君にキュンして恋をした

今宵恋世

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【綾斗side】

「きっと松村くんの彼女になる人は
幸せなんだろうなぁ…」

あんなこと。するつもりじゃなかった。
けど……
誰にも渡したくなくて……

‪”‬松村くんの彼女になる人‪”‬

まるで他に誰かいるみたいな
言い方をされたのが
なんか寂しくて……
いても立ってもいられなくなって……

「綾斗、って…呼んで……?」

あんなことを……。しかも……

「乃愛…」

俺、どさくさ紛れに
名前呼びしちゃってたぁーー!

「あっ、ごめ……っ、俺……っ」
「…うっ、ううん!!ぜっ、全然!」

うわぁああああああああああああ!!
なにやってんだよ!俺!
やっちゃったああああああああ……!!!

付き合ってもない女の子に
壁ドンするとか痛すぎだろ!
あぁーーーーー!!!俺のバカ……!!
自分が嫌いになりそうーー!!!!

てか…!
まじで近年、
少女漫画でしか見ねぇ顎クイも
しちゃってたぁあああああ!!!
あぁーーーーー!!!俺のバカ……!!

♡♡♡ 

「あっ、今日は…っ、ありがとうっ!
あの…、すっごく、楽しかった!」

夕焼け小焼けの歌が町に流れはじめた頃。
片瀬さんの家についてしまった。
それまでずっと無言だった俺たちは
やっと玄関先で言葉を交わした。

‪”‬楽しかった‪”‬と、いう言葉を聞いて
俺は安心していた。
楽しくなかったら…って、不安だった。
さっきの……壁ドンの件もあるし……。

「こちらこそありがとう。俺も、
すげぇ楽しかった」

笑って返す。
心の中ではまだ壁ドンの件を引きずって
うわぁああああああああああああ!!
と叫んでいたが。

「じゃあ、また明日……っ、がっ、学校で!」

話し方がどう見ても、たどたどしく
おかしくなってしまった片瀬さんを
見つめ、悲しくなった。
また心の中で叫ぶ。

あぁーーーーー!!!俺のバカ……!!

「あぁ、また明日。学校で」

俺は1人。歩き出す。
振り返ればまだ俺を見送って
手を振る片瀬さんの姿が玄関先にあった。
本当は今にも膝から崩れ落ちて。
地面に手をついて。
叫びたい気分だった。しかし
そこの角を曲がるまでは。
俺が片瀬さんの視界から消えるまでは。
我慢しよう。そう思ってひたすら歩く。

たった数メートルが長く感じた。
あと少し。あと少しで、角を曲がる。
……と、その時だった。

「ばっ……、バイバイ!
あっ……、‪”‬綾斗くん‪”‬……!」

背後からそんな声が聞こえてきて
ビクッと肩を上げて振り向いた俺は
片瀬さんと目が合った。
夕日に照らされた片瀬さんがとても眩しく感じて、
俺はそんな片瀬さんに
ニコッと笑って、角を曲がった。

曲がった瞬間。
膝から崩れ落ちて地面に手をついた。
そして声が漏れる。

「なっ……なんだよあれ…」

さっきまでは自己嫌悪で最悪でだった俺。
しかし最後の一言で……もう……

((ばっ……、バイバイ!
あっ……、‪”‬綾斗くん‪”‬……!))

うわぁあああああああ!!!
なんだよあれ!なんだ!なんだ!

かっ……かっ…………かっ………………
かわいい…………っっ!!!!!
とてつもなくかわいい……!

‪”‬綾斗くん‪”

名前で呼んでくれたぁ……!!!!

はぁ……やべぇ…………。
深く深呼吸して立ち上がる。
帰ろう。とりあえず。一旦家に帰ろう。
なんとか冷静を取り戻した俺は
スキップしそうな勢いで家に帰った。

♡♡♡

「ただいま」
「あっ、綾斗ー、おかえりー
……って!あんたなにニヤニヤしてんのよ!」

ちょうど玄関を横切った姉ちゃんが俺の顔を2度見した。

「はっ、はぁ!?してねぇし…!」
「ねぇーきーもーいー!!きゃー」

姉ちゃんはまるでゴキブリが出たかのような悲鳴を上げた。

「お母さーん、
綾斗がニヤニヤニヤニヤしてるー」

「だからしてねぇって!
あ、俺!今から宿題やるから!
ぜってぇ!部屋入ってくんなよ!」

「ありゃ変態への第1歩を踏み出したに違いないわ」

などという姉ちゃんの声は無視し、
俺は部屋に入る。

ガチャ……

そしてベッドに飛び込んだ。
枕に顔を埋めて
まだ耳に残る声にどっぷり浸る。

((ばっ……、バイバイ!
あっ……、‪”‬綾斗くん‪”‬……!))

