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理不尽な要求.10
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帰る道すがら、夏希は今日の雅史の態度をふり返っていた。
いつもは夏希の方ばかりが感情を振り回され、雅史はいたって普通通りで、夏希はそんな状態を理不尽に感じていた。
しかし、今日に限っては、雅史の態度が明らかにいつもと違っているように感じられた。
夏希は、雅史の気持ちがほんの少しでも自分に向けてもらえるのなら、かなり変わったタイプの雅史の愛人という役割もくじけずにやれそうな気がする。
常識的に考えて、愛人にしたいと思う女性は、その男性にとって他の女性よりも好みのタイプのはずで、そんな女性を目の前にして(しかも常に裸で)、一度も手を触れないなんて、不可解にもほどがある。
その上、最近では夏希のほうが勝手にいろんな妄想をして翻弄されるばかりで、恥ずかしめの上塗りの様で、全くやりきれない。
そんな事を考えていたら、あっという間に家のそばの駐車場に着いてしまった。
お店に寄ってから帰ろうと思っていたのに、無意識に運転していたら、勝手に家の方に向かってしまっていたようだ。
気分転換をしてから家に帰りたかったのだが仕方ない。夏希は車から降りると家に向かって歩き始めた。
「おーい、夏希ー。」
聞き覚えのある声とともに、パタパタと掛けてくる足音がする。案の定声の主は幸助だった。
まるで監視カメラで見ているのかと思う位に、絶妙なタイミングで幸助はやってくる。
「なんだ、また幸助か。」
「うわっ、ひっでーな。久しぶりに会ったのに、そんな嫌そうな目で俺を見るなよ。」
「だって、幸助がいい話持ってくることなんてないんだもん。」
「俺そんな風に思われてんの?」
「自分の胸に手を当てて聞いてください。」
夏希は家に向かってさらに歩く速度を早めた。
「ちょ、ちょっと、待ってよ。真面目な話なんだから聞いてくれよ。」
めずらしく必死に食い下がる幸助に、本当にちゃんとした用があるのならと、夏希は歩調を弱めた。
「あのさ、今年の商店街の秋祭りの話なんだけどさ、俺がまとめ役やるんだけど、ほかの役員はほとんどが年配の人ばっかりでさ、出来たらでいいんだけど、夏希に手伝ってもらえないかなって。」
幸助は夏希の表情を伺うようにじっと見つめてきた。
「手伝うって言っても、どういうことすればいいの?」
「うんとさ、実際に動く訳じゃなくて、秋祭りの内容を決める作業を手伝ってもらいたいんだ。夏希はショッピングモールのショップ店長やってるし、そういうアイディアとか出すの得意じゃないかと思ってさ。年配の人たちって、盛り上げたいって気持ちはあるんだけど斬新なアイディアが出せるかっていうと、やっぱり難しいんだよね。俺も一人で考えてると行き詰っちゃって…。」
「そうなんだ…。」
本当に真面目な話だったので、そんなに簡単に答えるわけにはいかず、夏希はどうしようかと困ってしまった。
「まあ、夏希は忙しいだろうから、どうせ無理だろうと思ってるんだけど、ダメ元で聞いてみました。」
幸助はちょっとふざけた様子で笑っている。
「う~ん。その作業っていつ頃までの予定なの?」
「最初の集会があるのが9月22日の予定だ。今日が9月1日ってことは、3週間でざっくりとした案を出さないといけない。その後は、案が通るかどうかで変わってくるから、今の時点ではまだ詳しいことは分からないな。」
「3週間後か…。」
夏希は雅史の言葉を思い出していた。『来週から2週間出張だから、3週間後になるか。ちょっと会えなくなるな…。』
次に雅史と会うのは3週間後だ。それまでは、ショップの仕事だけになる。
精神的にも時間的にも愛人の仕事があるときよりは余裕があるだろう。
それに、さっきの雅史の言葉を聞いてから、何故だか分からないけど、雅史と会えないことが少しだけ寂しいように感じている自分がいて…。
そんなことは認めたくないのに、勝手にそんな気持ちが湧いてきてしまうのだ。
そんな不可解な気持ちを紛らわすには、忙しくしているのが一番いいのかもしれない。
「やってみようかな。」
夏希は幸助に言った。
「え、ほんとに?いいのか?無理しなくていいんだぞ。」
「ううん。お店の方は軌道に乗ってきたし、スタッフの子たちも頼りになるから。」
「そうか。まあ、昼間に全員で集まるのは3回くらいで、あとはほとんど店閉めた後、俺と二人で作業することになると思うから、極力夏希の仕事の邪魔にはならないように進めようと思う。」
「そ、そんなに気を使わなくてもいいよ。3週間のことでしょ。そんなことより、いいアイディアを出すことの方が重要じゃん。」
すっかりやる気になってきた夏希に、幸助の表情は輝いた。
「やっぱり、夏希は頼りになる。」
「ちょっと、まだ、何も決めてないんだから。気が早いよ。」
