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それでも俺が好きだと言ってみろ.56

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 しかし和香の心を弄ぶかのように、その週はずっと桜庭からお呼びがかかることはなかった。

 やはり早く終われる日は、他のセフレの融通がきくのだろうか・・・。



 自分の様に年齢的には成人していても、セックスの方は子ども同然の女なんかより、そっちの方が成熟している女性の方が、桜庭の欲求をより満たしてくれるだろうから。

 桜庭に誘われなければ、せっかく希望の仕事に就けたのだから、その勉強をすればいいのに、家に置いてある専門書のページは中々開けない。



 職場に行って仕事が与えられれば、やはりやりがいがあって、のめり込むことが出来る。

 だが、こうして一人で家にいると、桜庭と過ごした時間の事や、今桜庭はどうしているのだろうか、などということを考えて不毛な時間を過ごしてしまう。



 せめて仕事くらい桜庭に二流と言われないよう、頑張ればいいのに・・・。

 自分で自分が嫌になる。



 だけど、本当はセフレのおこぼれじゃなくて、自分のことを見て欲しいと思っている。

 だったら、もっと自分磨きをするべきなのだ。

 自分の本心を受け入れられないせいで、こうして無駄に時間が過ぎていく。



 そんな毎夜を過ごし、今日はついに金曜の夜だ。

 真とも別れ、桜庭には用なし扱いで、和香の心は宙ぶらりんのままだ。



 唯一ましになったことといえば、この有り余る時間を利用して、猪俣を見習い、昨日は自分で弁当を作ってみた。

 今週は夕食も出来合いの総菜ではなく、自分で作ったものを食べるようにした。

 ちゃんとした生活を送ることで、イライラが減って来るのだと、当たり前のことを実感する。



 そんなことをしても、和香と桜庭の関係は何も進展しない。

 だけど、本来この状態が普通なのだ。

 桜庭のことはあってはならないことで、それを期待することなど、せっかく整った生活のリズムをくずし、おまけに気持ちは不安定になるだけだ。



 期待しちゃいけない。

 桜庭が自分を求めてくれることなんて・・・、本当に当てが無くなった時だけなんだから。

 そしてそんな和香の心を見透かした様に、スマホの画面に桜庭の名前が映し出された。



「今から来い」

「分かりました」

 返信のメッセージを打つ指が少し震えた。

 そのくらい和香はこの時を待ち望んでいた。



 今は午後の十時だ・・・。

 ひょっとしたら終電がなくなって、また泊まっていけと言われるかもしれない。

 こんな嬉しいことはない。

 和香は言わてもいないのに、着替えをカバンに詰め込むと、大急ぎで家を飛び出した。



「入れよ」

 ほぼ一週間ぶりに桜庭の部屋に入った。



 職場では毎日顔を合わせてはいるけれど、今はもうほとんど一人で作業をするため、桜庭の顔を見られるのは、朝のミーティングの時と、昼休み、そして帰宅時にオフィスから出ていくときだけだった。

 たまにオフィス内ですれ違っても、会話は一切ない。

 早乙女さんや植松さんは、猪俣と一緒にいるときなど、世間話をしたりしてコミュニケーションをとってくれるが、桜庭はそういうことは全くしない。

 だから、本当に一週間ぶりに、ちゃんと顔を見た気がする。
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