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ギルド
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ギルド
〈禁域大消失〉から1ヶ月。
〈オルタナ〉本部から、デュノの研究室に一枚の文書が届いた。
「まずは、第一級危険指定魔獣、通称『黒龍』の討伐、大義であった。証拠として提出された鱗片が『黒龍』のものと承認されたので、報奨金200万ミラスを与える。
しかし、此度の討伐による森林大消失についてはそれなりの罰則を負ってもらわなければならない。森林再生事業の援助金としてデュノ=ラーグ、シェルティ=グラージュ両名に、800万ミラスの支払いを命じる。
異論反論は一切認めない。」
「だってさ……終わったわね、私達」
文書を読み上げ終わったシェルティが、覇気のない暗い声色で、引き攣った笑みを浮かべている。
「はっ?、800万!?今回の討伐報酬を返済に回しても600万の負債ですよ!何が援助金ですか!実質的な賠償請求じゃないですか!!」
捲し立てるように、文句をあげつらうデュノ。
「この書状に私の名前もあるんだけど、気のせい?気のせいよね!?」
シェルティは、今にも泣きそうな顔で、書状を破り捨てている。
「一旦落ち着きましょうシェリー。僕の余剰資産を売却すれば、足りますかね……?」
「足りるわけないでしょ、大体あなたの余剰資産ってなに!?あの栽培ハウスのことを言ってるのならお話にすらならないわよ!!」
研究資料や参考書が乱雑に置かれた室内にひと時の沈黙が訪れる。テーブルを挟み、向かい合って座っている二人は、テーブルに突っ伏しうなだれている。
沈黙を最初に破ったのは、シェルティだった。
「私が、『黒龍』の残骸を血眼になって探してなければ、800万そのまま請求されてたわよ。しかもあそこから研究室まで、私一人であなたを抱えて来たのよ?」
「すいません、反論の言葉もありません」
「まあ、それはいいわ。やってしまったものは、しょうがないもの。問題は600万の大金をどうやって稼ぐかよね」
「…………」
デュノは悩んでいた。600万の宛がない事は無いとシェルティに伝えるべきかどうか。彼女が小馬鹿にした栽培ハウスには、危険地帯にしか自生しない稀少な薬草が大量に眠っており、その手の研究機関に高額で売り捌けば、完済してもお釣りが来るくらいの資金になるだろう。研究者にとっては喉から手が出るほど欲しい代物も多いに違いない。しかし、その事実をシェルティは知らない。
本来ならこの提案を迷わずすべきなのだが、デュノにとってあの栽培ハウスは半身のようなものであり、亡き父の研究成果でもあった。言わば父の形見である。
それを赤の他人に売ることに、少なからず抵抗があった。よって、デュノの出した結論がこれだ。
「クエストを受けてコツコツ返すしかありませんね。幸い期限が決まっていなので、返済は充分可能です!」
あくまで本当のことは告げない。それが最善。相手の知らない事は無いもの同然だと自分に言い聞かせ、何食わぬ顔で代案を出す。
その言葉に安心したシェルティの表情に光が灯る。
「そうよね!真面目に仕事すればいつか返せるわよね!!」
シェルティは椅子から立ち上がり、壁にかけてあったコートを羽織ると、研究室の扉を開けた。
「ギルドに行くわよ!」
勢いよく開け放たれた扉から眩いばかりの光が差し込み、薄暗い室内を照らした。
椅子に腰掛けてたデュノの手を引き、研究室を出ようとしたシェルティが、不意に振り返る。
「私に隠してることがあるなら、早めに言っておいた方がいいわよ。デュノ?」
微笑みかける彼女の表情は、しかし何故だろう。目が笑ってなかった。
「僕がシェリーに隠し事なんてするわけないじゃないですかー。あはは」
「そう。ならいいわ」
再び扉の方へ向き直ったシェルティは、内心冷や汗をかいているデュノの手をぐいぐい引いて、アストルの街へ繰り出していった。
ーーーーーーーーーーーーー
レンテイ皇国の中心、首都アストル。
数百万の人口を抱えるこの都市は、レンテイ皇国の中で、工業、商業ともに最も栄えた都市だろう。全体を石作りで統一した街並みには、活気のある人々の話し声が溢れている。
