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それでも俺が好きだと言ってみろ.44

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 猪俣は少々不満げだったが、久しぶりの自作のお弁当をほおばるうち、その顔は笑顔に包まれていった。



 平和だな~。

 入社早々、仕事でもプライベートでも修羅場だらけの自分と違い、猪俣はあまりに健全だ。

 こういう人が一人でもいてくれてよかった。
 
 とにかくこの会社はおかしな人が多すぎて疲れる。

 和香はコンビニ弁当を平らげると、いつもの様に机に突っ伏して仮眠をとった。



 午後の仕事も滞りなく進み、定時には終わらなかったものの夕食の出前を挟み、夜の十時前に今日の目標数に達した。

 皆、先週のことを考えればその日のうちに帰宅できるだけマシだと、安堵の言葉を口にした。



 三村に見送られ、散り散りに帰っていった。

 和香も猪俣に別れを告げ、家路を急いだ。



 ここからが問題だ・・・。

 今日は果たして桜庭はいつもの場所にいるだろうか。

 それともすでに植松と一緒に桜庭の家に向かっているだろうか。



 その曲がり角を曲がれば分かることを、わざわざ考える必要などないのに、考えずにはいられない。

 交差点にさしかかり、角を曲がった。

 いつもの電信柱に人影は無かった。



 それでもそこに近づくまではもしかしたらという気持ちがあった。

 しかしいよいよその場所にたどり着いても、やはり桜庭の姿はなかった。



 安堵とともに、言い知れない虚無感に襲われた。

 これは一体どういう感情なんだろう。

 和香は、混乱した気持ちのまま帰宅した。



 早く帰れて嬉しいはずなのに・・・、今日の桜庭の相手はいったい誰なのかと思うと、居てもたっても居られない。

 植松とは限らない。

 三村さんは他にもセフレがいると言っていた。



 桜庭はセックス依存だ。
 
 だから、必ず毎晩誰かを抱くだろう。

 そうであれば、今まさに桜庭は誰かを抱いているのだ。



 あの手で、あの唇で愛撫し、熱い彼自身で奥の奥まで貫くのだ。

 自分以外の誰かを・・・。

 恋人でも何でもないのに・・・、セフレですらないのに・・・、自分は本当にどうしてしまったんだろう。



 和香は風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。

 和香の指導を頼まれたはずの桜庭が、仕事のことで和香に接してきたのは最初のニ、三日だけだった。

 それからは結局マニュアルと三村さん頼りで、何とか仕事をこなしてきた。

 だから、夜の相手をするとき以外、社内で桜庭が和香に話しかけることは皆無だった。



 仕事では完全に放置され、夜には激しく求められる。

 そのギャップが余りに大きくて、和香の気持ちがついていけないのだ。



 昨日の朝まで、桜庭がすぐ横で確かに寝息を立てていた。

 和香は、少しだけ桜庭の香りが残っている様な気がして、彼が眠っていた場所に顔を埋めた。

 胸が苦しい・・・。

 和香は、きっといい夢は見れないだろうと思いながら目を閉じた。



 増員と関連会社の手助けのおかげで、残業は日に日に減っていった。
 
 金曜日にはほぼ定時に帰ることが出来、土曜も通常通り休みになった。
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