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それでも俺が好きだと言ってみろ.53

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 和香はこの期に及んで、自分は本当にバカだと思った。

 そこまでする必要があるのだろうかと。

 しかし、桜庭に言われたことはどうしてもやらなければと思ってしまうのだ。



 和香は自然を装って真の隣に腰をおろした。

 この映画が終わるまでは空気の様にそこにいることにした。

 映画が終わると、真は固まった身体をう~んと伸ばした。

 和香は何気ない風を装い、真に身体をくっつけると甘えた様にその肩に頭をもたれさせた。

 それだけで十分だ。



「ベッド行こうか」

 真は和香の意を汲んでそう言った。

「・・・うん」

 和香は少し恥じらった様に答えた。

 真が寝室に向かうのを見届けると、和香はすかさずスマホを手にし、録画機能をONにした。



「こ、これはどういうこと!!」

 先に寝室に入った真が声を震わせていた。

 いつもコンドームが入れてある引き出しを開けたまま、真は固まっていた。



「な、なに・・・?」

 和香は真に歩み寄り、真が凝視している引き出しを覗き込んだ。



「あっ・・・」

 そこには、桜庭が置いていったジェルと封の切られたコンドームの袋が数えきれない程捨てられていた。

 ゴミ箱の中のものはもちろん捨てた。

 しかし、それが入っていた袋にまで気が回らなかった。



「ねえ、和香ちゃん!」

 真は和香に鋭い眼差しを向けた。

「そ、それは・・・」

 桜庭とのことを話さなければならなくなった。

 だけど、どこまで話せば・・・。

 これだけの数を使ったとなれば、もう隠し通せないだろう・・・。



「あの人なの?」

 真は苦々しい表情を向けた。

「・・・全部話すから・・・、こっちに来て」



 和香はさっきまでくつろいでいたソファに移動した。

 向かい合うより隣同士の方が面と向かわなくてすむから。

 ソファに座ったものの、真は一言も言葉を発しない。



「入社してすぐに所長さんに頼まれたの・・・。あの人の相手をしてもらえないかって。直接言われたわけじゃないけど、それが出来ないならクビっていう意味だってわかった」

「何を・・・頼まれたの?」

「上司の男の人、桜庭さんっていうんだけど・・・、あの人・・・、その・・・、セックス依存症なんだって」

「えっ・・・」

 真は驚愕と同時に嫌悪の表情を浮かべた。



「それで・・・、それを、その条件を受け入れたの?」

「・・・うん」

「どうして!仕事なんて他にいくらでもあるじゃない!!」

 真の言うことはもっともだ。

「まあ君はいいよ!成績優秀で・・・、希望した会社に正社員で入れたんだもん。・・・だけど、私はそんなに優秀じゃない。・・・これを逃したら、もうゲノム解析の仕事には一生就けないかもしれないって思ったの!!」
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