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それでも俺が好きだと言ってみろ.35

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 桜庭の家に行った時も、和香の家に来た時も、寝るときは必ず別々だった。



 今日は何もかもがいつもと違う・・・。

 だけど、その理由を尋ねるわけにはいかないだろう。

 それだけは、言われなくてもなぜかわかってしまう。



「・・・はい」

 和香は、狭いシングルベッドの端っこに何とか体を横たえた。

 出来るだけ桜庭の体に触れないように気をつけた。



「もっとこっちへ来い」

「えっ・・・」

 桜庭は和香の身体を自分に密着させた。

 しかし、それでも和香はそれについて何も尋ねることは出来なかった。



 こんなんじゃ、ドキドキしすぎて眠れないよ・・・。

 何しろ、セックスが終われば上司と部下という関係以外に、桜庭と和香の関係性を現す言葉はない。

 もし他にあるとすれば男と女であることくらいだ。



 どちらにしても、リラックスなどできるはずがない。

 あんなに忙しかった一日を終え、ぐっすり眠って明日に備えたいのに・・・。

 これではまともに眠ることなど、どう考えても無理だ。



 和香は、明日が土曜日であることを思い出し、たとえ今日はほとんど眠れなかったとしても、その次の日曜はぐっすり眠れるのだと、自分に言い聞かせた。

 今日は眠れなくても仕方ない・・・。



 そんな風に割り切ったおかげだろうか、絶対に眠れないと思っていたのが嘘の様に、和香はあっという間に眠りに落ちた。

 桜庭が横に寝ていることなどすっかり意識から飛んでいた和香が、寝返りを打つと、当たり前だが桜庭の体に触れた。

 桜庭の体の温もりを感じて、ようやく夕べの状況を思い出した和香は、そっと元の場所に体を戻そうとした。



「伊沢さん・・・」

 桜庭の口からハッキリとその名前が発せられた。

 寝ぼけていた和香の目は一瞬で覚めた。



 今日の桜庭の理解不能な行動は全て伊沢さんのせいだったのだ。

 桜庭は伊沢さんのことが間違いなく好きだ。

 そして、今日は伊沢さんの旦那さんが会社にやって来て、あんな風にイチャイチャしているところを見せつけて帰っていった。



 桜庭はその場にいなかったが、そんなに広くないオフィスだ。

 きっと、あの声は漏れ聞こえていたことだろう。

 幸せそうな二人の会話を桜庭はどんな思いで聞いていたのだろうか。



 その結果が今日のおかしな行動のすべてだったのだ。

 きっと、桜庭は和香のことなど見ていなかったのだ。
 
 ずっと伊沢さんを抱いているつもりだったのだ。



 それに気付いてしまった和香は、あり得ないことに涙が溢れていた。

 嘘、何泣いてるの、私・・・。

 私の彼氏は真で、桜庭さんはただのセフレ、いやセフレ以下の関係なのに・・・。

 ただのセフレ以下でいればよかったのに・・・。



 どうして桜庭さんが伊沢さんのことを好きだとか、植松さんとの関係はどうなってるだとか、余計なことまで考えてしまうんだろう。

 もう、和香は本当に訳が分からなくなって、頭からタオルケットをかぶると無理やり目を閉じた。



「相変わらずだな、起きろ」

 桜庭の声で目が覚めた。

 ああ、眠ってたんだ。

 絶対に眠れないと思っていた。

 よりにもよって真夜中にあんなことに気づいてしまったのだから。
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