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めちゃくちゃな学校生活
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ーーチリチリチリチリチリチリ……ッ!!
目覚まし時計がやけに大きく聞こえてきて目が覚めた。
ムギュ…、と全身を抱きしめられていて、なんだか暑苦しい。モゾモゾと動いてみる。
「…」
しばらくして理解した。
私、またチャルルになってるーーーーー!!
ホッとしたのもつかの間。
月曜日の朝。
目が覚めたら私はまたチャルルになっていた。
金曜日を最後に土日、入れ替わりはなかったのに……!
昨日はいつもどおり同じベッドで眠りについたんだけど…、どうしてこうなった!?
” チ ャ ル ル ! 起 き て ! ”
「わん! わん!」
私(多分中身チャルル)はまだ熟睡中のようだ。
「わん! わん!」
「んー…っ、寒いー…眠いー…」
なんだかいつもチャルルが私を起こしに来る時の気持ちが分かった気がする。
無理矢理掛け布団を引っ張ると、そこでやっと起きてくれた。
気付けば昨日から11月。
布団から出たくなくなる季節に突入していた。
この土日で急に寒波がやってきて、昨日までの私も朝こうして布団から出るのを嫌がっていた。
でも今は平気。
きっとチャルルの毛があるからだ。
犬って常にこんな暖かいんだなぁ。
「んー、寒いー」
せっかく剥ぎ取ったのにまだ温もりの残る掛け布団にくるまっている私(中身チャルル)。
「ふれあー、早く準備しなさーい」
そんな時。
階下からお母さんの声が。
やばっ…!
てか、今日学校なのにどうしよう!
いつもなら朝ごはんを食べ終わっている時間だ!
” チ ャ ル ル ! と り あ え ず そ こ に か か っ て る 制 服 着 て!”
「わんわん! わんわんわん!」
壁をカリカリしてクローゼットにかかる制服の裾を引っ張る。
今のところ私は無遅刻無欠席。
小学校の時に皆勤賞を逃したことは今でも悔しがっている私。たとえ中身がチャルルであったとしても学校を休むのだけは嫌だった。
「んー…、まだ寝る…」
あー! もう! いつまでゴロゴロしてるんだ!
***
「わー! 目玉焼きだ!」
「半熟にしといたわよ」
「どうもおおきに」
「ふれあったら、またそんな言葉使ってー…」
やっとの思いで起こし、制服に着替えてもらい、リビングに降りるとお母さんがエプロンを椅子にかけて仕事に行くところだった。
「じゃあお母さん行くわね。戸締りよろしく」
「任しとき!」
「チャルルもバイバイ」
「わん!」
それにしてもどうしよう…
お母さんを見送りながら私は頭を抱えた。
” チ ャ ル ル ! 学 校 で は、 本 当 は 犬 と か 言 っ ち ゃ ダ メ だ よ ! ? 分 か っ た ! ? ”
「わん!わんわんわん!? わわんわん!?」
「えー? なんでや?」
” 頭 お か し い 人 だ っ て 思 わ れ る か ら だ よ ! ”
「わんわんわんわんわんわん!」
「しゃあないなぁ。分かったわ。それにしても、これ美味しいなぁー。目玉焼きも格別や。犬だと食べれんもんばっかや」
イチゴジャムがたっぷり塗られた食パンを口いっぱいに頬張りながら私(中身チャルル)がものすごく幸せそうに言う。
それを言われてハッとした。
そっか。犬だと口にしちゃいけないもの多いもんね。
いつも私が当たり前に食べているものは、きっとチャルルにとっては特別なんだ。
” あ ー ! て か チ ャ ル ル ! 足 閉 じ て よ ー ! ”
「わんー!! わんわん! わんー!」
チラッ、と視界に入ってしまった私(中身チャルル)の足。
椅子の上で大股開いて食べていることに気づいた私は思わず叫んだ。というか、吠えた。
一応私、恋するレディーなんだからね!?
「誰も見てないし、かまへんやん」
これ…、絶対学校でもやっちゃうやつだ……。
一気に心配が押し寄せてきて、休ませたい衝動に駆られる。
でも…っ、せっかく今日まで無遅刻無欠席できたのに!