そんな街の中央道り、石畳で舗装された街道を歩く人々の中にデュノとシェルティの姿があった。
「シェリー……僕もう歩きたくないです。どこかで休みませんか?」
「何言ってるのよ、まだ10分も歩いてないじゃない!」
血色の悪い顔をしたデュノの腕を、シェルティの小さな可愛らしい手が引っ張っている。
白昼堂々と手を繋ぐ青年と少女の姿を、通行人は微笑ましいものを見るような目で見ていた。背丈の高い青年と童顔で小柄な少女は、傍から見れば仲睦まじい兄妹のように見えるのだろう。そんな二人を烈日が容赦なく照らす。
「暑さで倒れそうなんですけど……帰っていいですか?」
「それくらい我慢しなさい、もう少しでギルドに着くから」
シェルティの言葉どうり、冒険者ギルドは二人の目と鼻の先にあった。
周囲の建造物とは異なった出で立ちの巨大なギルド本館は、アーチ状のゲートがあり、壁や床が白い大理石で出来ている。
ギルドの中に入ると、テーブルを囲み談笑している冒険者パーティーや、依頼書が大量に貼ってある掲示板の前でクエストを吟味している冒険者の姿が伺える。
二人が掲示板の前に行こうとしたとき、クエストカウンターの前で受付嬢と世間話をしていた顎髭の生えた中年の男が話しかけてきた。
「よう、デュノ!元気だったか?」
その男を認識すると、体勢を低くしたシェルティが男めがけて物凄い速さで突進していった。
「えっ?」
一瞬で間合いを詰められた男の呆然とする顔にシェルティの強烈な回し蹴りが炸裂する。
「がはっ!」
勢いよく吹っ飛んだ男は、そのまま大理石の壁に打ち付けられた。
「何するんだ嬢ちゃん!!」
「案外タフね、こいつ始末しましょうデュノ」
今まで談笑していた周りの冒険者も、物音に驚いてこちらに視線を向ける。
「やめましょうシェリー、周りの冒険者さん達に迷惑ですよ」
「すまねえデュノ、助かったわ」
「それはそれとして、あなた随分と杜撰な仕事をしてくれましたね情報屋さん?」
デュノのつくり笑顔から滲み出る怒りが、男の表情を引き攣らせる。
「まあ、言い訳くらいは聞いてあげますよ。僕だって鬼じゃありませんから」
そう言うと、三人で一番端の席に座った。
〈禁域大消失〉から1ヶ月。
〈オルタナ〉本部から、デュノの研究室に一枚の文書が届いた。
「まずは、第一級危険指定魔獣、通称『黒龍』の討伐、大義であった。証拠として提出された鱗片が『黒龍』のものと承認されたので、報奨金200万ミラスを与える。
しかし、此度の討伐による森林大消失についてはそれなりの罰則を負ってもらわなければならない。森林再生事業の援助金としてデュノ=ラーグ、シェルティ=グラージュ両名に、800万ミラスの支払いを命じる。
異論反論は一切認めない。」
「だってさ……終わったわね、私達」
文書を読み上げ終わったシェルティが、覇気のない暗い声色で、引き攣った笑みを浮かべている。
「はっ?、800万!?今回の討伐報酬を返済に回しても600万の負債ですよ!何が援助金ですか!実質的な賠償請求じゃないですか!!」
捲し立てるように、文句をあげつらうデュノ。
「この書状に私の名前もあるんだけど、気のせい?気のせいよね!?」
シェルティは、今にも泣きそうな顔で、書状を破り捨てている。
「一旦落ち着きましょうシェリー。僕の余剰資産を売却すれば、足りますかね……?」
「足りるわけないでしょ、大体あなたの余剰資産ってなに!?あの栽培ハウスのことを言ってるのならお話にすらならないわよ!!」
研究資料や参考書が乱雑に置かれた室内にひと時の沈黙が訪れる。テーブルを挟み、向かい合って座っている二人は、テーブルに突っ伏しうなだれている。
沈黙を最初に破ったのは、シェルティだった。
「私が、『黒龍』の残骸を血眼になって探してなければ、800万そのまま請求されてたわよ。しかもあそこから研究室まで、私一人であなたを抱えて来たのよ?」
「すいません、反論の言葉もありません」
「まあ、それはいいわ。やってしまったものは、しょうがないもの。問題は600万の大金をどうやって稼ぐかよね」
「…………」
