上 下
11 / 14

家族になった日の話

しおりを挟む
「ただいまー」

 あ。ふれあや!

「わん!」

 ウチはソファから立ち上がっていつものように玄関にお出迎えに向かった。

「わんわん!」

「チャルルーーっ、んぎゅー」

 おおー、えらいご機嫌やな。

 帰宅早々抱きしめられてしまいましたわ。
 ん? 

 クンクン、と鼻先を動かす。

 なんかふれあ…雨音くんの匂いするな。

 これはもしや……

「さっきね、途中まで雨音くんと一緒に帰ってきたんだー!」

 やっぱな。

 匂いでバレバレや。

 とりあえず吠えとくか。

「わん!」

「これ……夢じゃないよね?」

「わん!」

「きゃー、もうっ、こんな展開予想してなかったよー! 私なんか絶対振られるって思ってたのに…っ」

 ヒトがよく食べるアイスクリームのようにデロデロに頬が緩んでいるふれあ。

 ​────今日の昼間。

 学校を抜け出したふれあと雨音くんは無事気持ちを伝えあって付き合うことになった。

 なんや、あの後ウチを家に置いてからキャッキャウフフしとったんかいな。

 ええなぁ。

 ふれあ、めっちゃ幸せそうな顔しとる。

「さっきね、雨音くんと一緒に帰ってきたんだ…っ、へへへへ」

 それさっき聞いたって。

 完全に浮かれとるな。 

「チャルル…」

 抱きしめとったウチの体を下ろし、急に深刻そうな顔つきになるふれあ。

 ん? 急にどしたん。

「昼間はごめんね。大嫌いなんて言っちゃって……」

 あー、あれのことか。

 なんや、まだ気にしとったんか。

 繊細なガールやなぁ。

「いつも私の話聞いてくれて、私の家族になってくれて、本当に本当にありがとう。私……雨音くんも大好きだけど、同じくらいチャルルのことも大好き……っ」

「わん!」

「許してくれる?」

 あんなん大して気にしてませんて。

 頭に血が登ってつい言ってしまった、的なあれやろ?

 そんな深刻そうな顔せんでええのに。

「わん!」

 てくてく歩いて、ふれあの膝に手をぽん、と置いた。

 犬はいつだって飼い主の味方や!

 そこまで気にしなはんな。

「チャルル……」

 また、むぎゅーと抱きしめられて、その後はおやつをもらった。

 いつもより多くくれて、夜ご飯前なのにお腹いっぱいになってもうたわ。

 *

 *

 *

 その夜。

 懐かしい夢を見た。

「わぁー! わんちゃんいっぱーい!」

 それはウチがまだペットショップのショーケースに入れられて売られていた時のこと。

「おーい、ねんねしてるのー?」

「……」

「おーい」

「……」

「おーい!」

「……」

 なんや。うるさいなぁ。

 ゴロン、と寝返りを売ってショーケースの外を見る。

 すると目をキラキラさせた、ちっさな女の子とパチリ、と目が合った。

 2つ結びにしていて、なんかうさぎみたいな雰囲気の子や。

「あっ! 起きたー!」

「……」

 まだ半分夢の中で、ぽわぽわする頭にそんな嬉しそうな女の子の声が届いた。

 なんや。ウチが起きたことがそんな嬉しいのかいな。

 ちょいとサービスしてやるかー。

「わん!」

「あっ、吠えたー!」

 あはは、なんやこの子。めっちゃ喜んどる。

 ただ吠えただけなのに。

 変なのー。

「あっ、あくびしたー!」

「あっ、また寝っ転がったー!」

「あっ、背中かいてるー!」

 ウチがちょっと動いただけやってのに、女の子はその度にどんどん目をキラキラさせよった。

 ほんま、変な子やなぁ。

 たかが犬でこんな喜びはるお嬢さん初めて会ったわ。

 純粋な目ぇしとる。

「お母さーん」

 しばらくするとその女の子は母親の所に走っていった。

 なんや。もうウチには飽きたのか。

「……」 

 別に寂しいなんて思っちゃいません。

 ちょうどえぇ暇つぶしになったわ。

 ウチはゴロン、と寝っ転がって丸まった。

 入れ替わり立ち代り客が出入りするペットショップでは、こんなのしょっちゅう。

 ちょっと仲良うなったかな、と思ってもウチの値札を見ては「高いねー」と言ってみんな困り顔する。

 そしたら決まって「またね、バイバイ」って言って、帰ってしまうんや。

「……」

 別に……寂しいなんて思っちゃいませ​────

 そんな時。

 またさっきの女の子の声が聞こえた。

 お母さんの手を引いて、こちらへまた戻ってきたのだ。そしてウチのことを指さした。

「私この子飼いたいー!」

「……っ」

「んー? このトイプードルの男の子?」

「うん!」

「ふれあがそう言うなら、いいわよ」

「やったー!」

 え……………………???

 ウチ……?

 ウチのこと飼ってくれるん?

 ポカン、としている間にいつもウチをお世話してくれとったペットショップのお姉さんに抱き上げられて…

 そのまま別の所へ連れていかれて…

 かと思ったらその先にさっきの女の子がお母さんといた。

「わぁー! 来たー!」

「優しくだっこしてあげてね」

「はいっ」

 ウチはお姉さんの手から女の子の手に渡った。
 女の子のちっこい膝に乗せられて、なでなでされた。

「わあっ、モコモコだーっ」

「ほんとねぇ」

 母親にもなでなでされた。

「でしょ! さっき背中かいてたんだよー」

 恥ずかしいから、そんな昔のこと言わんどいてや。もう。

 少し照れくさくなったウチは、女の子の手の甲をペロ、と舐めた。

「あっ! なめたー! かわいい! かわいい!」

 かわいいってなんや。ウチ男だってゆーのに。

 ​───────これは、ウチとふれあが家族になった日の話。

「私ふれあ! 今日から家族だよ!」

 家族……っ

 満面の笑みでそう言ってくれたふれあにウチはしばし目を奪われてしもうた。

「わん!」

 生まれて初めてウチに温かい感情を教えてくれたのはふれあやった。

 これからも大好きやで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

とじこめラビリンス

トキワオレンジ
児童書・童話
【東宝×アルファポリス第10回絵本・児童書大賞 優秀賞受賞】 太郎、麻衣子、章純、希未の仲良し4人組。 いつものように公園で遊んでいたら、飼い犬のロロが逃げてしまった。 ロロが迷い込んだのは、使われなくなった古い美術館の建物。ロロを追って、半開きの搬入口から侵入したら、シャッターが締まり閉じ込められてしまった。 ここから外に出るためには、ゲームをクリアしなければならない――

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

空くんとカップルユーチューバーを目指すお話

今宵恋世
児童書・童話
カップルユーチューバー育成校。そこは学校側が決めたパートナーとペアを組み、カップルとしてユーチューバーを目指す特殊な学園であった。今年度からそこに入学することになった森島りんごのパートナーとなったのは、北条空。なんと空は3年前にチャンネル登録者数100万人と大活躍していたがなぜかある日突然引退してしまった伝説のユーチューバーだった!少し冷たいのにちょっぴり優しい…? そんな空との恋愛&動画投稿の行方は果たしてどうなるのか。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

処理中です...