‪”‬綾斗くん‪”‬……!)) ‪”‬綾斗くん‪”‬……!)) ‪”‬綾斗くん‪”‬……!)) ‪”‬綾斗くん‪”‬……!)) ‪……

うわぁあああああああああ!!!!

名前!名前……!!
自分を嫌いになりかけていた俺の胸に
見事!クリーーーーーーーンヒット……!

好きな人に
名前を呼ばれるのがこんなに……
うれしいなんて……!

((…あやと……くん…っ))

「はっ……!」

その時。
俺が壁ドンの最中、
半ば強引に頼んだ結果。
言ってくれた((…あやと……くん…っ))を
思い出す。

「そうだ……あの時…」

((…あやと……くん…っ)) …あやと……くん…っ))…あやと……くん…っ))……

あの呼び方も
やばかったんだぁあああ!!!
最後の一撃で忘れていたが、
あの呼び方も…かなりやばい……!!!
目をゆらゆらさせて俺を見つめるあの目……!

元からかわいいのに今日……なんか……
片瀬さん多分メイクしてたし……!!!
私服もちょーかわいくて……!!
さらにかわいくなっていた……!!
もう…っ、最初会った時なんか
この子と今日1日行動を共にするのか……!?

って、放心状態だったし……!俺……!
やべぇ……。余韻が……やべぇ。
一旦落ちつこう。
一旦。落ちついて漫画を読もう。
……【ハピラブ】を読もう。
本棚からおもむろに5巻を取り出して開く。

ーードン……ッ
ーー茶ノ宮くん……っ
ーー…一茶って呼んで?俺のこと。
ーー………一茶、くん…

パタン……
俺は静かに漫画を閉じた。
5巻の最初は茶ノ宮がリズムちゃんに
壁ドンするシーンからのスタートだ。

「……」

俺は固まった。
そして頭を抱えた。
なんか……っ、なんか……これ………っ!!
さっきの俺らみたいじゃねぇか……!!!
展開が全く一緒すぎて笑えねぇ!!
は!?は!?
俺別にこれ意識してやったわけじゃねぇぞ!?

「はっ……まさか……
無意識!?やべぇぞ俺……。
とうとう2次元の住民への第1歩を……。」

「変態への第1歩よ」

「そうだな、それもあるかもしれない」

「……」

顔を上げたら部屋のすみに姉ちゃんが
仁王立ちしていた。

「って、おい……!勝手に部屋入ってくんなって……!」

慌てて追い出しドアを閉める。
が、また開けられる。

「ねぇ、なんか今日の綾斗決まってない?髪型とかさー。いつもそんなんしなくなーい?」

「入ってくるな……!」

無理矢理追い出し、
部屋に置かれた全身鏡に目をやる。
そこにはかなり頑張った俺が映っていた。
気にいってくれた…かな……。片瀬さん。

数日前​───────……

「心理テストーっ!」

「はぁー、なによいきなり
女子の会話に入ってきて!」
「いいじゃーん!ちょっと付き合ってよ!」

休み時間。
片瀬さんと安藤さんが喋っているところに
俺は翔太を送り込んだ。
いつもろくなことをしない翔太のことだ。
心配ではあったが、
緊急事態なので送り込んだ。
緊急事態というのは……

日曜日……。
どんな服を着ていけば分からない問題だ!!
片瀬さんと【ハピラブ】展に行くことが
決まってから連日、雑誌を読みあさり、
ネットでは「女の子と出かける時の服装」
というワードを数百回入力……!
そして検索……!しかし、結局はその
一緒に出かける女の子の‪”‬好み‪”‬らしく……
もうこれは本人に直接聞くしかない、
と思ったのだ。

「え!心理テスト!?やってやってー」

片瀬さんは思いのほか、心理テストに食いついてくれたみたいだ。
ホッ、と胸をなで下ろし、
俺は自分の席で
翔太たちの会話を盗み聞きした。

「じゃあ第1問!てれん♪」
「なんか早押しクイズみたいね……」

安藤さんはかなりイヤイヤのようだが片瀬さんが乗り気なのでやってくれる?みたいだ。

「あなたはデートをします。
さて!男の子にどんな服装で来てほしい?」

「あ~…わたしは………」

安藤さんが先に口を開いた。

「……」

「まずデート、しない」

「……」

驚きの答えだ。
場が凍っているのが俺のところにまで
伝わってくる。

「ちょ、奈子ちゃん、前提部分どっかやってどうするの!」
「そうだよー。するとして!だよー」
「えー……」
「あっ!わたしはね!」

おっ!片瀬さんが
何かを言おうとしている!!