弱気になりそうな心を吹き飛ばし、チャルル(中身私)は鼻息を荒くした。
” 決 め た ! 私 も 学 校 行 く ! ”
「わん! わんわんわん!」
「え? どないしたん。いつもウチのこと連れてってくれへんのに」
”今 日 は 特 別 ! ! ”
「わんわんわん!」
***
” こ こ は 、 右 ”
「わん…っ」
学校までの行き方を知らない私(中身チャルル)にコソッ、と道案内する。
────現在チャルル(中身私)は私(中身チャルル)のスクールバッグの中に入って、学校に向かっている、というなんともヘンテコな状況である。
学校がだんだんと近づいてくると、私(中身チャルル)は感動したように声を漏らした。
「ここがふれあがいつも行っとるガッコーか~、おっきい建物やなぁ~」
それから下駄箱で靴を履き替えることを教えたり。
私の教室まで案内したり、と初学校の私(中身チャルル)に手取り足取り教えた。
もちろん人目には要注意だ。
「おはよー」
「ねぇねぇ、昨日のドラマ見た!?」
「見た見た!」
やっとの思いで到着した教室。
もうホームルームの5分前だった。
チャルル(中身私)が入ったスクールバッグを机の横に掛けた時。背後から穂乃果がやって来た。
「あっ、ふれあ! やっと来た! 今日遅いじゃん! 休みかと思っちゃったよ!」
バッグの隙間から2人の様子をチラッ、と伺う。
そこにはいつも通りの穂乃果がいた。
私(中身チャルル)にはなるべく標準語で、ってお願いしてるけど大丈夫かなぁ。
「あっ! 穂乃果やー! 久しぶりやなぁ!」
……ぜんっぜん大丈夫じゃなかった。
次の瞬間、飛びつくように穂乃果に抱きつく私(中身チャルル)。
穂乃果は今までに何度かうちに遊びに来たことがある。
その時にチャルルとも会っているし、割と懐いていた。
チャルルにとっては久しぶりの再会のはず。
その喜びが全面に出ていた。
「え? 久しぶりって程じゃないじゃなくない? まぁ、土日挟んだし…、2日ぶり? ではあるけど。っていうかふれあ、なんか喋り方おかしくない?」
さすが穂乃果!
いきなり抱きしめられて混乱しつつも、友達の変化にこんなすぐ気付くなんて!
「穂乃果もしばらく見んうちにえらい垢抜けとるやん! 美人やなぁ! どうしたん!!」
「えっ? 美人!? ちょっともー、朝からなんなのー、ふれあー。そんな褒めたってなんも出ないよー?」
一瞬怪しんではいたけど、それから穂乃果は上機嫌になった。
美人、と言われたことがすごく嬉しいみたい。
「あ、ふれあ。土屋来たよ?」
コソッ、と穂乃果が私(中身チャルル)に耳打ちしている。
本来なら聞き取れることのない声だけど今は私が犬であるからこそのこの聴覚で聞き取れているみたい。
「ん? ツチヤ? ツチヤってどなたですの?」
「どなたって…、ふれあの好きな人じゃん! もう何言ってんの~」
「あ! ほんまや!」
教室後方に目をやった私(中身チャルル)。
ちょうど雨音くんが教室に入ってくるところだった。
「なんや!雨音くんの苗字、ツチヤやったんやな!」
「雨音くーん!」
あっ! ちょっと! チャルル!
引き留めようとした時には時すでに遅し。
私(中身チャルル)は、目にも止まらぬ早さで雨音くんの方に駆け寄っていって…そして。
抱きついたのだ───────…
「……!!!」
多分。
今この場にいる生徒全員が目をぱちくりさせた。
あ~~~~~~~~~~~!!!
チャルル~~~~っ!!!!
今は私の体なんだってば…!!
「ちょっ…桃瀬……?」
抱きつかれている雨音くんが困惑と動揺の声を漏らす。そりゃそうだ。
付き合ってもいないクラスメイトの女子から…いきなり……、抱きつかれるだなんて…!!
