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誰かイケメン達を止めてくれませんか!!.26

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 みゆうが家に帰ると、今日はすばるくんが来ていた。

「遅かったね、どこか行ってたの?」

「ちょっと友達のところに行ってたの」

「え、友だちってもしかして男?」

 まるで彼氏が彼女を問い詰めているようになってきている。

「同じ図書委員の子だよ。ただの友達だから」

 みゆうは、なんの言い訳をしてるのか、訳が分からなくなる。

「僕というものがありながら、他の男のところに行くなんて許さない」

 そこまで好いてもらえるのは、嬉しくないといったら嘘になる。

 だけど、これは恐らくあの妄想日記のせいなのだ。

「ゴメン。気をつけるね」

「分かってくれればいいんだ。こっちにおいで、僕の可愛いハニー」

 この場は丸く収めなければいけない。

 みゆうはすばるの言いなりになった。

「ねえ、この間の話、真剣に考えてくれた?」

「う、うん。考えてるよ。だけど、大事なことだから、もう少し時間が欲しいな」

 とにかく今は時間を稼がなければならない。

「そうだよね。でも、僕は信じてるよ。みゆうちゃんとの明るい未来を」

 みゆうは顔を引きつらせながら笑うしかなかった。



 時間切れになってすばるが帰ると、みゆうは押し入れの探索に取り掛かった。

 中学から高校になったとき、教科書やノートの類はほとんど捨ててしまった。

 だから、入っているとすれば、卒業アルバムが入っている段ボール箱の可能性が高い。

 みゆうは押し入れの中に頭を突っ込むと、一番奥にある段ボール箱を引っ張り出した。

 恐る恐るふたを開けてみる。

 その箱には卒業アルバム、卒業証書、あとは美術の授業で作った作品や絵が入っていた。

 やっぱりあんな日記なんて捨てちゃったよね。

 みゆうは得意だった美術で受賞した絵を取り出した。

 すると、その下に豪華な装丁のカギ付きの日記帳が姿を現した。

「あ、あった~!!」

 そうだ、この日記帳はその装丁が気に入って初めて入った雑貨屋さんで衝動買いしたんだった。

 捨てようと思ったんだけど、書いた内容よりも見た目の可愛さからどうしても捨てることができなかったのだった。

 かぎ付きなのに肝心のカギは無くならないようにひもで括りつけられていた。

 意味ないじゃん。

 だけど、鍵が無くなっていたら、それはそれでまたひと仕事なので、とりあえずよしとする。

 それよりも、今これを開いて自分で見るべきだろうか。

 もし、これまでに起こったことがこの日記のとおりなら、これから起こることも全て分かってしまうということだ。

 自分で書いたとはいえ、中一の頃の話だ。
 
 3年前に書いた日記の内容など、全て覚えているはずがない。

 その証拠に、伊吹に言われるまで妄想日記の存在自体忘れていたのだから。

 しかし、明日伊吹と読み始めたものの、その内容がとても他人に見せられるものでなかった場合、取り返しのつかないことになる。

 みゆうは鍵を開けるとページをめくった。



『今日は学校から帰るとアイドルの鮫島すばるくんが部屋にいた。すばるくんはみゆうをデートに誘ってくれた。デートの行先は若者に人気のドーナツショップだった。二人は手を繋いで長い行列に並んだ。当然周りにはあっという間に人だかりが出来てしまう。するとすばるくんはみゆうの手を引っ張ってその取り巻きから抜け出した。二人はそのまま走って走って、近くの公園で一休みした。ゆっくりできなかったことを申し訳なく思ったすばるくんは、近くの自販機でココアを買ってきてくれた。二人はベンチに腰掛けて一緒にココアを飲んだ。そこでも目ざといファンに見つかり、すばるくんはみゆうに別れを告げた。』

 次のページもその次のページも、これまでみゆうが実際に体験したことそのままだった。

 日記の内容はどんどんエスカレートし、ついにプロポーズの段階まってやったきた。

 これを自分が書いていたのかと思うと眩暈がしてくる。

 しかし、この先が問題だ。

 みゆうは勇気を出してページをめくった。

『7人のイケメンたちからのアプローチはいよいよ激しさを増してきた。そして、最近では日替わりでやってきていた彼らが鉢合わせするという、更なる混乱が巻き起こるようになってしまった。そう、イケメンたちが、私を取り合うのだ。嬉しすぎるし、贅沢すぎるけれど、もうなんだか無茶苦茶な状況になっている。みんなイケメンで自分が一番だと思ってる。だから、なぜ自分を選ばないのかと私は責められるのだ。もう、できることなら全員と結婚したい。そうだ、そうしよう。全員と結婚して日替わりで全員と会えばいいんだ。なんて訳にはいかないか…。結婚したら子供が出来るかもしれないし。そしたら、誰の子か分かんなくなちゃうし。まあ、それでも彼らがいいっていうんならその方法もありだけど。プライドが高い彼らのことだから、それは無理だろうな』

 な、なんだこれは。

 中学生というか、小学生レベルの発想にみゆうは頭を抱える。

 こんなことがこれから自分の身に起こるのだ。

 今でも精一杯なのに。

 みゆうはさらにページをめくった。

『今日は奇跡の様な日だ。困り果てた私を陰ながら見守ってくれている人がいた。ちゃんと現実にいる人だ。私はその存在にずっと気づかなかった。でも、その人は困った私の相談に熱心にのってくれた。そのうえその人は私のことを好きだって言ってくれた。そして、私はその人と付き合ってみることにした。しかし、イケメン達はそのことを許さなかった。自分たちの方がどう考えてもその男より優れている。なぜ、俺たちを選ばないのかと私は詰め寄られた。そこで私は思わず言ってしまった。「だって、私、その人のことあなたたちより愛してるから」と。だけど、そんな言葉だけではイケメン達は諦めてくれなかった。なら、愛している証拠を見せろと言ってきた。愛している証拠?そんなのどうすれば証明できるんだろう。私は悩んだ。するとイケメン集団の中でもリーダー的存在の藤堂光くんが言った。「俺たちより先に、その男と結ばれたなら君のことは諦めよう。だけど、君が俺たちの方に先に落ちたら俺たちのうちの誰かと結婚してもらう。これでどうかな?」私の意思など完全に無視した無茶苦茶な提案だけれど、自分に自信があるイケメン達は納得したようだ。「じゃあ、今日から一ヶ月の間、俺たちも全力で君を落としにかかるから、相手の男にもちゃんとそのことを伝えるんだよ。分かったね、ハニー」
私は仕方なく光くんの提案を彼に伝えた。しかし、彼と私はまだ付き合い始めたばかり。まだ手もつないでいない。それなのにいきなり結ばれろなんて…。困ったな』

 みゆうはそこまで読んでゆっくりと日記を閉じた。

 こ、これは…、もしかしなくても相手の男の子って伊吹のことだよね。

 う、うそ…。

 これを伊吹に見せるの?

 いやいやいやいや…、無理でしょ。

 だけどな…、ほっといてもどうせこの通りになるんだもんな。

 みゆうはため息をつくとその日記帳をカバンの中に押し込んだ。
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