俺はより一層耳を傾けて、続きを待った。

「おぉ!なになに!」
「白いパーカー!」

白い……パーカー…

「え!?なんでなんで!?」

そこでチラッと様子を伺うと、
翔太がウィンクしてこっちを見てた。
情報ゲット!とでも言いたげた。

「えー、理由とかいるの??」
「一応!念の為!」
「う~ん……なんかさ!」
「うんうん!」
「白いパーカー着た男の子、って……」
「うんうん!」


「めっっっちゃ、かっこよくない!?」


めっっっちゃ……。
俺はノートに大きく
「絶対白いパーカー!」とメモした。
日曜日は絶対、これだ……!!

「じゃあ第2問!てれん♪」
「ちょっと……!
わたしまだ答えてないんだけど!?」
「奈子ちゃんはー……あ、あとで聞くよ!」
「なんでよ!」

「あなたはデートをします。
さて!男の子にどんな髪型で来てほしい?」
「なんかさっきとほぼ一緒じゃーん」
「些細な違いが、
心理テストを左右するんだよ!」
「はぁー?」
「で!?で!?乃愛ちゃんはどうー?」

「う~ん…。あ、いつもと……
違う髪型で来てほしい……かな」

「違う髪型……?」
「うん!違う髪型!ほら!
ギャップが胸に刺さるから!
こう、グサッ…と」
「あ~!なるほど、なるほど!」
チラッと様子を伺うと、
翔太がまたしてもウィンクしてこっちを見てた。
俺はノートに大きく
「いつもと違う髪型!」とメモした。

ん……?違う…髪型……?

メモした文字を見つめて俺は首を傾げる。
例えば……どんなのだ…?

「えーじゃあアフロで来てもいいのー?」
「それは嫌だよ!」……

安藤さんが少しだけ掘り進めてくれるが、
もっと掘って欲しいところだ。
俺は「アフロは嫌」とメモした。
まぁ、そりゃ嫌だろう。とは思ったが。

「じゃあハゲはー?」
「それも嫌だよ!」……

安藤さんが極端に質問するので、
ろくな情報しか分からない…。
俺は翔太をチラッと見て、
(どんな髪型がいいか、細かく聞け)
と口パク……しようとしたが……

「あはははは!!ちょっ……奈子ちゃん、ハゲって……っ、あはははっ!!」

あいつ……っ!!爆笑してやがる!
目線がぜんっぜん合わねぇ!

「てか、心理テストの答えはー?」
「あぁ、えーと、
‪”‬いいことがあるでしょう‪”‬だって!」
「はぁー!?なにそれ!あんたデタラメ言ってるでしょ!?」……

と。結局、どんな髪型か。までは
聞くことが出来なかったが、
とりあえずいつもとは違うように。
を意識してセンター分けをしていったのだ。

「……」

全身鏡に映る自分をもう1度見つめる。
これで……よかったのか?
片瀬さんは多分…。
茶ノ宮に憧れを持っている。
茶ノ宮への憧れが俺に向くように……。

最近は常にそれを意識していた俺。
そんな俺にとって今日の‪”‬あれ‪”はかなりうれしくて、思わず顔がニヤける。‬

‪”‬あれ‪”‬とは……
片瀬さんが……!!
俺を…俺のことを……!
茶ノ宮に似ている、
と思っていた件!

こうして鏡に映る自分と向かい合っても
似ている、なんて全く思わないが、
てか未だに信じられないが……。
あれは…!!衝撃の事実だった!

