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それでも俺が好きだと言ってみろ.50

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「これからあのヘタレ男に会うんだな」

「・・・はい」

 もう一々訂正するのも面倒だ。



「約束は忘れてないな」

「はい・・・」

 と言っても、自信はないけれど。



「飯食ったら帰れ」

「・・・はい」

「お前は、はい、しか言えないのか」

「そんなことはありませんけど・・・」

 それ以外の事を言えば、面倒が増えるだけだから、などとは口が裂けても言えない。



「つまんねえ女・・・。ある意味、お前たちはお似合いだな」

「・・・・・・」

 その理由はひどいものだが、お似合いと言われたら喜ぶべきなのに、今はむしろ不快感さえ感じてしまう。

 こんな状態で真に会って、しかもセックスをするなんて考えられない。



「ごちそうさまでした。それじゃあ、失礼します」

「ああ、映像楽しみにしてるからな」



 その内容はともかく、桜庭に楽しみだなんて言われたことなど初めてのことだ。

 その言葉だけで和香は嬉しくなってしまうのだから困ったものだ。

 帰り道、和香の顔は緩みっぱなしだった。

 これから真との修羅場が待っているというのに。



 真は午後二時位に和香のアパートに来る予定になっている。

 和香の心は不思議なくらい静かで、もう自分の気持ちは決まっているのだと自覚せざるをえなかった。



 しかし、真は別れるつもりはないという。

 そして、桜庭から出されている宿題もある。

 それが和香を悩ませていた。



 洗濯機のスイッチを入れると、ハーブティーを入れた。

 さっき桜庭の家で遅い朝ごはんを食べたばかりで、お昼はとても食べられそうになかったから。



 これから彼氏である真と会うというのに、ついさっきまで桜庭の家で桜庭が作ってくれた朝食を食べていたなんて・・・。

 どう考えたっておかしいことに決まっている。

 だから、もうどうやってこの関係を真に説明すればいいのか見当もつかなくて、和香はぶっつけ本番にかけるしかなかった。



 真の出方次第だと。

 チャイムが鳴る。

 真がやってきたのだ。

 覗き窓で確認し玄関を開けた。



「やあ・・・」

 真は少し強張った表情のまま無理に笑顔を作った。

「・・・うん、・・・どうぞ」

 和香は何と答えていいか分からず、おかしな返事をしてしまった。



 真は和香の部屋に来た時の定位置である二人掛けのソファの左側に座った。

 いつもならその隣に座るのだが、それさえもためらってしまうほど、和香の気持ちは真から遠のいている。

 しかし、そんな天変地異のようなことが起こっていることなど知る由もない真に対して、あまりにいつもと違う態度をとるのは気が引けげ、つい隣に座ってしまった。
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