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それでも俺が好きだと言ってみろ.71
しおりを挟む翌日の月曜日、仕事が終わると桜庭からスマホにメッセージが届いた。
『見舞いに行ったら、その足でうちに来い』とあった。
『分かりました』と返し、伊沢の家に向かった。
桜庭は植松を通じて和香が見舞いに行くことを伊沢に連絡したらしい。
思ったことは確実にやり遂げるという、執念だけは素晴らしいと思う。
ただ、その内容に問題があるだけで・・・。
和香は高級なマンションのエントランスで、教えられた部屋番号を押した。
『はい』
「あの・・・、竹内です」
『どうぞ、入って』
セキュリティが解除され、和香はようやく建物の中に入ることが出来た。
さすが、大学教授ともなると、こういうところに住んでるんだな~、などと、ついキョロキョロしてしまう。
部屋に入ると、ご主人と赤ちゃんが出迎えてくれた。
「あの・・・、竹内と申します。伊沢さんには本当にお世話になっています」
「そんな、かしこまらないで。どうぞ入って」
「お邪魔します」
伊沢さんはまだ体調がすぐれないらしく、寝室で横になっているとのことだった。
「起きない方がいいみたいだから、寝室なんかで申し訳ないけど」
夫の静男は寝室のドアを開けると、丸椅子を持ってきてくれた。
こんな素敵で優しそうな人が不倫なんて・・・。
伊沢さんは綺麗で優秀な女性なのに。
「どうも・・・、あ、これつまらないものですが」
和香は静男に手土産を渡すと、寝室に入った。
「伊沢さん・・・、体調はどうですか?」
「ええ・・・、なんだか思うようにいかないわね」
食欲もないのだろうか・・・。
伊沢はすっかり痩せて、顔色もあまり良くない。
「横になったままで・・・」
起き上がろうとする伊沢に和香は言った。
「ごめんね・・・、じゃあお言葉に甘えて」
余程つらいのか、伊沢は再びベッドに身体を横たえた。
「すみません、私みたいな新人が代表で来てしまって・・・」
「ううん、早乙女君たちだと、私、つい、いいところ見せようとしちゃうから・・・。多分、みんなもそれが分かってるんだと思う」
「・・・そう言っていただけると、少し気が楽になります」
「竹内さんは、ゲノム解析に随分熱心なんだってね」
「えっ・・・、は、はい!」
「三村さんが、頼もしい新人が二人も入ってくれたって喜んでたわ」
「そ、そんな・・・。猪俣君は優秀ですけど、私の方はやる気が暴走してるだけです」
「竹内さんって、面白いこと言うのね」
伊沢が少し笑顔を見せた。
「いえ、もう本当に、皆さんについて行くので精一杯です」
「いいわね、何だか輝いて見える」
伊沢は寂し気に言った。
そんないいもんじゃない・・・。
実際の和香はもう仕事どころじゃないのだから。
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