されてるんだなぁ……。
「頑張ってね!!」
綾斗くんにガッツポーズを作る。
「綾斗くんがアンカーなら間違いなく
3組が優勝だね!」
「……っ、」
「あっ、ありがとな!頑張る」
「うん……っ!」
楽しみだなぁ……。体育祭。
♡♡♡
今日の3、4時限目は
先日決めた種目の練習!
と、いっても、ほぼリレー組の練習だ。
借り物競走組はとりあえず暇な時間。
二人三脚になった奈子ちゃんも、
ペアの子が転んじゃって、
保健室行ってるみたいで暇らしい。
「ねぇねぇ、乃愛ー」
「うん?」
リレー組を応援しつつ、
地面にしゃがんで、お喋りしている私わたし達。
「最近どうなのー?」
「どう、ってー?」
「乃愛……、最近さー、
松村のこと”綾斗くん”って呼ぶじゃーん?」
「あぁ…」
確かにわたしは最近”松村くん”呼びを辞めた。
日曜日からだ。
色々考えて、辞めることにしたんだよね…。
だってあの時…………。
わたしに壁ドンした時の松村くん……
なんだか様子がおかしかった。
まだ耳に残る綾斗くんの声……。
((綾斗、って…呼んで……?))
あの時の綾斗くん……、
わたしが見たことない顔してたし……。
捉え方によっては、
怒っているような気もしてしまった。
もしかしたら……、
”松村くん”って呼ばれるの嫌、なのかな……。
と、思いはじめたのだ。
壁ドンだって……
わたしが”松村くん”って、
呼ぶのにイラッとして
怒りでつい、
やっちゃっただけだったのかも……。
奇跡的に【ハピラブ】5巻の展開と
似てたけど……。
自分の苗字が気に入ってない人だって……
いるもんね。
とりあえず、これからはちゃんと
名前で呼ぼう。そう思ったのだ。
あ、奈子ちゃんにも教えてあげよう。
「奈子ちゃんも、綾斗くん、って
呼んであげて!」
「え、なんでよ」
「綾斗くん、苗字…、
気に入ってないっぽいからさ!」
「ぽい?なんでそう思うのよ」
「この前…、名前で呼んで、って、言われたんだ。そんなことわざわざ言う、ってことは、苗字気に入ってない、ってことでしょ?だから奈子ちゃんも……」
「え、ちょっと乃愛。それ本気で言ってる?」
「え?」
「それは、”乃愛に” ってことだと思うけど…」
「わたしに……?え?なに?」
呆れたように笑った奈子ちゃんは言う。
「乃愛って、現実になると
とことん鈍いんだから」
え、鈍い……かな?
そんなことはじめて言われたな…。
分からず、首を傾げるわたしに奈子ちゃんが丁寧にゆっくり言う。
「好きな女の子、にはさ、
”名前で”呼ばれたいものじゃん?
乃愛が”好きな女の子”だから、
そう言ったんだと思うよ。松村は。」
「好き……うーん……いやぁ…。
それはないと思うなぁ。」
「なんでそう思うの?」
「だって今までだって、
告白、たくさんされてきたけど
全員ふってるんでしょ?
そんな人がわたしを好きだなんて、
ないない。ないないないない。」
全力で首を振って否定した。
だって、そんなこと、ありえるわけない。
「……けど、さ、調理実習の時、
乃愛が松村の腕触った後さ、あいつ……
耳まで真っ赤になってたじゃん」
奈子ちゃんは地面の砂をサラサラと
弄りながらそう言った。
「あれは……、どう考えても
好きな女の子にしかしない表情だよ~」
「えー……いやぁー…」
確かに赤くはなってたけど…。
つい、グラウンドで友達とリレーのパス練習をする綾斗くんに視線を置く。
「うーん…」
結構遠くにいるのに、かっこいいオーラがヒシヒシと伝わってくる…。
「っていうかさー。
乃愛も本当は気になってんじゃないのー?」
そう言って顔をのぞきこんできた奈子ちゃん。
「……」
正直…気になっては、いる。
でもそれは……
遠くにいる綾斗くんを見つめながらわたしはつぶやく。
「綾斗くんってね…」
「……」
「茶ノ宮くんに、すっごく似てるんだ」
「…茶ノ宮、って…あっ、
あの、乃亜がいつも読んでる漫画…の?」
「うん…っ」
少し照れながら奈子ちゃんに話してみた。
そして向こうも、わたしをリズムちゃんと似ている、と思ってくれていた、と話したら…。
「え!まって!何そのザ・フィクション!みたいな展開!それ次の小説のネタにしよう!」
奈子ちゃんは目を輝かせて大はしゃぎだ。
「うわぁー!めっちゃ浮かんでくるー!その設定まじいいわ!」
設定をあげたつもりはないけど、
奈子ちゃんの次の小説の構想が固まったのならよかった。ついにはメモを取りだした奈子ちゃん。なんだか楽しそうだ。
そんな奈子ちゃんにボソリ、とつぶやく。
「だからね…」
「……」
「きっと似てるから、だよ」
わたしが…
綾斗くんを見て、
不思議な気持ちになるのも。
時々胸が、”ドクン”、とするのも。
”キュン”、とするのも。
全部…
綾斗くんが茶ノ宮くんに似てるから。
「それだけだよ。綾斗くんとは」
ほんとに。それだけ。だから…
「…別に好きじゃないよ」
わたしが綾斗くんに寄せる感情に
恋愛要素なんて、どこにもない。
だけどそれを言ったら、
ズキ……
どうしてか、胸が痛んだ気がした。
「ほんとに、それだけ…?」
メモを取る手を止めて、真っ直ぐわたしを見つめる奈子ちゃん。
その目を、どうしても見ていられない。
スっと、目線を逸らした先には綾斗くんがいて。
今度は膝に顔を埋めた。
「…ほんと」
自分の声があまりに小さくて、
いじけるように、わたしは
運動場の砂を弄った。
♡♡♡
「まつむらーっ!」
「キャー!」
教室に戻る途中。
上からそんな声が降ってきた。
顔を上げると
3階の窓から先輩達が綾斗くんに向けて手を振っていた。
わぁ、すごい。
その光景はまるでライブ会場のよう。
「ファンサ、しなくていいのかよ」
「なんだよ、ファンサって」
宮坂くんにからかわれている。
しかし、先輩達には一切目もくれずスタスタと歩いていく綾斗くん。
クールだなぁ。こういう時の綾斗くんは
いつもの綾斗くんとは全然違う……。
まるで別人みたい。
やっぱり人気なんだなぁ……。と、
しみじみと思い知らされた。
「ほんっと…、年下にキャー、とか、恥ずかしくないのかね」
隣を歩く奈子ちゃんはすっかり呆れ顔。
「あはは…、」
なんだろう…。
キャー、キャー、
言われてる綾斗くん見るの。
別にこれが初めてじゃないのに、
なんか今……
ちょっと嫌、かも…。
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