チャルル(中身私)はバッグの中で頭を抱えた。
結局その後は担任の先生がやってきたからすぐに着席することになったんだけど…、案の定みんな私(中身チャルル)のことチラチラ見てるし、絶対怪しまれてる…!
さっき上機嫌になった穂乃果には『急にアプローチすごいじゃん!』って褒められてたけども!
「じゃあ、今日は席替えをします」
席替え…。
席替えは1ヶ月周期で行われる。
そうか。もうこの席で1ヶ月も経ったのか。
時の流れをしみじみと感じていると、なぜか私(中身チャルル)が手を挙げた。
「はい!」
「なんですか? 桃瀬さん」
元気よく椅子を引いて立ち上がる私(中身チャルル)。何を言い出すのかと思いきや…
「ウチ、雨音くんの隣がいい!」
「…!?」
はっ、、はぁあああ!?!?
雨音くんが驚いたように目を見開いてこちらを振り返る。当然の反応だ。
ちょっともう…! チャルル~~っ!!
こっそりとこちらに目配せしてくる私(中身チャルル)。
いいことやったでしょ! とでも言いたげにウインクしてきた。
ウインクなんて技、一体どこで覚えたの!!
「えーと…、くじ引きで平等に決めてるから……、それは出来ない、かな…」
「えー」
ほっぺをプクっ、とさせる私(中身チャルル)。
「けちんぼー」
不貞腐れたようにそんな文句をこぼした。
わああああああああ…っ、んもう!
「先生にけちんぼ、なんて言っちゃいけません」
そうして朝ホームルームでは担任の先生から説教を食らい…
挙句の果てには、雨音くんと席も離れてしまったし…。
安定の絶望的なくじ運…。
中身が変わってもそれは、変わらないままみたいだ。
” ね ぇ ! ! ど う 考 え て も 私 の 雨 音 く ん へ の 好 き 好 き ア ピ ー ル が ひ ど い よ ! ”
「わんわんわん! わん!わん!」
休み時間。
周りに誰もいないタイミングを見計らって、チャルル(中身私)は私(中身チャルル)に、抗議していた。
みんな一足先に移動授業…、音楽室に行っている。
「別にええやん。実際好きなんやし」
” 好 き だ け ど ! 好 き だ け ど さ ぁ ! ! ”
「くぅーん…」
図星だからか何も返す言葉がなく、弱気な声が漏れる。
” こ の 恋 は 、大 切 に 育 て て い き た い ん だ よ … ”
「くぅーん…」
だって私の初恋だもん…。
大好きだからこそ焦らずじっくりと────
「でも、そんなうかうかしとるとひょこっとライバルが現れてあっちゅう間に取られるで?」
らっ、ライバル…
「くぅーん」
またも情けない声が盛れた。
そんな怖いこと言わないでよぉー。
***
そして社会の時間にはまたも私(中身チャルル)がやらかした。
「では、この大陸の名前はなんでしょう」
「はい!」
真っ先に手を挙げたのは私(中身チャルル)だった。
「お、手あげるなんて珍しいな! じゃあ桃瀬!」
「はい!」
あわわわわわわわわわああ!!!
ねぇ、大丈夫!?
チャルル社会なんて絶対分かんないでしょ!?
教室中の視線が私(中身チャルル)に注がれていた。
黒板に書かれた手書きの世界地図。
先生はその右下を指し示していた。
この問題はバカな私でもさすがに分かる。
答えは”南アメリカ大陸”だ。
「では、桃瀬さん。答えて下さい」
「はい! ビーフジャーキー大陸ですわ!」
「……」
あああああああああああああぁぁぁ!
チャルル~~~~~~~~~っ!!
教室中が頭にはてなマークを浮かべて、私(中身チャルル)を見ていた。
「正解やろ!?」
しかし当の本人チャルル(私)は自信いっぱいのご様子。
わあああああ…っ、穴があったら入りたい!
カバンの中には今まさに入ってるけど!
「えーと、ここは南アメリカ大陸です。今は授業中なのでボケるのはやめましょう。じゃあ席座って」
あ、怒られて、またムスッとした。
どうやらチャルルにはあれがいつもおやつであげてるビーフジャーキーの形に見えたみたいだ。
確かに見えなくもないけど…!!