夏希はお調子者の幸助の罠にまんまとはまってしまった事をちょっぴり後悔しながらも、雅史に会えない間の暇つぶしには丁度よかったんだと、自分を納得させたのだった。
いつもは夏希の方ばかりが感情を振り回され、雅史はいたって普通通りで、夏希はそんな状態を理不尽に感じていた。
しかし、今日に限っては、雅史の態度が明らかにいつもと違っているように感じられた。
夏希は、雅史の気持ちがほんの少しでも自分に向けてもらえるのなら、かなり変わったタイプの雅史の愛人という役割もくじけずにやれそうな気がする。
常識的に考えて、愛人にしたいと思う女性は、その男性にとって他の女性よりも好みのタイプのはずで、そんな女性を目の前にして(しかも常に裸で)、一度も手を触れないなんて、不可解にもほどがある。
その上、最近では夏希のほうが勝手にいろんな妄想をして翻弄されるばかりで、恥ずかしめの上塗りの様で、全くやりきれない。
そんな事を考えていたら、あっという間に家のそばの駐車場に着いてしまった。
お店に寄ってから帰ろうと思っていたのに、無意識に運転していたら、勝手に家の方に向かってしまっていたようだ。
気分転換をしてから家に帰りたかったのだが仕方ない。夏希は車から降りると家に向かって歩き始めた。
「おーい、夏希ー。」
聞き覚えのある声とともに、パタパタと掛けてくる足音がする。案の定声の主は幸助だった。
まるで監視カメラで見ているのかと思う位に、絶妙なタイミングで幸助はやってくる。
「なんだ、また幸助か。」
「うわっ、ひっでーな。久しぶりに会ったのに、そんな嫌そうな目で俺を見るなよ。」
「だって、幸助がいい話持ってくることなんてないんだもん。」
「俺そんな風に思われてんの?」
「自分の胸に手を当てて聞いてください。」
夏希は家に向かってさらに歩く速度を早めた。
「ちょ、ちょっと、待ってよ。真面目な話なんだから聞いてくれよ。」
めずらしく必死に食い下がる幸助に、本当にちゃんとした用があるのならと、夏希は歩調を弱めた。
「あのさ、今年の商店街の秋祭りの話なんだけどさ、俺がまとめ役やるんだけど、ほかの役員はほとんどが年配の人ばっかりでさ、出来たらでいいんだけど、夏希に手伝ってもらえないかなって。」
幸助は夏希の表情を伺うようにじっと見つめてきた。
「手伝うって言っても、どういうことすればいいの?」
「うんとさ、実際に動く訳じゃなくて、秋祭りの内容を決める作業を手伝ってもらいたいんだ。夏希はショッピングモールのショップ店長やってるし、そういうアイディアとか出すの得意じゃないかと思ってさ。年配の人たちって、盛り上げたいって気持ちはあるんだけど斬新なアイディアが出せるかっていうと、やっぱり難しいんだよね。俺も一人で考えてると行き詰っちゃって…。」
「そうなんだ…。」
本当に真面目な話だったので、そんなに簡単に答えるわけにはいかず、夏希はどうしようかと困ってしまった。
「まあ、夏希は忙しいだろうから、どうせ無理だろうと思ってるんだけど、ダメ元で聞いてみました。」
幸助はちょっとふざけた様子で笑っている。
「う~ん。その作業っていつ頃までの予定なの?」
「最初の集会があるのが9月22日の予定だ。今日が9月1日ってことは、3週間でざっくりとした案を出さないといけない。その後は、案が通るかどうかで変わってくるから、今の時点ではまだ詳しいことは分からないな。」
「3週間後か…。」
夏希は雅史の言葉を思い出していた。『来週から2週間出張だから、3週間後になるか。ちょっと会えなくなるな…。』
次に雅史と会うのは3週間後だ。それまでは、ショップの仕事だけになる。
精神的にも時間的にも愛人の仕事があるときよりは余裕があるだろう。
それに、さっきの雅史の言葉を聞いてから、何故だか分からないけど、雅史と会えないことが少しだけ寂しいように感じている自分がいて…。
そんなことは認めたくないのに、勝手にそんな気持ちが湧いてきてしまうのだ。
そんな不可解な気持ちを紛らわすには、忙しくしているのが一番いいのかもしれない。
「やってみようかな。」
夏希は幸助に言った。
「え、ほんとに?いいのか?無理しなくていいんだぞ。」
「ううん。お店の方は軌道に乗ってきたし、スタッフの子たちも頼りになるから。」
「そうか。まあ、昼間に全員で集まるのは3回くらいで、あとはほとんど店閉めた後、俺と二人で作業することになると思うから、極力夏希の仕事の邪魔にはならないように進めようと思う。」
「そ、そんなに気を使わなくてもいいよ。3週間のことでしょ。そんなことより、いいアイディアを出すことの方が重要じゃん。」
すっかりやる気になってきた夏希に、幸助の表情は輝いた。
「やっぱり、夏希は頼りになる。」
「ちょっと、まだ、何も決めてないんだから。気が早いよ。」
夏希はお調子者の幸助の罠にまんまとはまってしまった事をちょっぴり後悔しながらも、雅史に会えない間の暇つぶしには丁度よかったんだと、自分を納得させたのだった。
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