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それでも俺が好きだと言ってみろ.32

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 やはり桜庭と伊沢の間には何かあるのだ。

 和香はこれまで感じていた違和感がいよいよ本物であると確信した。

 しかしそれが一体どういうものなのか、和香から探る手段は思いつかない。



 いや、それ以前にそんなことに首を突っ込んでどうするつもりなのだ。

 上司である桜庭と肉体関係があるだけでもややこしいのに、その桜庭とその元上司である伊沢との関係を探ろうとするなんて・・・。

 どう考えても自分の手には余る仕事だ。



 今やるべきことは、一人前に仕事をこなせるようになることだ。

 だが、頭でいくらそう思ってみても、人というのはそう簡単に知りたい欲求を抑えられるものではない。

 和香は焦らずにその時を待つことにした。

 幸い、この山の様な仕事が片付くまでは伊沢が毎日やってくるのだ。

 そのうち何かしら二人の関係を知るチャンスが訪れるだろう・・・。

 入社する前には全く想像もしなかった、おかしな展開に振り回されながらも、和香はこの会社にいる限り桜庭や植松、早乙女といった個性的な人達と一緒に仕事をしていかなければならないのだ。



 今は色んなことが分からなくて当然だ。

 とりあえず、流れに身を任せてみよう。

 そう思うと少しだけ気が楽になった。



 それでも、仕事は減るわけではなく、結局その日も深夜零時まで残業が続いた。

 昨日と同じように、和香と猪俣は一番最後にオフィスを出た。



 これが期待なのか何なのか分からないけれど、本当の気持ちを言えば、植松のところに行くくらいなら、自分を選んで欲しいと思ってしまっている。

 全く信じたくないけれど、どちらを選ぶのかと問われれば、そうなるのだから仕方ない。



 猪俣と別れ一人自宅に向かう。

 いつもの場所に桜庭はいるだろうか。

 曲がり角を曲がる前、緊張感が走る。

 そして、いつも桜庭が立っている電信柱の方に目をやった。



 人影が見えた瞬間、和香の心には言い知れない喜びが広がった。

 何で・・・。

 自分で自分の気持ちが分からない。

 あんなことをされると分かっているのに・・・、嬉しいなんて・・・。

 自分は一体どうなってしまったのだろう。

 そんなことを考えながらも歩みを止めるわけにもいかず、ついにその場所にさしかかった。



「おい、今日もお前の家だ」

「・・・はい」

 和香は小さな声で答えた。



 無言のまま和香の家にたどり着き、当たり前の様に桜庭は和香の部屋に入った。

「脱げ」

 今日の桜庭はやけに疲れた様子だ。

「はい・・・」

 和香は言われるままに服を脱いだ。



「ベッドへ行け」

「はい」

 何だかいつもと様子が違う。

 和香がベッドに横たわると、桜庭は無言のまま着ているものを脱ぎ始めた。

 えっ・・・、いつも服は着たままなのに・・・。
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