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それでも俺が好きだと言ってみろ.76

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「その後も悲惨でね~。伊沢さんあの通り、仕事大好き人間だろう?寿退社なんてあり得なくて、妊娠してからも働き続けちゃってさ・・・、結局出産予定日の直前まで働いてたもんな~。もう、あの頃の宗理の顔、見てられなかったな~」

「・・・」

 桜庭の気持ちを考えると、和香は何も言うことが出来なかった。



「・・・で、宗理の病気が始まったのは、ちょうど伊沢さんが妊娠したころからだ」

「・・・えっ!」

 暗黙の了解で、もちろん早乙女もそのことは知っているだろうとは思っていた。

 だけど、それを口に出すことはないと勝手に思い込んでいた。



「しばらくは出産と子育てに集中するって言って、辞めたのに、今回の一件であっという間に帰って来ちゃって・・・。もう、宗理は伊沢さんに振り回されっぱなしの人生だよ・・・。いい加減、諦められたら楽になるのにな」

「・・・伊沢さんは、桜庭さんの気持ちには気づいてないんですか?」

「それがまた罪作りでさ~。伊沢さん、宗理のこと弟みたいに思ってるんだよね~」

「そっちですか~」



「そう、そうなんだよ~。いっそのこと、全然興味ないタイプだったらよかったんだけど、何でも実の弟に似てるとか言ってさ~、残酷だよね~」

「なかなか込み入った事情があるんですね・・・」

「まあ、あの雰囲気見てれば、感じるもんあるでしょ?」

「・・・はあ」

 見てるだけじゃなくて、桜庭と実際に対峙することの多い和香としては、やっと合点がいったと言える。



「竹内さんも、あんまり感情移入しない方がいいよ。どうしたって、宗理が自分の気持ちに向き合うしかないんだから」

「・・・はい、そうですね」

 そんなこと無理に決まってるのに、この場ではそう答えるしかなかった。



「ところで、もしかして宗理のアザの理由知ってる?」

 早乙女の鋭いアンテナが和香の信号を捕らえたようだ。

 自分ばかり聞きたいことを聞いて、言いたくないことは言わないというのはフェアじゃないと思った。



「実は・・・、その、言いにくいんですが、私の元カレがやったんです」

「ええっ、まさかの展開!」

 さすがの早乙女もそういう展開は予想してなかったらしい。



「あの、桜庭さんには言わないでくださいね」

「分かってるって」

 それが不安だからこうして念押ししてるのだが・・・。

 早乙女のついうっかりを止めることは難しいだろう。

 自分だけ無傷でいようなんて虫がいいのだから、その時は桜庭に罵倒されればいいのだ。



 和香のお腹がいっぱいになり、早乙女がいい感じに酔っぱらったところでお開きになった。

 早乙女は和香がお金を出そうとするのを、歓迎会の代わりだからと言って受け取らなかった。

 和香は礼を言って早乙女と別れた。



 色んな事が頭ん中をグルグルと巡る。

 聞いてしまったせいで、余計に考えることが増えてしまった。



「感情移入しないほうがいい、か・・・」

 こうやって考えているだけで、結局は何も行動していない。

 それ以前に、自分は桜庭に何を求めるというのだろうか。
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