目覚まし時計がやけに大きく聞こえてきて目が覚めた。
ムギュ…、と全身を抱きしめられていて、なんだか暑苦しい。モゾモゾと動いてみる。
「…」
しばらくして理解した。
私、またチャルルになってるーーーーー!!
ホッとしたのもつかの間。
月曜日の朝。
目が覚めたら私はまたチャルルになっていた。
金曜日を最後に土日、入れ替わりはなかったのに……!
昨日はいつもどおり同じベッドで眠りについたんだけど…、どうしてこうなった!?
” チ ャ ル ル ! 起 き て ! ”
「わん! わん!」
私(多分中身チャルル)はまだ熟睡中のようだ。
「わん! わん!」
「んー…っ、寒いー…眠いー…」
なんだかいつもチャルルが私を起こしに来る時の気持ちが分かった気がする。
無理矢理掛け布団を引っ張ると、そこでやっと起きてくれた。
気付けば昨日から11月。
布団から出たくなくなる季節に突入していた。
この土日で急に寒波がやってきて、昨日までの私も朝こうして布団から出るのを嫌がっていた。
でも今は平気。
きっとチャルルの毛があるからだ。
犬って常にこんな暖かいんだなぁ。
「んー、寒いー」
せっかく剥ぎ取ったのにまだ温もりの残る掛け布団にくるまっている私(中身チャルル)。
「ふれあー、早く準備しなさーい」
そんな時。
階下からお母さんの声が。
やばっ…!
てか、今日学校なのにどうしよう!
いつもなら朝ごはんを食べ終わっている時間だ!
” チ ャ ル ル ! と り あ え ず そ こ に か か っ て る 制 服 着 て!”
「わんわん! わんわんわん!」
壁をカリカリしてクローゼットにかかる制服の裾を引っ張る。
今のところ私は無遅刻無欠席。
小学校の時に皆勤賞を逃したことは今でも悔しがっている私。たとえ中身がチャルルであったとしても学校を休むのだけは嫌だった。
「んー…、まだ寝る…」
あー! もう! いつまでゴロゴロしてるんだ!
***
「わー! 目玉焼きだ!」
「半熟にしといたわよ」
「どうもおおきに」
「ふれあったら、またそんな言葉使ってー…」
やっとの思いで起こし、制服に着替えてもらい、リビングに降りるとお母さんがエプロンを椅子にかけて仕事に行くところだった。
「じゃあお母さん行くわね。戸締りよろしく」
「任しとき!」
「チャルルもバイバイ」
「わん!」
それにしてもどうしよう…
お母さんを見送りながら私は頭を抱えた。
” チ ャ ル ル ! 学 校 で は、 本 当 は 犬 と か 言 っ ち ゃ ダ メ だ よ ! ? 分 か っ た ! ? ”
「わん!わんわんわん!? わわんわん!?」
「えー? なんでや?」
” 頭 お か し い 人 だ っ て 思 わ れ る か ら だ よ ! ”
「わんわんわんわんわんわん!」
「しゃあないなぁ。分かったわ。それにしても、これ美味しいなぁー。目玉焼きも格別や。犬だと食べれんもんばっかや」
イチゴジャムがたっぷり塗られた食パンを口いっぱいに頬張りながら私(中身チャルル)がものすごく幸せそうに言う。
それを言われてハッとした。
そっか。犬だと口にしちゃいけないもの多いもんね。
いつも私が当たり前に食べているものは、きっとチャルルにとっては特別なんだ。
” あ ー ! て か チ ャ ル ル ! 足 閉 じ て よ ー ! ”
「わんー!! わんわん! わんー!」
チラッ、と視界に入ってしまった私(中身チャルル)の足。
椅子の上で大股開いて食べていることに気づいた私は思わず叫んだ。というか、吠えた。
一応私、恋するレディーなんだからね!?
「誰も見てないし、かまへんやん」
これ…、絶対学校でもやっちゃうやつだ……。
一気に心配が押し寄せてきて、休ませたい衝動に駆られる。
でも…っ、せっかく今日まで無遅刻無欠席できたのに!
