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それでも俺が好きだと言ってみろ.81

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「でも、すっかり元気そうで、安心しました」

 植松も嬉しそうだ。

「もうね、色々一気に片付けちゃったの。やっぱり仕事がしたくって、試しに受けた面接が通って、実は来月から託児施設付きの会社で働くことになってるの」

「へえ、さすが伊沢さん!転んでもただでは起きないですね」

 早乙女も加勢する。



「どんな仕事なんですか?」

 その声の主は、なんと桜庭だった。

 伊沢を囲む輪の外側で様子を伺っていた和香は、桜庭の表情を見ようと身を乗り出した。



「もちろんゲノム解析よ」

「会社はどこなんですか?」

「ゲノムサイエンス研究所よ!」

「ええっ!!」



 みんなが一斉に声をあげたのも無理はない。

 ゲノムサイエンス研究所は、ゲノム解析でも常に最先端を走っている研究者憧れの会社なのだ。

 規模もヘルシーライフラボとは桁が違う。



「やっぱり伊沢さんは凄いですね」

 桜庭は羨望の眼差しで伊沢のことを見つめる。



 自分の前では決して見せない表情に、和香の心は激しく騒めいた。

 ひとしきり伊沢との会話を楽しんだ皆はそれぞれの業務に戻っていった。

 しかし、桜庭だけはいつまでも伊沢のそばを離れない。

 和香はどうしても二人の会話が気になって、探し物をしているふりをして自席にとどまっていた。



「じゃあ、今夜」

 そんな言葉を残して、伊沢はオフィスを出て行った。



 それを見送る桜庭の切なそうな表情が、和香の胸を締め付ける。

 やっぱり、まだ、伊沢さんのことが大好きなんだな・・・。

 あらためて桜庭の想いを目の当たりにし、想像していた以上にショックを受けた。

 それにしても、今まではあまり自分から積極的に動かなかった桜庭が、どうして急に行動に出たのか、それは分からずじまいだった。



 昼休み、桜庭たちはいつもの様に三人連れ立って外に出た。

 きっと、伊沢のことが話題に上るだろう。

 桜庭と伊沢が二人で話していた詳細までは、さすがに聞き取れなかった。

 でも、どうしても知りたい・・・。



 和香は、もう一度早乙女に助けを求めることにした。

 オフィスに戻ってきた桜庭たちが通り過ぎるとき、さり気なく早乙女に視線を送ると、勘の良い早乙女は和香の「何か用」といった表情で立ち止まってくれた。



「あの、ちょっと」

「ああ、この間貸した本のことだね」

 などと、早乙女は猪俣にも不審がられない理由を口走りながら、人気のない場所に移動してくれた。



「あの・・・」

「分かってる。いいよ今夜空いてるから」

 恐ろしいくらい察しが良い。



「度々すみません・・・」

「いいから、いいから。じゃあ、またこの間のお店で」

「はい、お願いします」

 程なく昼休みが終了し、二人はそれぞれの作業場へと向かった。
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