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魔法の世代
九尾の守り神
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旅人は、長い旅路の果てにようやく小さな村にたどり着いた。村は山の麓にひっそりと広がっており、周囲の自然と調和したどこか落ち着いた雰囲気が漂っている。山は高くないがその風景はどこか神聖で、村の人々にとってはとても大切な場所だと感じられた。
旅人はこれからの旅のため、この村で一晩を過ごすつもりだ。すると道端にいた一人の中年の男性がこちらに気付き声をかけてきた。
「おや旅人さんかい?」
「あ、はい。西の国からいろんな景色を見たくて旅をしています」
「西っていうとリネーリアか、そんな遠いところから良く来たねぇ!この村は辺境だけど、穏やかでいい村だ。良かったらゆっくりしていきなさい」
男は笑顔を浮かべ、旅人に気さくに話しかける。その様子に旅での警戒も解れていった。
「ありがとうございます。あの、宿の場所がどこか知っていますか?」
「宿は歩いて5分ほどだよ。何かの縁だ、案内しよう」
「ツキアカリ」という宿を紹介され、広場での買い出しを終わらせるとあっという間に夜になってしまい、宿で夕飯を食べることにした。
「はい、注文のディナーセットね。こっちはサービスの団子と油揚げ」
「団子と油揚げ?それは…珍しい組み合わせですね」
「ふふ、村の名物だよ。まぁ、食べてみてから話すといいさ」
宿の主人はにっこりと笑い、旅人に促す。半信半疑で団子を口に入れると、もちもちとした食感が心地よく、油揚げの香ばしさもまた絶妙だった。旅人は目を細め、思わず笑顔を見せた。
「おいしい…!こんなにおいしいお団子、初めてです。油揚げも、団子と合うなんて知りませんでした」
「そりゃあ旨いだろう。村の人の手作りさ」
主人は誇らしげに胸を張った。
「なんてったって、神様のお気に入りだからね」
「神様、ですか?」
「そうだよ。来る時に山を見ただろう?あの山の奥に九尾のお狐様を祀る神社があるのさ」
「お狐様…」
主人は窓の先に見える山を指差すが、聞いたことの無い神の名前に旅人は首をかしげる。笑いながら、そりゃあそうだとお狐様について話を続けた。
「お狐様はここの守り神だよ。九尾の神様が山と村を見守ってくれているんだ。魔法がなかった時代からね」
「それは…興味深いですね」
「お狐様は、かなり自由な性格でな、争い事を嫌うんだ。何故か直接的な礼は言わせてもらえないから村の人はただ神社にお供え物をしているんだ。団子や油揚げが好きだから、そういうものを置いておけば神様も喜んでくれる」
「油揚げ…なるほど、だからこれも?」
旅人は思わず笑ってしまった。主人はそれを怒らず、頷き目を輝かせた。
「お狐様は、他の偉大なる神様とは違う形で村の人々と繋がっているんだ」
主人の言葉を聞き、自分が笑ってしまった事を恥じた。知らなかったとはいえ、無意識のうちに人々の思いを軽く馬鹿にしてしまったかもしれない。
「そうだったんですか…すみません、笑ってしまって」
「ははは、油揚げ好きの神様のためにわざわざ皆手作りするなんて、他の人から見れば馬鹿げているだろうよ。しょうがない」
主人や村の人の寛大な心に感謝しつつ、ふと山の方を見てみる。今日は雲も少なく遠くにある山がはっきり見える。見た目は普通の小さな山なのに、神様がすんでいる。それだけで怪しい雰囲気が漂う。しばらく見つめた旅人の口から溢すように本心が出てくる。
「山の奥にある神社…行ってみたいな」
「旅人さんは、神様にたいしてどう思ってるんだ?」
ひりついた空気が流れる。旅人は村民の地雷を踏みかけているらしい。冷や汗を流し、旅人は慎重に言葉を選んだあと口を開く。
「とても…素晴らしき存在だと思います。我々の人智を越えるような…魔法を使えるこの世でも、神より優秀な存在はいないでしょう…」
しばらくの沈黙のあと、ガラッと空気は変わりその場にいた人々は笑い出します。
「いやぁ、すまないね。今やアルケナ様達を崇拝する人は多いが、昔からの神となると舐めてかかる奴が多いんだ。本当、何が違うんだろうと思うけどさ、旅人さんはそんな奴じゃないようで安心したよ」
「は、はぁ…」