弱気になりそうな心を吹き飛ばし、チャルル(中身私)は鼻息を荒くした。
” 決 め た ! 私 も 学 校 行 く ! ”
「わん! わんわんわん!」
「え? どないしたん。いつもウチのこと連れてってくれへんのに」
”今 日 は 特 別 ! ! ”
「わんわんわん!」
***
” こ こ は 、 右 ”
「わん…っ」
学校までの行き方を知らない私(中身チャルル)にコソッ、と道案内する。
────現在チャルル(中身私)は私(中身チャルル)のスクールバッグの中に入って、学校に向かっている、というなんともヘンテコな状況である。
学校がだんだんと近づいてくると、私(中身チャルル)は感動したように声を漏らした。
「ここがふれあがいつも行っとるガッコーか~、おっきい建物やなぁ~」
それから下駄箱で靴を履き替えることを教えたり。
私の教室まで案内したり、と初学校の私(中身チャルル)に手取り足取り教えた。
もちろん人目には要注意だ。
「おはよー」
「ねぇねぇ、昨日のドラマ見た!?」
「見た見た!」
やっとの思いで到着した教室。
もうホームルームの5分前だった。
チャルル(中身私)が入ったスクールバッグを机の横に掛けた時。背後から穂乃果がやって来た。
「あっ、ふれあ! やっと来た! 今日遅いじゃん! 休みかと思っちゃったよ!」
バッグの隙間から2人の様子をチラッ、と伺う。
そこにはいつも通りの穂乃果がいた。
私(中身チャルル)にはなるべく標準語で、ってお願いしてるけど大丈夫かなぁ。
「あっ! 穂乃果やー! 久しぶりやなぁ!」
……ぜんっぜん大丈夫じゃなかった。
次の瞬間、飛びつくように穂乃果に抱きつく私(中身チャルル)。
穂乃果は今までに何度かうちに遊びに来たことがある。
その時にチャルルとも会っているし、割と懐いていた。
チャルルにとっては久しぶりの再会のはず。
その喜びが全面に出ていた。
「え? 久しぶりって程じゃないじゃなくない? まぁ、土日挟んだし…、2日ぶり? ではあるけど。っていうかふれあ、なんか喋り方おかしくない?」
さすが穂乃果!
いきなり抱きしめられて混乱しつつも、友達の変化にこんなすぐ気付くなんて!
「穂乃果もしばらく見んうちにえらい垢抜けとるやん! 美人やなぁ! どうしたん!!」
「えっ? 美人!? ちょっともー、朝からなんなのー、ふれあー。そんな褒めたってなんも出ないよー?」
一瞬怪しんではいたけど、それから穂乃果は上機嫌になった。
美人、と言われたことがすごく嬉しいみたい。
「あ、ふれあ。土屋来たよ?」
コソッ、と穂乃果が私(中身チャルル)に耳打ちしている。
本来なら聞き取れることのない声だけど今は私が犬であるからこそのこの聴覚で聞き取れているみたい。
「ん? ツチヤ? ツチヤってどなたですの?」
「どなたって…、ふれあの好きな人じゃん! もう何言ってんの~」
「あ! ほんまや!」
教室後方に目をやった私(中身チャルル)。
ちょうど雨音くんが教室に入ってくるところだった。
「なんや!雨音くんの苗字、ツチヤやったんやな!」
「雨音くーん!」
あっ! ちょっと! チャルル!
引き留めようとした時には時すでに遅し。
私(中身チャルル)は、目にも止まらぬ早さで雨音くんの方に駆け寄っていって…そして。
抱きついたのだ───────…
「……!!!」
多分。
今この場にいる生徒全員が目をぱちくりさせた。
あ~~~~~~~~~~~!!!
チャルル~~~~っ!!!!
今は私の体なんだってば…!!
「ちょっ…桃瀬……?」
抱きつかれている雨音くんが困惑と動揺の声を漏らす。そりゃそうだ。
付き合ってもいないクラスメイトの女子から…いきなり……、抱きつかれるだなんて…!!