「やべぇっ……!!まじうれしい……!」

「綾斗!また1人でブツブツブツブツ……」

また姉ちゃんが部屋に入ってきやがったが、とりあえず追い出さず聞いてみる。

「姉ちゃん、俺って茶ノ宮に似てる?!」

元々【ハピラブ】は姉ちゃんが勧めてきた漫画だ。姉ちゃんも、もしかしたら俺を……

「調子に乗るな」

「はい、すいません」

♡♡♡

翌日のことだった。

「今日は席替えをします」

担任の一言でクラスが、一気に
わー、きゃー、と盛り上がりを見せた。
席替え……

「じゃあ前からくじ回してけー」

席替え……

恋に……
席替えは必須だ、
という話を聞いたことがある。
前回の席替えでは運が俺の味方をしてくれなかったため、片瀬さんと隣の席になることはできなかった。
だが、しかし……!!!
俺はこの席替えで!今度こそ!
運を味方につけてみせる……!!!!!
回ってきたくじ。

ドクン……ドクン……

1本引いて先端に書いてあった番号は
「30」だった。
「30」は1番後ろの席。
今現在片瀬さんがいる席の隣だ。

位置的にはうれしい。
だけど隣に片瀬さんがいなければ
あんまりうれしくない……!

「はい、片瀬さん」

片瀬さんが最後の1本を引いた。
何番を引いたんだろう……。

「全員くじ引いたなー?
じゃあ移動よろしくー」

担任の合図でクラスメイトが一斉に立つ。
そこでやっと、緊迫した空気が溶けて、
ザワザワとしだした。

「俺、1番前だったー最悪ー」

翔太がガクン、と肩を落としながら
話しかけてきた。

「ドンマイ」

ノロノロと前に移動する翔太とは
反対方向に俺は移動した。

「乃愛ーっ!席どこだったー?」

そこで安藤さんが片瀬さんに近づき、
そんな質問をした。

ドクン……ドクン……

騒がしい教室の中。
俺は片瀬さんの声だけに耳を傾けた。

「奈子ちゃん!わたし今と席一緒!やったー」
「えーいいなー私1番前なんだけど!最悪!」

……っ!

今と……席、一緒……?

ってことは……
俺と……席…っ!!!
隣だぁああああああああ……!!!!!!

俺が向かう席の隣には特に
移動しなかった片瀬さんがいる。
やべぇ……!今世紀最大にやばい展開……!
俺はおそるおそる片瀬さんの
隣の席に荷物をかけた。すると……

「えっ、綾斗くん!席ここなの?隣だーっ」

キラッキラな笑顔を俺に向けてくる片瀬さんが……そこに……!!!!

「あぁ、隣…だな」

緊張のあまり、声が震える。
こんな奇跡あるかよ……!?
どんな確率だよ……!!!
ありがとうございます……!!!運……!「30」と書かれたくじを握りしめて
心の中で死ぬほど感謝した。

そんなことをしていると、隣から
「やったー」という声が聞こえてくる。

「……っ、」

や、や、や、や、やったー……!?
やったー、って……!?あの……
‪”‬やったー‪”‬!?

片瀬さんの視線はまだ俺に向いていて、
これは確かに俺に向けて言ってくれた、
‪”‬やったー‪”‬だ。

俺と隣であることを‪”‬やったー‪”‬と
思ってくれて…いる……!?
俺は今すぐに飛び上がってしまいたい気持ちを必死に……!もう必死に!おさえて
「よろしくな」と言った。

うわぁ……やべぇ。
めちゃくちゃうれしい……。

「えー、じゃあしばらくはこの席なー。
じゃあホームルーム始めるぞー」

しばらく、じゃなくて
一生このままでいいわ!

と、言いたくなったがこらえる。

「プリント配るなー…」

新しい席で。
片瀬さんの隣で。
淡々と進むホームルーム。
机に頬ずえをついて、
視線が勝手に片瀬さんに向く。
まじ、席替え感謝……。

そんなことを考えていると頭の中に
さっき片瀬さんに言われた言葉が
ポゥッ……と、浮かんできた。
((えっ、綾斗くん!席ここなの?隣だーっ))…
はっ……!!!
おい!まてまてまてまてまてまてまて!!

片瀬さん!さっき……!
超ナチュラルに‪”‬綾斗くん‪”‬って言った!?
言ってくれてた……!?

昨日壁ドンの最中。
つい、勢いに任せて頼んだ

((綾斗、って…呼んで……?))
を……、今日もしてくれている!?
正直昨日限りだと思っていたその呼び方に……
俺は…………
胸がはち切れそうなほどうれしくなっていた。
‪”‬これからも‪”‬ そう……呼んでくれるのかな…。

っていうか、俺もこれから…
乃愛、って……
呼んでいいのだろうか​───────。

キーンコーンカーンコーン……

「ねぇー乃愛ー。聞いてよーわたし隣こいつだったんだけどー」
「ひどいー!ほんとはうれしいくせにー!」

ホームルームが終わって早々、
安藤さんがうんざりした顔で片瀬さんの席に。
その後を追いかけるように翔太も来た。

「知ってるー。ここから丸見えだもんー」
「ねぇー助けてー。こいつめっちゃ話しかけてくるー」
「俺と話せてうれしいくせにー」
「はぁ……話が全く通じないわ」

片瀬さんはそんな2人を楽しそうに見つめていた。

「すごく仲がいいように感じるんだけど……」
「どこが!?」
「綾斗くんもそう思わない!?」
「えっ!?」
「……」

片瀬さんの一言で3人の視線が俺に集中する。

「……思う」
「ほらー!」……

翔太がこっそり耳打ちしてくる。

(おい、‪”‬綾斗くん‪”‬ だって!!)

