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それでも俺が好きだと言ってみろ.41
しおりを挟む「腹減ったな・・・、お前料理上手いのか?」
桜庭は混乱する和香の気持ちになどかまうことなく自分の欲求を口にした。
和香にとっては緊急事態であっても、桜庭にとっては完全に他人事なのだろう。
「お口に合うか分かりませんが・・・、作ります」
時刻は午前十一時。
遅めの朝食というよりは、もう昼食の時間だ。
「パスタでいいですか?何か好き嫌いは?」
真があんな風に去っていったというのに、桜庭と普通に会話をしていることが信じられない。
自分がそんな人間だと認めたくないけれど、真を失うかもしれないということが今はそんなに重要なことではなくなっている。
仕事、そしてこの歪な桜庭との関係が和香の心のほとんどを占めている。
そこに真の存在はほとんどないと言っていい。
汚い人間であることを認めるのは辛い。
でも、もはや自分は違う人間になってしまったかのように、中身が入れ替わってしまったのだ。
「好き嫌いはない。ああ、でもパスタだったら、長めに茹ででくれ。硬いのは嫌いなんだ」
「分かりました」
和香はトマト缶を取り出し、パスタを茹でた。
ほとんど会話の無い昼食を済ませると、桜庭は帰り支度を始めた。
「ごちそうさん」
それだけ言って桜庭は和香のアパートを出ていった。
泣いてしまうかと思っていたのに、まったくそんな気持ちにならない自分自身に戸惑う。
自分と真の関係は本当におままごとの様なものだったのかもしれない。
一人取り残された部屋で、和香は自分の気持ちがこんなにも分からなかったことが、これまでの人生であっただろうかと思いを巡らせていた。
たっぷり眠って随分疲れが取れた。
とりあえず溜まっている家事を済ませよう。
和香は洗濯機を回すと、近くのスーパーに買い物に出かけた。
真とは大学で知り合った。
同じ学部同じ専攻で同じ授業を取ることも多く、自然と親しくなった。
真から告白され、そのまま付き合いが始まった。
和香は男性とつき合ったのは真が初めてだった。
もちろんそれまでにも好きになった人はいたが、告白することはなく、だたの片思いで終わった。
真のことはどちらかと言えば、熱烈に好きというより一緒にいてホッとするという関係だった。
つき合うのが初めての和香にには、それが普通なのかどうかすら分からなかった。
セックスしたのも、真が初めてだ。
だから、誰かと比較することも出来ない。
できるとしたら・・・、桜庭しかいない・・・。
だが、さすがの和香でも桜庭との関係がいびつなものであることくらいは分かっている。
はぁ~・・・。
口から出るのは深いため息ばかりだ・・・。
「このまま別れるのかな・・・」
そう呟いてみても、真に対する申し訳なさは湧き上がってくるのに、別れるということにほとんど抵抗感がない。
もう自分は完全におかしくなってしまったのだ。
きっとそうだ・・・。
やけを起こすわけじゃないけれど、和香はもう諦めた。
仕事と、そしていつまで続くのか分からないけれど、桜庭との関係を続けていく。
今の自分の生きる道はそれしかないのだと。
真には和香から何かを言える立場じゃない。
向こうからアクションがあればそれにはちゃんと答えよう。
だけど、もうこれ以上真とはつき合えない。
それだけは確かなことだった。
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