デュノは悩んでいた。600万の宛がない事は無いとシェルティに伝えるべきかどうか。彼女が小馬鹿にした栽培ハウスには、危険地帯にしか自生しない稀少な薬草が大量に眠っており、その手の研究機関に高額で売り捌けば、完済してもお釣りが来るくらいの資金になるだろう。研究者にとっては喉から手が出るほど欲しい代物も多いに違いない。しかし、その事実をシェルティは知らない。
本来ならこの提案を迷わずすべきなのだが、デュノにとってあの栽培ハウスは半身のようなものであり、亡き父の研究成果でもあった。言わば父の形見である。
それを赤の他人に売ることに、少なからず抵抗があった。よって、デュノの出した結論がこれだ。
「クエストを受けてコツコツ返すしかありませんね。幸い期限が決まっていなので、返済は充分可能です!」
あくまで本当のことは告げない。それが最善。相手の知らない事は無いもの同然だと自分に言い聞かせ、何食わぬ顔で代案を出す。
その言葉に安心したシェルティの表情に光が灯る。
「そうよね!真面目に仕事すればいつか返せるわよね!!」
シェルティは椅子から立ち上がり、壁にかけてあったコートを羽織ると、研究室の扉を開けた。
「ギルドに行くわよ!」
勢いよく開け放たれた扉から眩いばかりの光が差し込み、薄暗い室内を照らした。
椅子に腰掛けてたデュノの手を引き、研究室を出ようとしたシェルティが、不意に振り返る。
「私に隠してることがあるなら、早めに言っておいた方がいいわよ。デュノ?」
微笑みかける彼女の表情は、しかし何故だろう。目が笑ってなかった。
「僕がシェリーに隠し事なんてするわけないじゃないですかー。あはは」
「そう。ならいいわ」
再び扉の方へ向き直ったシェルティは、内心冷や汗をかいているデュノの手をぐいぐい引いて、アストルの街へ繰り出していった。
ーーーーーーーーーーーーー
レンテイ皇国の中心、首都アストル。
数百万の人口を抱えるこの都市は、レンテイ皇国の中で、工業、商業ともに最も栄えた都市だろう。全体を石作りで統一した街並みには、活気のある人々の話し声が溢れている。
そんな街の中央道り、石畳で舗装された街道を歩く人々の中にデュノとシェルティの姿があった。
「シェリー……僕もう歩きたくないです。どこかで休みませんか?」
「何言ってるのよ、まだ10分も歩いてないじゃない!」
血色の悪い顔をしたデュノの腕を、シェルティの小さな可愛らしい手が引っ張っている。
白昼堂々と手を繋ぐ青年と少女の姿を、通行人は微笑ましいものを見るような目で見ていた。背丈の高い青年と童顔で小柄な少女は、傍から見れば仲睦まじい兄妹のように見えるのだろう。そんな二人を烈日が容赦なく照らす。
「暑さで倒れそうなんですけど……帰っていいですか?」
「それくらい我慢しなさい、もう少しでギルドに着くから」
シェルティの言葉どうり、冒険者ギルドは二人の目と鼻の先にあった。
周囲の建造物とは異なった出で立ちの巨大なギルド本館は、アーチ状のゲートがあり、壁や床が白い大理石で出来ている。
ギルドの中に入ると、テーブルを囲み談笑している冒険者パーティーや、依頼書が大量に貼ってある掲示板の前でクエストを吟味している冒険者の姿が伺える。
二人が掲示板の前に行こうとしたとき、クエストカウンターの前で受付嬢と世間話をしていた顎髭の生えた中年の男が話しかけてきた。
「よう、デュノ!元気だったか?」
その男を認識すると、体勢を低くしたシェルティが男めがけて物凄い速さで突進していった。
「えっ?」
一瞬で間合いを詰められた男の呆然とする顔にシェルティの強烈な回し蹴りが炸裂する。
「がはっ!」
勢いよく吹っ飛んだ男は、そのまま大理石の壁に打ち付けられた。
「何するんだ嬢ちゃん!!」
「案外タフね、こいつ始末しましょうデュノ」
今まで談笑していた周りの冒険者も、物音に驚いてこちらに視線を向ける。
「やめましょうシェリー、周りの冒険者さん達に迷惑ですよ」
「すまねえデュノ、助かったわ」
「それはそれとして、あなた随分と杜撰な仕事をしてくれましたね情報屋さん?」
デュノのつくり笑顔から滲み出る怒りが、男の表情を引き攣らせる。
「まあ、言い訳くらいは聞いてあげますよ。僕だって鬼じゃありませんから」
そう言うと、三人で一番端の席に座った。
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