疑った礼としてビールを一杯奢って貰った旅人は、神を舐める人やそれに対する村の人々の過剰な反応への疑問をビールと共に流し込んだ。
翌日、旅人は村人から買った団子を片手に参道の階段を上っていた。早朝に宿から少し離れた場所まで素早く来れたのもそれが苦痛ではないのも、旅人として長年動いてきたからだろうか。鳥のさえずりや木々のざわめきを聞きながらお狐様がどのような姿かを想像した。
やがて階段を上がりきると、目の前には幻想的な風景が広がっていた。結界が張られているかのように四角く必要な部分のみ整備された土地に、周りの風景に溶け込むような真新しく見える神社がそびえ立っている。その美しさに息を飲み、賽銭を入れ、持っていた団子を供える。神社自体は古く偉大な神が有名であるため作法を知っている人が多い。うろ覚えながら参拝をすると、神社の中から女性の声が聞こえてきた。
「なんじゃ、願いはないのか?」
見上げると、村の人々が言っていたようなお狐様がそこにいた。黒髪黒目で、九つの尾と狐の耳を生やした神様。そんな神が旅人を興味深そうに見つめている。
「聞こえておるか?願いは何かと言っているのだが」
「…お狐様、ですか」
「それ以外に誰だというのだ」
当然だろうという顔をしながら先程供えた団子を頬張るその気楽さに、旅人は他の神との違いを覚えた。
「神は滅多に人前に現れないと聞いたのですが」
「今の時代は土地神にもなれぬ弱き神など姿を見せなければ廃れるものよ。そもそも現れぬのは下手に手を出して均衡を崩す恐れのため。崩す力がなければ基本自由じゃ」
「そういうものなのですか」
「神も個性的ぞろいだからの。下手に規則を作るとややこい。それで、主の願いは?供え物するくらいなら小さくてもあるのじゃろう?」
「うーん…それじゃあ疲労を楽にしてください」
「お主…仮にも神への願いがそれで良いのか?」
お狐様が旅人に手をかざすと、解放感を感じ体が楽になる。お狐様の手には魔法のような暗い球が浮かんでおり、少し嫌そうな顔をして握り破壊した。
「さて、これで良かろう。ついでに疲労の積もりが減るようにしておいた。些細なものだが」
旅人は何かお礼しようと思ったが、お狐様は団子を貢物としてそれを食らった。これで終いだとでも言うかのように奥へ戻っていくお狐様を見て、旅人は神様の存在を改めて実感した。
その後、旅人は村を去った。村の人々はそれを寂しそうに見送ってくれ、土産も渡された。
心機一転、旅人はその村を誰かに紹介できる程良い村として記録した。
旅人はこれからの旅のため、この村で一晩を過ごすつもりだ。すると道端にいた一人の中年の男性がこちらに気付き声をかけてきた。
「おや旅人さんかい?」
「あ、はい。西の国からいろんな景色を見たくて旅をしています」
「西っていうとリネーリアか、そんな遠いところから良く来たねぇ!この村は辺境だけど、穏やかでいい村だ。良かったらゆっくりしていきなさい」
男は笑顔を浮かべ、旅人に気さくに話しかける。その様子に旅での警戒も解れていった。
「ありがとうございます。あの、宿の場所がどこか知っていますか?」
「宿は歩いて5分ほどだよ。何かの縁だ、案内しよう」
「ツキアカリ」という宿を紹介され、広場での買い出しを終わらせるとあっという間に夜になってしまい、宿で夕飯を食べることにした。
「はい、注文のディナーセットね。こっちはサービスの団子と油揚げ」
「団子と油揚げ?それは…珍しい組み合わせですね」
「ふふ、村の名物だよ。まぁ、食べてみてから話すといいさ」
宿の主人はにっこりと笑い、旅人に促す。半信半疑で団子を口に入れると、もちもちとした食感が心地よく、油揚げの香ばしさもまた絶妙だった。旅人は目を細め、思わず笑顔を見せた。
「おいしい…!こんなにおいしいお団子、初めてです。油揚げも、団子と合うなんて知りませんでした」
「そりゃあ旨いだろう。村の人の手作りさ」
主人は誇らしげに胸を張った。
「なんてったって、神様のお気に入りだからね」
「神様、ですか?」
「そうだよ。来る時に山を見ただろう?あの山の奥に九尾のお狐様を祀る神社があるのさ」
「お狐様…」
主人は窓の先に見える山を指差すが、聞いたことの無い神の名前に旅人は首をかしげる。笑いながら、そりゃあそうだとお狐様について話を続けた。
「お狐様はここの守り神だよ。九尾の神様が山と村を見守ってくれているんだ。魔法がなかった時代からね」
「それは…興味深いですね」
