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それでも俺が好きだと言ってみろ.10

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 次の日も、いつもどおり朝のミーティングが行われた。

 昨日より検体の数が随分多い。

「今日は、えらく数が多いので大変だと思いますが、間違いがないよう、よろしくお願いします」

 三村の話が終わると桜庭が和香のところにやってきた。



「竹内、今日は昨日の倍はやれよ」

「わっ、分かりました」

「ただ早くやればいいわけじゃいからな。ミスはするなよ」

「・・・はい」



 早く、そして間違いなく・・・、それが出来れば文句はないだろう。

 だけど、和香はまだ一昨日入社したばかりなのだ。

 みんなと同じようにはできるはずもないのに・・・。



 しかし、桜庭にやれと言われればYESと答えるしかなかった。

 和香は緊張しながらも、一つ一つの作業に間違いがないかチェックしながら、仕事を進めた。

 そんな調子で気を張り詰めていたため、昼休みになる頃にはすっかり疲れ果ててしまった。



 ベテラン社員たちは、うまく気分転換するために、それぞれお気に入りのお店を確保しているらしく、みな外食だ。

 社に残されたのは、若手二人だけだ。



「竹内さん、大丈夫?」

 隣の席で弁当を広げている猪俣が話しかけて来た。

 彼の弁当はどう見ても手作りで、朝、コンビニ弁当を買ってきた和香は少し恥ずかしくなる。



「・・・うん、なんとか。でも、ずっと緊張してるから、疲れちゃって・・・」

「そうだよね~、僕も最初の一ヶ月は肩こりと腰痛が酷かったな~」

「ええ~っ、猪俣君みたいな優秀な人でも緊張するの?」



 桜庭に言わせれば猪俣は一流大学を卒業して、正社員として入社しているエリートだ。

「そりゃ、大学の研究とは違って、一つ一つの検体にちゃんとお客さんがお金を払ってるんだから、やっぱり力が入っちゃうよ」

「・・・そ、そうだよね」



 猪俣君でも緊張するんだから、自分が緊張するのは当たり前だと和香は少しホッとした。

 だからといって気を抜いていいわけではない。

 自分は猪俣君よりも、もっと緊張感を持たなけらばならないのだと自覚する。



 はぁ~、午前中だけでもこんなに疲れたのに、午後から持つかな~。

 和香は弁当を片付けた机の上に突っ伏した。



 ガヤガヤという声で目を覚ました和香は、すっかり眠ってしまっていたことに気づく。

 猪俣君は黙って和香を寝かせておいてくれたらしい。

 少し眠ったことで疲れた脳も元気を取り戻した。



「お、新人のお二人さんは仲良くお弁当?」

「・・・は、はいっ」

 早乙女が声をかけてきた。



 こう言っては失礼だが、早乙女倫也という男は、どう見ても研究者と名乗るには程遠い風貌をしている。

 仕事中は白衣を羽織っているからまだましだが、出勤時は金髪にピアス、ライダースジャケットに細身のパンツといういでたちのため、ほとんどパンクバンドのそれと変わりない。

 そんな早乙女が和香のことをやけにじっくりと観察しているような視線を感じる。



「どう、竹内君はこの仕事好き?」

「は、はいっ!念願のゲノム解析が出来て、感無量です」

「そう、それはよかった」

 早乙女は含みのある言葉を残して、そのまま立ち去った。
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