‪”‬松村くん‪”‬呼びから‪”‬綾斗くん‪”‬呼びになったことに即座に気づいたようだ。

「あっ、てかちょっと2組ついてきてー
体操服忘れちゃった」

「奈子ちゃんがなんか忘れるなんて珍しいね!」

それから片瀬さんと安藤さんは教室を出ていってしまった。
2人の姿が見えなくなるのと同時に翔太が口を開く。

「おいー、昨日のデート!どうだったんだよ!」

肘で俺の肩をツンツンしてくる翔太。

「俺のリサーチ、役に立った!?」
「……多分?」

あの服装で。あの髪型で。
よかったのかどうかはハッキリとは
聞いてないけど、一応ちゃんと心理テストと称し、聞いた‪”‬片瀬さんの好み‪”‬は抑えたつもりだ。

「てかさ、席。よかったな!」

隣の片瀬さんの席を見て
ニヤニヤとする翔太。

「そうなんだよ!やばくね!?」
「やばい!これは神様が背中押してんだよ!」
「背中?なんのだよ」

ちょうど喉を潤そうと
水筒に口をつけたところだった。
翔太が小声で言う。

「告白の」
「ケホッ……ケホッ…………ッ、
ちょ……っ、いきなりなんだよ」

思わずむせる。

「いや、だって、普通に考えたら告るだろ。好きな子には」

「……」

「……確かに」

「いやぁ……けど、さすがに告白は早いだろ…」

「早くねぇよ!2人で出かけたんだろ!?
今が1番いい時じゃねぇか!」

「……」

「え、じゃあ翔太だったら出会ってからどのくらいで告白するんだよ」

「俺は出会って数秒」

「お前のはナンパだろ!ナンパとはわけが違うんだよ!」

こいつに聞いたのが間違いだった。

「まじで好きなんだよ……」

「……」

思わず俺の口からそんな言葉が飛び出して、
そこで改めて思う。
そうか……俺。
まじで片瀬さんのこと好きなんだ……。

「ぷっ……、あはははははっ……」

隣で翔太が吹き出す。

「なんだよ!」
「いやっ……、綾斗さ……っ、」
「……」
「めっちゃピュアだなぁ…ぷっ…」

こいつ……ぜってぇ、バカにしてやがる。
笑いをこらえたように……
いや。もう吹き出しながら
そう言った翔太の顔をにらむ。

「てかさー、綾斗からの恋愛相談なんて
新鮮すぎるんだけど」

俺の背中にもたれるように乗りかかった翔太。

「今まで告白されても秒で振ってきた、あの綾斗がなぁ……」

昔を懐かしむように‪天を仰ぐ翔太。
確かにちょっと前まではそうだった。
気になる人が出来たことすらなかった。

「どこがそんなに好きなの?どちらかと言ったら奈子ちゃんの方がかわいくない?」

「おい」
「冗談だってば」

ムカッ、とはしたが、俺的にはこの世の全男子。そう思ってくれていた方がいい。ライバルなんていたらたまったもんじゃない。

「……全部」

「全部、ってお前……」

「とにかく全部かわいいんだよ!
かわいいだけじゃなくて、その、なんか!
守ってやりたくなる感じ?っていうか!その……、とにかくあれだよ!…す…」

「……」

「好きなんだよ……、めっちゃ」

「……」

「もはやお前が、かわいいわ!……あ。じゃあさ。もうすぐ体育祭だろ?……誘ってみたら?」

「誘う、ってなににだよ?」
「花火だよ。体育祭の後の!」
「あー、あの伝説か?」

そう。この中学には体育祭の後の後夜祭。
大きな花火が数発打ち上がるらしい。
そしてその数発の中には
ハート型の花火も上がるらしく、
それを男女で手を繋いで見ると、
結ばれる、という伝説があるのだ。

‪”‬ハート伝説‪”‬ というらしい。

「あんなん誰も信じてなくね?」

しかし、俺はそんな伝説、全く信じていない。

「バカ!女子はあぁいうの信じるんだよ!」
「……」
「え……。まじ?」
「まじ」

確かに……言われてみれば、
女子はおまじないとか、占いとか、やたら好む……。

はっ……!そういえば!
心理テストと称し、翔太が色々質問した時も……、安藤さんはかなり怪訝な顔をしていたが、片瀬さんはかなり食いついていた……。

片瀬さんはもしかしたら……
女子の中でも……そういうのを信じる方……?なのかもしれない!

