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理不尽な要求.22

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 ジムに着いたのはもう夕方近くだった。

 久しぶりだったが、町で一番大きなそのジムは活気に溢れていた。

 夏希はいつものようにエアロバイクからはじめようとそちらに向かって歩いていた。

「よう、夏希。奇遇だな」

「幸助!あんたこんなとこで何やってんのよ。」

 よりにもよって非常に面倒くさい人物に出くわしてしまった。

「何って、ジムに来てやることなんて決まってるだろ。おかしなこと聞くやつだな。」

 夏希の尋ねている意味が分かっていないらしい。

「そうじゃなくて、まだお店やってる時間でしょ。」

「ああ、そういうことね。実はさ、職人さんの一人がインフルエンザになっちゃってさ。まあ、食べ物扱ってるていう商売柄安全第一ってことで、1週間店を閉めようってことになったんだ。」

「そ、そうだったんだ。大変だったね。」

 油を売りに来ているとばかり思っていた夏希は、心の中でゴメンとあやまった。

「まあ、そんな事もあって、ちょっと体を鍛えておこうかなと思って久しぶりにジムに来たって訳。そういう夏希はよく来てるのか?」

 夏希は自分がジムに来た理由が不純すぎて、とても本当の事など言うことはできない。

「う~ん。私も久しぶりかな。連休だったから時間あるし体動かそうかなって。」

 などと、当たり障りのない適当な理由を言わなければならないのが情けない。

「夏希もエアロバイクからだろ、行こうぜ。」

 なぜか一緒に行動することになってしまった。

 成り行き上隣同士になる。コースのセットを済ませ漕ぎ始める。


「それにしても、最初はどうなるかと思ってたけど、祭り楽しみだな。」

 幸助は余裕があるのか、平気で話しかけてくる。

 夏希は久しぶりの運動らしい運動に、早くも息切れがしているというのに。

「ほ、ほんとね。」

「この間の改良点が修正されたら、もうほぼ完成だろう?いよいよだと思うとワクワクして寝られなくなりそうだよ。」

「そ、そうね。」

 夏希は、もう話しかけるのはやめて欲しいと思うのだが、早くもバテているのがバレるは恥ずかしい。

「商品が完成したら、それを載せたチラシやポスターを作らないといけないし、商店街のホームページにも載せないとなー。忙しくなるぞー。」

 祭りが盛り上がるのが嬉しいのは分かるが、お店もやりながら、そんなに忙しくなるのが嬉しいなんて、幸助はSッ気があるのだろうか?自分なんて雅史とのことでちょっと気になることがあるだけで仕事に影響が出て困っているというのに。

 夏希から見れば、祭りの事で浮かれている様に見える幸助も、内心では偶然夏希に会えたことで浮かれているのがバレないように、祭りの話にすり替えているだけなのだ。

 何しろ、この間の失態以来、幸助は自分の気持ちを口にしてもいないし態度にも表さないようにしている。

 しかし、今日のように不意打ちで夏希に出会ってしまっては、心の準備が出来ていないせいで、この間の二の舞になってしまう可能性がある。

 今度失敗したら、もう二度とちゃんとした告白は出来ないだろうと、鈍感な幸助でも分かっているつもりだ。

 それにしても成り行きで一緒にエアロバイクをやり始めたのはいいが、運動するためにセミロングの髪を後ろでまとめている夏希は薄っすらと汗をかき、後れ毛が首筋にまとわりついている。

 おまけに、体にぴったりフィットしたウエアのせいで形の良いバストやヒップの形も露わになっている。

 普段、普通に会うだけでも幸助だけが勝手にドキドキしているのに、夏希のそんな女性の部分を間近で見てしまっては、平常心でいるのがかなり難しくなってくる。

 一緒にやろうなんて言わなければよかった…。

 こんな時は、後先考えずに行動してしまう自分の性格に悩まされる。
 
 その上、夏希は久しぶりの運動だと言っていたとおり、早くも息遣いが荒くなっている。

 幸助にはそれが勝手にいやらしい妄想に繋がって、下半身がどうにもマズイことになってくる。

「お、俺ちょっと喉乾いたな。水飲んでくるわ。」

 そう言うと幸助は自販機のある場所へ急いだ。

(あぶねー、めちゃくちゃ恥しいことになるところだった。)

 そこで少し時間を潰して戻ると、夏希はもう他のマシンに移動していた。

 幸助はホッと胸を撫で下ろすともう一度バイクにまたがった。

 幸助ほど筋トレのメニューも多くない夏希は、早々に予定のメニューを終えると帰って行った。

 貴重な夏希の姿をいつまでも眺めていたい気持ちはめちゃくちゃあるのだが、そんな事をしていたら、またマズイことになることは分かっていて…。

 幸助は複雑な思いで夏希を見送った。

(やっぱ夏希綺麗だよな~。スタイルもめちゃくちゃいいし…。夏希と一回でもいいから一晩を共にできたら…。)

 幸助はワーッと叫びたくなる気持ちを無理やりねじ伏せて、普段より重いバーベルに変えると行き場のない思いをベンチプレスにぶつけた。
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