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誰かイケメン達を止めてくれませんか!!.33

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 昨日のショックが翌日まで尾を引いている。

 みゆうは授業中も昨日の出来事がフラッシュバックして、ほとんど授業に集中できない。

 さすがに、イケメン達がラストスパートをかけてきているだけのことはある。

 今までも相当のインパクトはあったが、最近の影響力といったら想像を超えてくるものばかりだ。

 ああ、ジンくん…。

 今でもジンくんがすぐそばにいるみたい…。

 みゆうは彼らのことを少しでも思い浮かべると、体が熱くなってしまうのだった。

 もう、本当にイケメンって…、困る。



「月影、今日放課後図書委員の当番だぞ~」

 休み時間になると、伊吹がわざわざやって来た。

 昨日のこともあって、みゆうの様子を伺いにきたのだろう。

「分かってるよ。ちゃんと行くから大丈夫」

「あ、ああ、じゃあ放課後にな」

 伊吹は、怖気づいて自分から帰ってしまったうえに、家に帰ってしばらくすると、ジンがやってきた。

 ジンは伊吹にみゆうのことはあきらめるように忠告すると、すんなり帰っていったが、そのスマートな振る舞いが返って伊吹の自信を挫けさせた。

「昨日、ゴメン。その、先に帰っちゃって。あ、あと、俺のところにイザナミジンが来たよ」

「帰っちゃったのは気にしてないよ。そんな急にはやっぱ無理だと思うし。ただ、やっぱ、ジンくん来たんだね…。」

 本気のイケメンパワーを浴びるのは正直キツイ。

 みゆうは自分がいつまで彼らの誘惑に耐えられるのか、だんだん自信がなくなってきていた。

 焦っても伊吹には迷惑になると分かっている。

 自分が耐えるしかないのだ。



「きょ、今日こそは、昨日より少しでも進めようと思ってるから…」

 伊吹の必死な表情が痛々しい。

「い、いいよ、無理しないでやっていこう。元はと言えば、ぜんぶ私のせいなんだから、伊吹が無理することなんてないよ」

 みゆうは伊吹には本当に申し訳ないと思っている。

「だ、だけど、よく分からないな…。日記のとおりに進んでいくはずなんだよね、今までの話だと。なのに、なんで急に進まなくなったのかな?」

 それは、みゆうも疑問に感じているところだ。

「あ、もしかして、日記を読んじゃったからかな!」

「えっ!」

 そうだ、今までみゆうは日記のことなどすっかり忘れていた。

 そして、日記を読むまでは書いてあるとおりに、ストーリーが進んでいたのだ。

「その可能性あるね。だけど、もう読んじゃったし…、今更どうしようもないよね」

「まあ、そうだね…」

「とりあえず、できるだけ日記のとおりに行動しよう。じゃないと、何が起こるか分からないんだもん」
 
 日記の魔力?とでも言ったらいいのだろうか、そのせいでこの奇想天外な出来事が起きている訳だ。

 日記の通りにならないことで、未来がどうなってしまうのか見当もつかない。

 二人は図書委員の仕事を終えると、今日も一緒にみゆうのおばあちゃんの家に向かった。

 今日こそは、キ、キスまで、なんとか進めたい。

 伊吹はみゆうに何と言われようと、ひとり勝手に焦って目標を決めていた。
 
 そうでもしなければ、こんな無理やり作った設定で二人の関係が進展するとは思えない。

「今日も昨日の部屋でいいよね?」

 みゆうに尋ねられ、「あ、ああ、もちろん」と伊吹は慌てて答えた。

「伊吹、本当に焦らなくていいから」

 みゆうはそう言ってくれるけど、僕だって男だ。

 決める時は決め…。

「伊吹…」

「っ!!!」

 伊吹の思考は遮られた。

 今、何が起こったんだ?

 伊吹は、自分の唇を押さえた。

 伊吹の唇にはみゆうの柔らかい唇の感触が生々しく残っている。

 みゆうが、キ、キス、した…?

 目の前には、顔を赤らめたみゆうがうつむいて立っている。

「え、ど、どうして…?」

「だって、伊吹、すごく困ってるみたいだったから…。その、私、こう言ったら何だけど、イケメン達から毎日のように色々とされて…、ちょっと麻痺してるっていうか…。だから、私の方からしちゃった方が早いかなって」

 キスは確かに嬉しい。

「みゆう、君の気持ちはうれしい。でも、僕は君のことが本気で好きなんだ。だから、こんな風にまるでゲームのイベントをクリアするように、こういうことを進められるのはやっぱりショックだよ」

 伊吹に正直に言われ、みゆうはハッとした。

「ご、ゴメンなさい。私、これ以上伊吹に迷惑かけちゃいけないって、それしか考えてなくて…。息吹の気持ち考えてなかった」

 二人の間に気まずい空気が流れる。

「ゴメン、やっぱり今日も帰るよ。明日もちゃんと来るから」

 伊吹はそう言うと、寂しそうに帰っていった。

 伊吹、ゴメン…。

 余計に苦しめるようなことしちゃった。

 みゆうは自分の軽率な行動をひどく反省した。



 みゆうが自分に好意を持っていないことは理解していたけれど、それがこういう形で思い知らされるというのは想像以上にショックだった。

 好きだから、本当は一緒にいられるだけで嬉しいはずなのに、いつの間にかそれ以上を望んでいる自分がいたのだ。

 勘違いしちゃダメだ。

 僕はみゆうの彼氏じゃない。

 そうだ、ただ同じ学校の図書委員っていうだけの関係だ。

 強いて言うならば、彼女が今困っている事態を解決するのに僕が必要なだけだ。

 僕はゲームで言えばただのアイテムなんだ。

 だから、彼女の都合のいいように利用されるためだけに存在するべきだ。

 伊吹、間違うなよ。

 そこを間違ったら、逆にみゆうを苦しめることになるんだから。

 伊吹は浮かれていた自分の気持ちを戒めた。

 しかし、伊吹がみゆうを好きな気持ちは変わらない。

 本気で好きな相手が毎日そばにいて、しかもその子と結ばれるのが最終目的なのだ。

 そんな荒業は本物の俳優でも難しいだろう。

 それを伊吹はやるのだ。

 いや、やらなければならないのだ。
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