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それでも俺が好きだと言ってみろ.94

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「面接の時にお前のことを見かけたんだよ」

「それで?」

「それだけだ」

「それだけって・・・」

 桜庭は本当のことが言いたくないために、最小限の言葉しか言わないため、和香には全く理解できない。



「だから、お前のことを見て・・・、その・・・、気に入ったんだ」

 桜庭は和香から目を逸らすと、明後日の方向を向いた。



「それって、もしかして、一目惚れってことですか!」

「知らん、もう、この話は終わりだ!これ以上何か言ったら別れる!!」

 自分の弱みを見せることを極度に嫌う桜庭にとって、これは拷問に近いことなのだろう。



「分かりました」

 だが、あれだけ悪態をついていた桜庭が自分に一目ぼれだったという事実だけで、和香にとっては十分すぎるご褒美だ。

 これ以上何かを聞く必要などない。

 和香は黙ったままパンをほおばったが、その頬はゆるんだままだった。

 桜庭はそんな雰囲気から何とか脱出しようと、話を変えた。



「それにしても、俺のあることないこと三村さんに吹き込んだ奴は誰だろうな・・・。まあ、あいつしかいないんだけどな・・・。今日の昼休みに吐かせてやる」

 さすがに朝の短い時間でそれ以上深い話をしている時間は無く、二人は急いで支度をすませるとマンションを出たのだった。



 昼休み、桜庭は外に出る時、和香だけに分かるよう小さくウインクを投げてよこした。

 そんな予想外の行動に咄嗟に反応出来るはずもなく、和香はまるでキューピッドにされる様にハートを射抜かれてしまうのだった。



 バタンと体を机に投げ出した和香に、隣の猪俣は特に驚く様子はない。

 なぜなら、仮眠は和香の習慣だったからで、まさかこんな風に仮眠が役に立つときがくるとは・・・。

 寝たふりをしたまま、和香の頬は緩みっぱなしだった。



 一方、ランチに出た三人はいつもの定食屋で、日替わりランチをお腹に納めていた。

「早乙女、俺、竹内とつき合うことにした」

「ゴホッゴホッ、な、なんだ突然!!」

 早乙女は口の中のものを派手に噴き出した。



「あら、おめでとう」
 
 植松は至って冷静に祝いの言葉をくれた。



「で、お前に聞きたいことがある」

「な、なんだよ?」

「お前だろ、三村さんに、俺の滅茶苦茶な情報流したの」



「ええ~っと、滅茶苦茶って言われても~」

「誤魔化すんじゃない!和香から、全部聞いたぞ。だいたいこんな小さな会社でバレないはずないだろうが!」

「いやあ、多少大げさに言った方が、三村さんも真剣にお前のこと考えてくれるかなぁ~って。俺の親心だよ?」



「そのせいで、俺と和香はえらく長い間、お互いのこと誤解して、おまけにあいつもう少しで会社辞めるところだったんだぞ!」

「そ、そんなこと知らないよ~。俺はお前のためを思って言っただけなんだからさぁ~。なあ、信じてくれよ~」

「そうだとしても、内容がひどすぎるだろう。俺の人格が疑われたじゃないか」

「・・・ゴメン」

 やけに素直に謝ったが、こいつがちゃんと反省するとは到底思えない。



「お前、罰として丸刈りな。今日仕事終わったら早速床屋に連れて行ってやる」

「ええ~、酷いよ。それじゃ、俺のパンクな服装と全然合わないじゃん」

「バカ野郎、俺はもっとひどい目に遭うところだったんだよ。それですむんだから、素直に従え!」

「ううっ・・・、植松~助けて~」

「自業自得」

 冷たく言い放たれ、早乙女は項垂れた。



「よし、決まりな。俺様の寛大な心に免じて、この程度の罰で許してやることをありがたく思え!」

 早乙女はすっかり凹んだ様子で植松に助けを求めたが、「ちゃんと償いなさい」と言い放たれ、さらに落ち込むのだった。
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