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それでも俺が好きだと言ってみろ.85
しおりを挟む和香は咄嗟にスマホを掴むとトイレに飛び込んで鍵をかけた。
「そんなところにいつまで入ってられると思うの?僕は諦めないからね!」
真は興奮した様子で言い放った。
誰に助けを求めるべきだろう?
確かに今の真の精神状態はおかしい。
だけど、やっぱり警察沙汰なんかにはしたくない。
それに、この状況を全て説明できる知人なんていない。
早乙女も植松も猪俣もプライベートの連絡先は知らない。
こうなったら、一番望みのなさそうな桜庭しか連絡できる人物はいない。
和香は希望のないその番号に電話をかけた。
「もしもし」
数回のコールのあと桜庭が出たのだ。
絶対に出るはずはないと思っていた。
「た、助けてください・・・、お願いします」
「どうした?なにがあった」
和香の声色から只ならぬ雰囲気を感じたのだろう、桜庭の声も急にピリッとした緊張感が走る。
「ま、まあ君が・・・、急に押しかけてきて・・・、言うことを聞くまで帰らないって・・・」
「お前は、今どこにいるんだ」
「トイレに閉じこもってます」
「分かった、すぐ行く」
え、本当!?
桜庭の言葉が、行動が、そのどちらもが信じられない。
なぜ、私なんかのために?
こんな深夜にもかかわらず来てくれるの?
どれだけ疑り深くなっているのかと思うけれど、確かに桜庭が言った言葉も実際に彼がここに来るまでは信じることが出来ない。
しかし、数十分後にはそれが本当だと証明された。
和香の部屋のチャイムが鳴り、真が玄関のドアを開けたようだ。
「一体どうなってるんだ・・・?お前は見かけによらず、この間は俺のことを殴って、今度は立てこもりかよ」
「すみませんね、ご足労いただいて。和香ちゃんに、僕と一緒にあなたの所に行こうって、いくら言っても言うことを聞かないもんですから」
真はさっきよりは声も落ち着いているが、まだ通常の精神状態ではないのだろう。
「和香ちゃん、桜庭さんが来てくれたよ。ほら、出ておいで」
助けを求めた手前、出ない訳にはいかないが、一体これからどうなるかと思うと、ドアを開ける手がひどく重く感じられる。
トイレから出ると、真の横には確かに桜庭の姿があった。
それだけで、和香は涙が溢れて、それこそ決壊が切れた様に止まらなくなった。
泣いている場合じゃないのに・・・。
ちゃんと桜庭さんに話をしなくちゃいけないのに。
「それじゃ、どういう結果になったかは、また明日報告してもらうから、僕はこれで」
真はそう言うと、スタスタと玄関に向かって歩いて行き、本当に出て行ってしまった。
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