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それでも俺が好きだと言ってみろ.52

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 それなのに、こんなに自分のことを大切に思ってくれる真を裏切って、関係を終わらせるなんて大ばか者のすることだ。



 頭ではそう分かっている。

 しかし、それとは裏腹に、心はどんどん桜庭の方に傾いて行っている。



 もし薫に相談したら、絶対に真とは別れるなと言われるだろう。

 自分の親友がそんな状況ならきっとそう言うだろうから。

 だけど、いざそこに身を置いてみると、そう簡単にはいかないのだ。

 それは日々嫌というほど実感させられている。



「今日は、久しぶりにまあ君の好きな煮込みハンバーグ作ってあげる」

「ほんと?楽しみだなぁ~」

 和香の言葉を信じた真は、すっかりリラックスしてテレビを見始めた。



 何とか信じてもらえたようだ。

 和香はキッチンに立つと夕食を作り始めた。

 しかし、その頭の中では桜庭から出された宿題のことでいっぱいだった。



 真とのセックスの様子を撮影してくる。

 しかも、私がイッているところを撮らなければならない。

 そんな無理難題・・・。

 和香は頭を振ると、ハンバーグづくりを再開した。



「おいしい?」

「うん、おいしい!和香ちゃんの手作りの料理食べるの久しぶりだな~」

「そうだね、お互い忙しかったもんね」

 和香からすれば白々しい会話でしかないが、真は心から久しぶりの二人の時間を楽しんでいるようだ。



「仕事の方はまだ大変なの?」

「来週からは、随分楽になりそう」

「そっか、よかったね。まだ、仕事も完全に覚えてないのに、そんな勢いで仕事が増えたら倒れちゃうよね」

「ほんとだよ」

 さらに桜庭のことがあって、本当に倒れる寸前なのだけれど。



「まあ君の方は、仕事慣れた?」

「いやぁ、一人前になるにはまだまだ。でも、やりがいがあるから、頑張れるよ」

「そっか、よかったね」



 真みたいな男の子は、真面目で、将来も安泰そうで、親に紹介したら一番喜ばれるタイプだろう。

 そうだというのに、なぜ自分は何の未来も見いだせない桜庭との関係の方を優先させようとしているのだろう。



 確かに今の仕事を続けるためではあるけれど。

 もう、多分、それ以上の感情を自分は持ってしまっている。

 こんな不毛なこといくら続けても仕方ないのに。

 和香は、料理を口に運びながら、そんなことをグルグル考えていた。



 食器を片付け、リビングに戻ると、真は映画に夢中になっていた。

 真とは会うたびに必ずセックスするわけではない。

 しかし、今日は久しぶりだ。



 二人のセックスはだいたいいつも、どちらからともなく自然な流れで行われる。

 桜庭を引き合いに出すとめちゃくちゃになるが、あんな風に、どちらか一人が主導権を握ることはない。



 だけど今日はどうしてもセックスをしなければならない。

 それをいつものように自然な流れで行わなければならない。

 しかも自分で自分を盗撮しなければならないのだ。
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