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理不尽な要求.26

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 加奈子は、先日克己に誘われたドライブの日を迎えていた。

 夏希に選んでもらった服を身につけてはみるものの、とても落ち着いてはいられない。

 髪形やメイクを何度もチェックしてみるが、余り気合が入りすぎても恥ずかしいけれど、いつもとはチョット違った雰囲気にして克己との関係を前進させたいという願望もある。

 そんなことをしているうちに予定の時間になっていた。

「克己さんがいらしたわよ~。」

 1階から美和子のウキウキした声がする。

 もしかすると加奈子よりも興奮しているかと思うほど、美和子も舞い上がっている。

 そんな母の姿を見て美和子は逆に冷静さを取り戻すことができた。

「じゃあ、行ってきます。」

 母に見送られて玄関のドアを開けると、克己の愛車であるポルシェのカブリオレが横づけされている。

 克己は紳士らしく助手席のドアを開けてくれた。

「行先は僕が決めていい?」

「は、はい。」

 すっかりかしこまった加奈子に、いつも通りにしてよと克己は言った。

「そ、そんなの無理…。」

 加奈子はすっかり一人の恋する女の子になってしまっている。

「僕はいつもの加奈子ちゃんとドライブしたいんだけどな?無理?」

 克己にそう言われると、変に硬くなってせっかくのドライブが楽しめないなんてもったいない。

「や、やってみます。」

 加奈子が鼻息あらく答えると、克己は愉快そうに笑った。

「その調子!今日はね、僕の知り合いがやってる海辺のレストランまで行こうと思ってるんだ。彼の腕は確かだし、新鮮な魚介類が手に入るからね、きっと気に入ると思うよ。」

 克己は常連である加奈子の食の好みもほぼ把握している。

 加奈子が肉料理よりも魚介好きなのももちろん知っていて、今日のプランにしてくれたのだろう。

 そんな克己の心遣いに、加奈子はまたしても惚れてしまうのだった。

「克己さんドライブよく行くんですか?」

 加奈子はそれとなく探りを入れてみる。

「ああ、若い頃は夜な夜な走りに出てたけど、今は休みの日の気分転換程度だよ。」

 などと軽くかわされてしまう。

「加奈子ちゃんは休みの日は何してるの?」

「わ、私ですか。」

 これと言って自慢できるような趣味もないし、気が付けば家業の喫茶店の雑用で休みがつぶれることも多い。

「これと言って何もしてないです。」

「若い子が勿体ないな~。」

 お店では喫茶店のお客さんが持ってくる溢れんばかりの情報をネタにオバちゃんトークを繰り広げている加奈子だが、何だか今日はそういう話をする気にはなれなかった。

 一体何を話そうかと頭の中で話題になりそうなものを一生懸命探してみるのだが、生活範囲が狭いだけに、そんなものが見つかるはずがない。

「私、こうやって考えると、何か家の事やってるだけですね。」

「親孝行ないい娘じゃない?」

「でも、親は早くお嫁に行って欲しいみたいで。」

 口に出してしまった後で、加奈子はとんでもないことを言ってしまったことに気づく。

 好きな相手にそんな事を言うおバカがどこにいるのだろう。

 相手を困らせるだけなのに。加奈子は赤くなったり青くなったりと顔色を目まぐるしく変えながら、自分の愚かさを後悔していた。

「へえ、それで加奈子ちゃんも早くお嫁に行きたいの?」

 おっと、これは天然ボケか?それともまさか加奈子の気持ちに全く気付いていない?このドライブもただのお馴染みさんに対するサービス?

「そ、そりゃ私も普通にお嫁には行きたいですよ。」

 加奈子は克己に直接思いを伝えてはいなけれど、これまでけっこうあからさまに好きだというアピールはしてきたつもりだ。

 それが克己には全く届いていなかったのだろうか。

 だとしたら、このドライブはデートではなくなる。
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