眺めのよい城。

おんきゅう

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手を繋いだ夏

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大学に入学して初めての夏休み、今日は優希さんを連れて神社に行く約束の日だ。

優希さんが白銀山に登るのは小学生の課外授業以来だと言う。普段インドアな優希さんがこの炎天下の中、山に登れるのかちょっと心配だけど、せっかく優希さんが誘ってくれたんだからちゃんとエスコートしなきゃな。

約束の時間に店に行くと優希さんがいた。普段通り女の子らしいカワイイ服装なのだが、30分とはいえ山に登る格好ではない。ヒールを履いていたので、さすがにスニーカーに履き替えてもらった。

「誘ったの私だけど、暑くて虫がいっぱいいて最悪、まだ着かないの?」

麓から歩いて5分でもう不満が噴出している。1人ならこの倍のスピードで登ってしまうが、さすがに優希さんがいるとそうもいかない。ペースを合わせて優希さんの前をゆっくりと登って行く。これだと1時間弱はかかるかな…。

優希さんは日傘をさしていた。両手を塞いで危ないと言ったのだが聞いてもらえなかった。優希さんはずっと文句を言い続けながら登る、まったくエスコートする身にもなって欲しいものだ。

「キャっ」

突然、優希さんの悲鳴が聞こえた。浮石を踏んでバランスを崩したのだが、僕は咄嗟に手を差し伸べて何とか転ばずに済んだ。僕の手は優希さんの手をグッと握りしめていた。

「あ…ありがとう」

「大丈夫ですか?」

「う…うん、何ともないよ」

「良かったぁ、ビックリしましたね」

「あのさ…もう大丈夫だから…その…手を離してくれてもいいよ」

「え?ああ!すいません」

汗ばんだ僕の手が気持ち悪かったかな?優希さんは日傘で顔を隠して表情は分からないが、不快だったよな…。

「えっと気持ち悪かったですよね、ごめんなさい」

「別にそんな事ないよ、助けてくれてありがとう…」

その後は二人終始無言で登った。だいたい50分かけて城跡に着き、展望台にいく。日差しは強いけど、山の上は風通しが良く快適だ。景色も夏場にしては良い方で、優希さんもちょっと嬉しそう。

「あの辺がウチだよね?」

「そうですね、こう見るとけっこう登りましたね」

「はぁ、疲れたぁ」

展望台の下にある木陰のベンチでちょっと休憩、持って来た水分はあっという間に飲み干してしまった。まぁここは一応観光地なので自販機があるから心配はないけど。

一息ついたので、早速神社に向かう。すると珠子さんが神社の入り口で、見知らぬ男女と話をしていた。そういえば最近動画を見て神社に来てくれる人が増えたって珠子さんが言ってた、きっとあの人達も動画の視聴者さんかな?

話が終わり、珠子さんがこちらに来てくれた。

「おっす!ユウちゃん!それに優希ちゃん!ようこそ、白銀山神社へ」

「こんにちは!」

「こんにちは」

「お!優希ちゃん相変わらずカワイイねぇ、その服すごく似合ってる、いいなぁ~私もこんなカワイイ娘に産まれたかった」

「え…でも珠子さんもキレイですし、羨ましいですよ」

「そお?優希ちゃん見る目があるねぇ~」

「ちょっと珠子さん、いきなり飛ばしすぎですよ!優希さん引いてるじゃないですか」

すると珠子さんと話たそうに待っている老夫婦の方がいたので、珠子さんはちょっと待っててと目で合図して向かう。

「人気者なんだね、珠子さん」

「そうですね、最近は動画で顔を出してますから、ますますファンが増えたみたいですよ」

「…すごい、アイドルみたい」

「チャンネル登録者も5000人超えたみたいで、もう我が町の有名人ですよ」

「そうだ、猫ちゃん達はいるのかな?」

珠子さんはファンと話したり、物販の販売で忙しそうなので僕たちは社の裏のベンチへ、すると社の日陰で猫達はゴロゴロしていた。ベンチに座ってその様子を見ていると、2匹が僕たちに気づき近くに来てくれた。優希さんは慣れた手つきで猫達を撫でてあげる、昔猫を飼っていたんだとか。

「ふふふ、よく人に懐いててカワイイね」

「そうなんですよ、2匹とも人見知りしないから、すぐに仲良くなれちゃうんですよ」

猫達は優希さんに夢中で、僕には全く寄ってこない。ちょっと嫉妬しちゃうけど、猫を愛でる優希さんの表情が、いつもの不機嫌な表情からは想像がつかないくらい穏やかで、とても良い表情だ。

「いやぁ~待たせて悪かったね!動画を始めてからなんか忙しくなっちゃってさ」

珠子さんがイソイソとやってきた。

「すごい効果ですね、ビックリしました」

「あの、動画を見てお店に来たって言ってくれる人もいまして、本当にありがとうございます」

「あー!喫茶オオタの動画も好評だったからね、良かった!私も嬉しいよ」

「今度はお客さんとしてお店に来てください、サービスしますので」

「おっ!楽しみ、カワイイ優希ちゃんとユウちゃんを肴に、美味しいコーヒーでも飲みにいくね」

「肴って飲み屋じゃないんですからぁ」

すると遠くの方から珠子さんを呼ぶ声が、きっとお母さんだろう。またファンの方が来たのかな?こりゃ本格的にすごい事になってきた。珠子さんは申し訳なさそうに社務所の方へ戻っていく。

「もう少し猫達と遊んだら帰りましょうか」

「そうだね…あっ、お参りしてお守り買っていかなきゃ、私も珠子さんのファンになっちゃったし」

「あはは、それは良かった」

それからお守りを買って、珠子さんと少し話してから帰路につく。途中夕日がキレイだったので、しばし立ち止まって眺めていた。夕日に照らされる優希さんもまた魅力的で、僕はつい見惚れてしまった。

「キレイだね」

「え?ああ!夕日がですよね」

「は?他に何があるの?」

「あはは、うんうん夕日キレイだ!」

「何それ?へんなの、ふふふ」

遠くでひぐらしの鳴き声が聞こえる、そろそろ夏も終わりを迎える。










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