チャルル(中身私)はバッグの中で頭を抱えた。
結局その後は担任の先生がやってきたからすぐに着席することになったんだけど…、案の定みんな私(中身チャルル)のことチラチラ見てるし、絶対怪しまれてる…!
さっき上機嫌になった穂乃果には『急にアプローチすごいじゃん!』って褒められてたけども!
「じゃあ、今日は席替えをします」
席替え…。
席替えは1ヶ月周期で行われる。
そうか。もうこの席で1ヶ月も経ったのか。
時の流れをしみじみと感じていると、なぜか私(中身チャルル)が手を挙げた。
「はい!」
「なんですか? 桃瀬さん」
元気よく椅子を引いて立ち上がる私(中身チャルル)。何を言い出すのかと思いきや…
「ウチ、雨音くんの隣がいい!」
「…!?」
はっ、、はぁあああ!?!?
雨音くんが驚いたように目を見開いてこちらを振り返る。当然の反応だ。
ちょっともう…! チャルル~~っ!!
こっそりとこちらに目配せしてくる私(中身チャルル)。
いいことやったでしょ! とでも言いたげにウインクしてきた。
ウインクなんて技、一体どこで覚えたの!!
「えーと…、くじ引きで平等に決めてるから……、それは出来ない、かな…」
「えー」
ほっぺをプクっ、とさせる私(中身チャルル)。
「けちんぼー」
不貞腐れたようにそんな文句をこぼした。
わああああああああ…っ、んもう!
「先生にけちんぼ、なんて言っちゃいけません」
そうして朝ホームルームでは担任の先生から説教を食らい…
挙句の果てには、雨音くんと席も離れてしまったし…。
安定の絶望的なくじ運…。
中身が変わってもそれは、変わらないままみたいだ。
” ね ぇ ! ! ど う 考 え て も 私 の 雨 音 く ん へ の 好 き 好 き ア ピ ー ル が ひ ど い よ ! ”
「わんわんわん! わん!わん!」
休み時間。
周りに誰もいないタイミングを見計らって、チャルル(中身私)は私(中身チャルル)に、抗議していた。
みんな一足先に移動授業…、音楽室に行っている。
「別にええやん。実際好きなんやし」
” 好 き だ け ど ! 好 き だ け ど さ ぁ ! ! ”
「くぅーん…」
図星だからか何も返す言葉がなく、弱気な声が漏れる。
” こ の 恋 は 、大 切 に 育 て て い き た い ん だ よ … ”
「くぅーん…」
だって私の初恋だもん…。
大好きだからこそ焦らずじっくりと────
「でも、そんなうかうかしとるとひょこっとライバルが現れてあっちゅう間に取られるで?」
らっ、ライバル…
「くぅーん」
またも情けない声が盛れた。
そんな怖いこと言わないでよぉー。
***
そして社会の時間にはまたも私(中身チャルル)がやらかした。
「では、この大陸の名前はなんでしょう」
「はい!」
真っ先に手を挙げたのは私(中身チャルル)だった。
「お、手あげるなんて珍しいな! じゃあ桃瀬!」
「はい!」
あわわわわわわわわわああ!!!
ねぇ、大丈夫!?
チャルル社会なんて絶対分かんないでしょ!?
教室中の視線が私(中身チャルル)に注がれていた。
黒板に書かれた手書きの世界地図。
先生はその右下を指し示していた。
この問題はバカな私でもさすがに分かる。
答えは”南アメリカ大陸”だ。
「では、桃瀬さん。答えて下さい」
「はい! ビーフジャーキー大陸ですわ!」
「……」
あああああああああああああぁぁぁ!
チャルル~~~~~~~~~っ!!
教室中が頭にはてなマークを浮かべて、私(中身チャルル)を見ていた。
「正解やろ!?」
しかし当の本人チャルル(私)は自信いっぱいのご様子。
わあああああ…っ、穴があったら入りたい!
カバンの中には今まさに入ってるけど!
「えーと、ここは南アメリカ大陸です。今は授業中なのでボケるのはやめましょう。じゃあ席座って」
あ、怒られて、またムスッとした。
どうやらチャルルにはあれがいつもおやつであげてるビーフジャーキーの形に見えたみたいだ。
確かに見えなくもないけど…!!
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