「お狐様は、かなり自由な性格でな、争い事を嫌うんだ。何故か直接的な礼は言わせてもらえないから村の人はただ神社にお供え物をしているんだ。団子や油揚げが好きだから、そういうものを置いておけば神様も喜んでくれる」
「油揚げ…なるほど、だからこれも?」
旅人は思わず笑ってしまった。主人はそれを怒らず、頷き目を輝かせた。
「お狐様は、他の偉大なる神様とは違う形で村の人々と繋がっているんだ」
主人の言葉を聞き、自分が笑ってしまった事を恥じた。知らなかったとはいえ、無意識のうちに人々の思いを軽く馬鹿にしてしまったかもしれない。
「そうだったんですか…すみません、笑ってしまって」
「ははは、油揚げ好きの神様のためにわざわざ皆手作りするなんて、他の人から見れば馬鹿げているだろうよ。しょうがない」
主人や村の人の寛大な心に感謝しつつ、ふと山の方を見てみる。今日は雲も少なく遠くにある山がはっきり見える。見た目は普通の小さな山なのに、神様がすんでいる。それだけで怪しい雰囲気が漂う。しばらく見つめた旅人の口から溢すように本心が出てくる。
「山の奥にある神社…行ってみたいな」
「旅人さんは、神様にたいしてどう思ってるんだ?」
ひりついた空気が流れる。旅人は村民の地雷を踏みかけているらしい。冷や汗を流し、旅人は慎重に言葉を選んだあと口を開く。
「とても…素晴らしき存在だと思います。我々の人智を越えるような…魔法を使えるこの世でも、神より優秀な存在はいないでしょう…」
しばらくの沈黙のあと、ガラッと空気は変わりその場にいた人々は笑い出します。
「いやぁ、すまないね。今やアルケナ様達を崇拝する人は多いが、昔からの神となると舐めてかかる奴が多いんだ。本当、何が違うんだろうと思うけどさ、旅人さんはそんな奴じゃないようで安心したよ」
「は、はぁ…」
疑った礼としてビールを一杯奢って貰った旅人は、神を舐める人やそれに対する村の人々の過剰な反応への疑問をビールと共に流し込んだ。
翌日、旅人は村人から買った団子を片手に参道の階段を上っていた。早朝に宿から少し離れた場所まで素早く来れたのもそれが苦痛ではないのも、旅人として長年動いてきたからだろうか。鳥のさえずりや木々のざわめきを聞きながらお狐様がどのような姿かを想像した。
やがて階段を上がりきると、目の前には幻想的な風景が広がっていた。結界が張られているかのように四角く必要な部分のみ整備された土地に、周りの風景に溶け込むような真新しく見える神社がそびえ立っている。その美しさに息を飲み、賽銭を入れ、持っていた団子を供える。神社自体は古く偉大な神が有名であるため作法を知っている人が多い。うろ覚えながら参拝をすると、神社の中から女性の声が聞こえてきた。
「なんじゃ、願いはないのか?」
見上げると、村の人々が言っていたようなお狐様がそこにいた。黒髪黒目で、九つの尾と狐の耳を生やした神様。そんな神が旅人を興味深そうに見つめている。
「聞こえておるか?願いは何かと言っているのだが」
「…お狐様、ですか」
「それ以外に誰だというのだ」
当然だろうという顔をしながら先程供えた団子を頬張るその気楽さに、旅人は他の神との違いを覚えた。
「神は滅多に人前に現れないと聞いたのですが」
「今の時代は土地神にもなれぬ弱き神など姿を見せなければ廃れるものよ。そもそも現れぬのは下手に手を出して均衡を崩す恐れのため。崩す力がなければ基本自由じゃ」
「そういうものなのですか」
「神も個性的ぞろいだからの。下手に規則を作るとややこい。それで、主の願いは?供え物するくらいなら小さくてもあるのじゃろう?」
「うーん…それじゃあ疲労を楽にしてください」
「お主…仮にも神への願いがそれで良いのか?」
お狐様が旅人に手をかざすと、解放感を感じ体が楽になる。お狐様の手には魔法のような暗い球が浮かんでおり、少し嫌そうな顔をして握り破壊した。
「さて、これで良かろう。ついでに疲労の積もりが減るようにしておいた。些細なものだが」
旅人は何かお礼しようと思ったが、お狐様は団子を貢物としてそれを食らった。これで終いだとでも言うかのように奥へ戻っていくお狐様を見て、旅人は神様の存在を改めて実感した。
その後、旅人は村を去った。村の人々はそれを寂しそうに見送ってくれ、土産も渡された。
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