「え、でも、だったら尚更……俺が誘っていいのかな……」
「なに弱気になってんだよ!」
「だって……」

‪”‬結ばれる‪”‬と言われているくらいだ。
‪”‬男女で手を繋ぐ‪”‬と言われているくらいだ。

「好きな男子と見たいだろ……」

「……」

好きな男子、が片瀬さんにいるのかは
分からないけど……。
もしいたとして。それが俺だったら……
どんなにいいか……。
悶々と考えていると翔太がやれやれ、
と言ったように口を開いた。

「心理テスト第3問!てれん♪
あなたは好きな人がいますか? 
聞いといてやったぞ」

「はぁ!?まじかよ!?いつの間に!?」
「お前が便所行ってる時」
「……なんて、言ってたんだよ」
「……」
「いない、ってさ」
「……」

少し考えて、つぶやく。

「それって……よろこんでいいのか?」
「なんかビミョーなとこだよな」

そうだ。いない、と言ったのなら
俺のことも……そういう目で見てくれていない、ということだ。

「まぁ、いる、って言われた方が綾斗はもっと不安になるだろ」

「……だろうな」

多分そっちの方がモヤモヤするだろう。

「まぁ、とりあえずさ!誘ってみろよ!
‪”‬ハート伝説‪”‬!手を繋ぐ、繋がない、
は別にして一緒に見るくらいはいいだろ!」

「……」

「だな。…誘ってみる」

「よく言った」

翔太が俺の頭をなでなでしながら言った。
すぐにシッシッ、と払う。

「これで数年前のことは
チャラにしてくれるか」

翔太が取調室での刑事のような顔をする。

「数年前……3年前のカンニング事件だな」
「あぁ。そうだ」

3年前。翔太がカンニングし。
「俺じゃねぇっす」と言い逃れし。
迷宮入りとなった
塾の模試カンニング事件。
まだ軽く根に持っていたが……
今回の心理テスト作戦は、
かなり助かった。

よし。

「俺がお前の罪を被ってやる」
「綾斗……」
「お前の罪は俺の罪だ」

見つめ合う俺たちは
男同士で暑い握手を交わした。

「ちょっと、なに男2人でベタベタしてんのよ」

そこでタイミング悪く、安藤さんと片瀬さんが帰ってきた。

「これは……っ、友情を確かめ合ってい……」

安藤さんの後ろにいる片瀬さんは
翔太と握りあっている俺の手をジー、と
見ていた。

「あ、知ってる。そういうの
BLっていうんだよね」

安藤さんが、小さく呟いた。

「奈子ちゃん、びーえる?ってなに?」
「え?乃愛知らないのー?
BL、っていうのはね、ボーイズ……」

「あーー!!!今から腕相撲大会でも開催しようかって話してたんだ。2人もやる?」

「やらないわよ!」

あぶねぇ。変な誤解を生むとこだった。


♡♡♡

「のあ……。乃愛。乃愛……。」

その夜。俺は名前を呼ぶ練習を始めた。
壁ドンをしている時は
勢いがあったっつーか……。
なんかすんなり呼べたけど、
今日学校で名前を呼ぼうと思った時、
どうしても‪”‬片瀬さん‪”‬になってしまっていた。

片瀬さんは日曜日以来、
ずっと‪”‬綾斗くん‪”‬って
呼んでくれてるし…、
お、俺も……その…、

乃愛……って、呼びた……い…………。

「……」

((めっちゃピュアだなぁ…ぷっ…))

頭を過ぎる翔太の声……。
うわぁああああああああああ……!!!
女の子の名前を呼ぶ練習‪を家でやるなんて……!

俺はピュアなのか……!?
もしかすると、ピュアなのか……!??
いや…。
これをピュアというのか……
意気地無しというのか……

「うわぁあああああ……!!」
「綾斗!うるさい……!」
「はい、すいません」
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月芝
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かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

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